『★大凶≦大吉★(リョ海)』
1月1日、謹賀新年―――
年が明けて、やっくりとお雑煮を食べていると、携帯から着信音が鳴った。
画面を見るとそこには………【菊丸】の文字。
ある意味、一番苦手な先輩の名前を見た瞬間、居留守を使ってしまいたい気分に陥る。
しかし、根が真面目な海堂の事、そんな事が出来る筈も無く…不吉な思いを抱きつつも電話に出た。
「………はい…。」
充分間が空いた事が、彼の不本意さを訴えていた。
「あ、海堂?あのねあのね、あ、そうそう明けましておめっと☆ じゃなくて、今日10時に青春駅前集合だから! 遅れんなよ~! んじゃ、後でね♪」
「えっ! あ……切れた…。」
通話口からは電話の切れたプープープーという音だけが響いていた。
海堂が何か口を開く前に、その電話は一方的に用件だけを告げ切られてしまった。
何が何やら意味が分からず、呆然と電話を見つめる海堂。
結局分かったのは、10時に青春駅に行けばいいという事だけ…。
何があるのかとか、何をするのかとか…詳しい事が分からないままだ。
勝手に電話してきて、勝手に話しを決められたことに些か憤慨を感じずにはいられないが、そこは先輩からの命令。
従わない訳にはいかない……。
「はぁ…。」
一つ溜息を吐くと、壁に掛けてある時刻を確認する。
今の時刻は、9時30分を指している。
ここから青春駅前まで徒歩20分。走れば10分と考えて……。
もう一度溜息を吐く。
「チッ…。」
もう少し半句連絡するっていう事が頭に無いのか…と考えつつ。
これが桃城や後輩の越前だったら一発お見舞いする所だったと思う海堂であった。
今更何を言っても無駄だ…と片付けると、手早く着替え出かける用意をする。
そして、一言「出掛けてくる。」と家族に言付けると、青春駅に向け走り出した。
家を出て10分。青春台駅前が見えてきた。
そこには、自分に電話を掛けてきた菊丸以外に手塚部長、大石副部長、不二先輩に河村先輩、乾先輩に桃城の奴。
そして…越前。
青学レギュラー陣の面々がズラッと勢揃いしていた。
「………………。」
菊丸先輩だけでは無いと思ってはいたが…まさか全員集合だったとは…。
脱力しつつ、その輪に加わる。
「おそーいっ!海堂が最後だぞ~。」
1人ブツブツ文句を言うのは菊丸先輩。
確かに、いつもは遅刻してくる桃城や越前よりも遅いってのには納得いかないが…。
それもこれも、ギリギリに電話を掛けてきた菊丸の所為な訳で…;
理不尽さを感じつつも、先輩は絶対という考えの海堂は、一言誤る。
「…スンマセン…。」
「分かればよろしい!」
いたく満足げな菊丸の言い様に溜息しか出てこない。
「それじゃあ、みんなそろった事だし…神社に向けて、しゅっぱーつ進行!」
大きな掛け声を上げると、ハイテンションで先頭を歩いていく菊丸。
それにやれやれといった態度を取りつつ、ぞろぞろと続く三年生陣。
そして菊丸同様にテンション良く付いていく桃城。
それを見やりまたしても溜息が出るのを止められない。
ふしゅ~と息を吐いていると、隣から声が掛かる。
「ねぇ。」
すでに先輩達と友に歩いていたと思っていただけに内心驚いた。
見ると越前がすぐ隣に佇み、こちらを見上げていた。
「……越前…。」
「海堂先輩って、よく菊丸先輩に遊ばれてるよね…。」
なんだかちょっと拗ねた様な越前の物言いが気になりながらも、言われた内容にカチンと来る。
「…何が言いてぇ…?」
額に青筋を浮かべながら聞き返すと、はぁと何なら諦めた様な表情を浮かべる。
「…そうやって鈍感だから、みんなに遊ばれるんスよ…。…こっちの身にもなって欲しいよ…。」
「は?」
ブツブツと最後はぼやきの様になってしまった越前に、首を傾げる。
そんな俺をジーッと見たかと思うと、また溜息を一つ吐く越前。
「…もういいス。まあ、それが海堂先輩のいい所だしね…。それより、俺達置いてかれてるよ? また怒鳴られる前に行きましょ。」
「あ、おい、越前っ!」
言いたい事だけ言って歩いていく越前に納得いかないまでも、また菊丸にどやされるのは不本意なので、後を付いて行く事にする。
程なくして神社の境内に到着した。
「うひゃ~やっぱ凄い人~!!」
見渡す限りの人の山に興奮した様に菊丸がはしゃぐ。
「だな。ちょつと早めに出たけど、意味無かったな。」
「うん。まあ、みんな考える事は同じ…だつて事だね。」
菊丸に続き、大石や不二がそう言えば、乾がまたしても確率を出そうとする。
「東京都市内の人口……。」
「まあまあまあっ! とにかくお参りにいきましょうよ! ね?」
それを寸前の所で桃城が遮るのに成功し、その場は収まった。
「そうだな。それじゃ、逸れない様に油断せずに行こう…。」
「はは…。」
部長のいつもの掛け声を空笑いで聞きつつ、全員その場を後にした。
並ぶ事数十分―――
やつとの事で到着した一行は、それぞれに財布から10円、100円、5円と思い思いの額を出し、賽銭箱に投げ入れる所で…。
「おれ、いっちばーん!」
「あ、汚いっスよ英二先輩っ! 俺が一番狙ってたんスよっ!!」
「へへーん。こんなんやったモン勝ちだろ~♪」
またまた菊丸・桃城コンビが先に投げたのはどっちだ…とぎゃあぎゃあと遣り合っている。
それをおろおろ見詰める奴、楽しそうに見る奴、溜息を吐く奴。そして今にも怒り出しそうな…部長…。
本当にバラバラだ。
こっちに害が無きゃ別にどっちでもいい俺は、そんなのを無視してお参りをする事にする。
が、ここでもまたハイテンションな奴等は黙っていない。
「あーっ!何抜け駆けしようとしてんだよ、マムシ~!!」
「マムシって言うんじゃねぇっ……。」
「そうだ、そうだ~! 先輩を差し置いてなんて、後輩としてどうなんだにゃ~。」
「…………;」
なんでこんなに自分に絡むのかコイツ等は…。
「お前達…境内外周したいのか…。」
「フフ…そうらしいね。」
腕組みをし、額に誰が見ても分かる青筋を立てた部長が2人の前に立ち止まっていた。
その効果は抜群だつたらしく、「「ひぃ~。」」と奇妙な悲鳴を上げると、菊丸・桃城両名は大石の後ろに隠れた。
「まったく…。」
そんな2人に呆れたのか、部長はそのまま前を向きお参りする。
それを確認し、全員で横並びになり、それぞれ手を合わせお参りする。
みんなに習い、俺も同様にお参りした。
じつくり祈っていると、服の裾を引っ張る感覚がする。
そちらを見るとやはりさっき同様に越前が佇んでいた。
「…なんだ?」
「…ねぇ、何をそんなに熱心に祈ってんの?」
「……関係ねぇだろ…。」
「…またそんな事言うし…。まだまだだね。」
ムスッと怒った様な越前にちょっと戸惑う。
いつもの事とは言え、新年早々喧嘩をするのも憚れる。
「…悪ぃ…。」
「…ん? 別にいいけど。俺は『薫とずっと一緒に居たい』って祈っといたから。」
「…っ///」
越前はいつも真顔でそんな事を言う。
俺はコイツのこんな所が苦手だつたりするんだ。
何も言えずに居ると、こんな時ばかり大人びた表情をする越前が、そっと手を引っ張る。
「っ!越前っ!!」
誰かに見られたらと、慌てる俺を余所に、越前は何処吹く風だ。
「こんなに人居るんだから、誰も見てないって。それより行こ。」
引っ張って行く先を見れば、何時の間に終わったのか先輩達がおみくじ売り場を目指し歩いていた。
「………………。」
言いたい事は色々あったが、結局口から出る事無くおとなしく付いていくしかなかった。
おみくじ売りばでは、すでにお金を払った先輩達がおみくじを引いていた。
「後は、海堂と越前だけだよ。」
「早く、早く! みんなで一斉に開けるんだから☆」
売り場に着く前に手を離していた俺達は、不二や菊丸先輩に促され、それぞれおみくじを引いた。
「それじゃあ、いくよ~♪せーのっ!!」
ジャーンっと音が響きそうな所で全員が全員、バッとおみくじを開き、見合う。
一瞬間があり、喜び合う声が聞こえた。
「やった~♪ 俺、大吉だよん☆」
「はは、良かったな英二。」
「そういう大石もね♪」
菊丸は大石に後ろから飛び乗り、大吉であった事を喜んでいた。
そういう大石もちゃっかり大吉を引いている。
「はは、俺もだ。」
「ふふ、僕もだよ。当然だけどね。」
まいったな~という感じで、はにかみながら言う河村とは対照的に、クスッとまるで違ったらどうなっていたか…と怖くなる物言いの不二。
そんな2人もお互いに喜んでいるのは見て取れる。
「まあ、こんなもんだな…。」
「ああ、だが大吉を引く確率を考えると…これもまた必然という事か…。」
そんな2人はしみじみと呟き合っている訳で…。
乾なんかは恒例のデータノートに書き込んでいる始末だ。
「うひょ~♪ 当たっちまった、ラッキー☆」
「こんなんで喜ぶなんて、まだまだスね、桃先輩。」
「なんだと~。」
どちらが先輩なんだと言いたくなるコンビの、これまた恒例な言い合い。
そんな言葉も耳に入らないくらい俺は、自分のおみくじを凝視していた。
「………………。」
そんな海堂の様子に気付いた越前が声を掛けてきた。
「どしたんスか、海堂先輩?」
「………。」
越前の声にも反応出来ずに固まったままでいると、グイッと俺の手を引っ張り越前が覗き込んできた。
隠す間もなく、それは越前の目に映る。
「え……と…。」
俺のおみくじを見て、あの越前までもが絶句してしまった。
そりゃそうだよな…。
そうこうしていたら、今度はあのお騒がせコンビの1人、菊丸がこちらを気にして覗きに来た。
「うにゃ? 海堂に越前、どったの?」
この人に知られたら全員に知られるのも時間の問題だ。
それだけは避けたいと、今まで固まっていたにも関わらず、バッとその時ばかりは素早くおみくじを隠す。
しかし、動体視力では青学で適うものが居ない菊丸の事、そんな海堂を見逃す訳もなく、素早くその紙に書かれた文字を読み取った。
「うわ~♪海堂ってばすごー! 大凶なんて俺、初めて見ちゃった♪」
何故か嬉しそうにそう報告する菊丸。
しかも、その声は大音量で…青学陣に筒抜けだった。
一歩遅かった…と俺同様、越前までガックリと項垂れていた。
菊丸の声に駆け寄ってきた一同は、ざわざわと思い思いに感想なんぞを述べていた。
「海堂…そうか…。まあ、何だ。そんな事も…ある…か…?」
「まあ…落ちこまないで。大凶だって…考えてみれば…良い事…じゃない…か?」
ハハッと空笑いでフォローともつかない言葉を投げかけてくる青学の良心2人。
言いたい事はなんとなく分かるが、今はそんな慰めが更に痛い。
「うひゃ~。マムシもついてねぇーな。ついてねぇーよ。」
「フフ…。大凶…かぁ。ちょっと中身に興味あるなぁ…。」
「そうだな。大吉に対して、大凶の当たる確率は…10万…いや100億分の1の確率か? いや、しかし、大凶自体作られている事にこそ、価値が在るな…。」
なにやら慰めなんだか、なんなんだか分からない2人に、またしてもデータ・データの乾先輩。
この人達をどうにかして欲しい…。
そして…。
「海堂。」
「…ス。」
「油断せずに行こう…。」
「……………。」
この人が一番分からねぇ…。
こんな事で落ち込むつもりはねぇが、やっぱり少しショックな事は隠せない。
大体俺1人だけってありえねぇだろ…。
しかも、今まで一度としてみた事の無い大凶って…。
ふしゅ~と溜息を吐いていると、今まで囃し立てたり心配していた皆が、一斉に俺の周りに集まりだした。
『何だ?』
首を傾げていると…全員で目を合わせ頷き合ったかと思うと、行き成り一斉に俺の服や袖に手を伸ばしてきた。
「え?」
目をパチパチさせて見ていると、へへっと笑った菊丸先輩がこんな事を言ってきた。
「大凶だからって気にすんな、薫ちゃん☆ 俺達が付いてるよん♪」
「そうそう、なんたって俺達全員が大吉なんだぜ~。」
「ああ、みんなで寄ればこんな運気なんてどうって事無いさ。」
「そうだよ。みんなの運気で大凶なんてナッシーングだ!」
「フフ。まあ、そういう事だね。」
「ああ、大吉で大凶を消せる確率100%と言っておくさ。」
「そういう事だ。」
「みたいっスよ。海堂先輩。」
全員が自分の為に、そんな事を考えてくれていたって事にジーンとしてしまう。
運が悪いのは生まれつきだと思うけど、こうして皆が居てくれたら…そんなの吹っ飛んでしまうんじゃないか…なんて都合良く考えてしまう。
ホント、自分は恵まれていると思う。
こんな仲間が居て、改めてそう感じた。
「…ありがとうス…。」
そんな俺の言葉に皆が笑顔を返してくれるのが、また嬉しい。
大凶だからってなんだ。そんなの吹っ飛ばしてやる!
そう心に決め、全員で俺の大凶おみくじを真ん中に木に縛った。
最後にもう一度俺は神社に向け、『今年も皆と一緒に居られますように…。』と願うのを忘れずに…。
今年もきっとよいことが待っているに違いない。
こうして俺の周りには大吉パワーを持っている皆が居るんだから―――――
~Å HAPPY NEW YEAR ~
― END ―
年が明けて、やっくりとお雑煮を食べていると、携帯から着信音が鳴った。
画面を見るとそこには………【菊丸】の文字。
ある意味、一番苦手な先輩の名前を見た瞬間、居留守を使ってしまいたい気分に陥る。
しかし、根が真面目な海堂の事、そんな事が出来る筈も無く…不吉な思いを抱きつつも電話に出た。
「………はい…。」
充分間が空いた事が、彼の不本意さを訴えていた。
「あ、海堂?あのねあのね、あ、そうそう明けましておめっと☆ じゃなくて、今日10時に青春駅前集合だから! 遅れんなよ~! んじゃ、後でね♪」
「えっ! あ……切れた…。」
通話口からは電話の切れたプープープーという音だけが響いていた。
海堂が何か口を開く前に、その電話は一方的に用件だけを告げ切られてしまった。
何が何やら意味が分からず、呆然と電話を見つめる海堂。
結局分かったのは、10時に青春駅に行けばいいという事だけ…。
何があるのかとか、何をするのかとか…詳しい事が分からないままだ。
勝手に電話してきて、勝手に話しを決められたことに些か憤慨を感じずにはいられないが、そこは先輩からの命令。
従わない訳にはいかない……。
「はぁ…。」
一つ溜息を吐くと、壁に掛けてある時刻を確認する。
今の時刻は、9時30分を指している。
ここから青春駅前まで徒歩20分。走れば10分と考えて……。
もう一度溜息を吐く。
「チッ…。」
もう少し半句連絡するっていう事が頭に無いのか…と考えつつ。
これが桃城や後輩の越前だったら一発お見舞いする所だったと思う海堂であった。
今更何を言っても無駄だ…と片付けると、手早く着替え出かける用意をする。
そして、一言「出掛けてくる。」と家族に言付けると、青春駅に向け走り出した。
家を出て10分。青春台駅前が見えてきた。
そこには、自分に電話を掛けてきた菊丸以外に手塚部長、大石副部長、不二先輩に河村先輩、乾先輩に桃城の奴。
そして…越前。
青学レギュラー陣の面々がズラッと勢揃いしていた。
「………………。」
菊丸先輩だけでは無いと思ってはいたが…まさか全員集合だったとは…。
脱力しつつ、その輪に加わる。
「おそーいっ!海堂が最後だぞ~。」
1人ブツブツ文句を言うのは菊丸先輩。
確かに、いつもは遅刻してくる桃城や越前よりも遅いってのには納得いかないが…。
それもこれも、ギリギリに電話を掛けてきた菊丸の所為な訳で…;
理不尽さを感じつつも、先輩は絶対という考えの海堂は、一言誤る。
「…スンマセン…。」
「分かればよろしい!」
いたく満足げな菊丸の言い様に溜息しか出てこない。
「それじゃあ、みんなそろった事だし…神社に向けて、しゅっぱーつ進行!」
大きな掛け声を上げると、ハイテンションで先頭を歩いていく菊丸。
それにやれやれといった態度を取りつつ、ぞろぞろと続く三年生陣。
そして菊丸同様にテンション良く付いていく桃城。
それを見やりまたしても溜息が出るのを止められない。
ふしゅ~と息を吐いていると、隣から声が掛かる。
「ねぇ。」
すでに先輩達と友に歩いていたと思っていただけに内心驚いた。
見ると越前がすぐ隣に佇み、こちらを見上げていた。
「……越前…。」
「海堂先輩って、よく菊丸先輩に遊ばれてるよね…。」
なんだかちょっと拗ねた様な越前の物言いが気になりながらも、言われた内容にカチンと来る。
「…何が言いてぇ…?」
額に青筋を浮かべながら聞き返すと、はぁと何なら諦めた様な表情を浮かべる。
「…そうやって鈍感だから、みんなに遊ばれるんスよ…。…こっちの身にもなって欲しいよ…。」
「は?」
ブツブツと最後はぼやきの様になってしまった越前に、首を傾げる。
そんな俺をジーッと見たかと思うと、また溜息を一つ吐く越前。
「…もういいス。まあ、それが海堂先輩のいい所だしね…。それより、俺達置いてかれてるよ? また怒鳴られる前に行きましょ。」
「あ、おい、越前っ!」
言いたい事だけ言って歩いていく越前に納得いかないまでも、また菊丸にどやされるのは不本意なので、後を付いて行く事にする。
程なくして神社の境内に到着した。
「うひゃ~やっぱ凄い人~!!」
見渡す限りの人の山に興奮した様に菊丸がはしゃぐ。
「だな。ちょつと早めに出たけど、意味無かったな。」
「うん。まあ、みんな考える事は同じ…だつて事だね。」
菊丸に続き、大石や不二がそう言えば、乾がまたしても確率を出そうとする。
「東京都市内の人口……。」
「まあまあまあっ! とにかくお参りにいきましょうよ! ね?」
それを寸前の所で桃城が遮るのに成功し、その場は収まった。
「そうだな。それじゃ、逸れない様に油断せずに行こう…。」
「はは…。」
部長のいつもの掛け声を空笑いで聞きつつ、全員その場を後にした。
並ぶ事数十分―――
やつとの事で到着した一行は、それぞれに財布から10円、100円、5円と思い思いの額を出し、賽銭箱に投げ入れる所で…。
「おれ、いっちばーん!」
「あ、汚いっスよ英二先輩っ! 俺が一番狙ってたんスよっ!!」
「へへーん。こんなんやったモン勝ちだろ~♪」
またまた菊丸・桃城コンビが先に投げたのはどっちだ…とぎゃあぎゃあと遣り合っている。
それをおろおろ見詰める奴、楽しそうに見る奴、溜息を吐く奴。そして今にも怒り出しそうな…部長…。
本当にバラバラだ。
こっちに害が無きゃ別にどっちでもいい俺は、そんなのを無視してお参りをする事にする。
が、ここでもまたハイテンションな奴等は黙っていない。
「あーっ!何抜け駆けしようとしてんだよ、マムシ~!!」
「マムシって言うんじゃねぇっ……。」
「そうだ、そうだ~! 先輩を差し置いてなんて、後輩としてどうなんだにゃ~。」
「…………;」
なんでこんなに自分に絡むのかコイツ等は…。
「お前達…境内外周したいのか…。」
「フフ…そうらしいね。」
腕組みをし、額に誰が見ても分かる青筋を立てた部長が2人の前に立ち止まっていた。
その効果は抜群だつたらしく、「「ひぃ~。」」と奇妙な悲鳴を上げると、菊丸・桃城両名は大石の後ろに隠れた。
「まったく…。」
そんな2人に呆れたのか、部長はそのまま前を向きお参りする。
それを確認し、全員で横並びになり、それぞれ手を合わせお参りする。
みんなに習い、俺も同様にお参りした。
じつくり祈っていると、服の裾を引っ張る感覚がする。
そちらを見るとやはりさっき同様に越前が佇んでいた。
「…なんだ?」
「…ねぇ、何をそんなに熱心に祈ってんの?」
「……関係ねぇだろ…。」
「…またそんな事言うし…。まだまだだね。」
ムスッと怒った様な越前にちょっと戸惑う。
いつもの事とは言え、新年早々喧嘩をするのも憚れる。
「…悪ぃ…。」
「…ん? 別にいいけど。俺は『薫とずっと一緒に居たい』って祈っといたから。」
「…っ///」
越前はいつも真顔でそんな事を言う。
俺はコイツのこんな所が苦手だつたりするんだ。
何も言えずに居ると、こんな時ばかり大人びた表情をする越前が、そっと手を引っ張る。
「っ!越前っ!!」
誰かに見られたらと、慌てる俺を余所に、越前は何処吹く風だ。
「こんなに人居るんだから、誰も見てないって。それより行こ。」
引っ張って行く先を見れば、何時の間に終わったのか先輩達がおみくじ売り場を目指し歩いていた。
「………………。」
言いたい事は色々あったが、結局口から出る事無くおとなしく付いていくしかなかった。
おみくじ売りばでは、すでにお金を払った先輩達がおみくじを引いていた。
「後は、海堂と越前だけだよ。」
「早く、早く! みんなで一斉に開けるんだから☆」
売り場に着く前に手を離していた俺達は、不二や菊丸先輩に促され、それぞれおみくじを引いた。
「それじゃあ、いくよ~♪せーのっ!!」
ジャーンっと音が響きそうな所で全員が全員、バッとおみくじを開き、見合う。
一瞬間があり、喜び合う声が聞こえた。
「やった~♪ 俺、大吉だよん☆」
「はは、良かったな英二。」
「そういう大石もね♪」
菊丸は大石に後ろから飛び乗り、大吉であった事を喜んでいた。
そういう大石もちゃっかり大吉を引いている。
「はは、俺もだ。」
「ふふ、僕もだよ。当然だけどね。」
まいったな~という感じで、はにかみながら言う河村とは対照的に、クスッとまるで違ったらどうなっていたか…と怖くなる物言いの不二。
そんな2人もお互いに喜んでいるのは見て取れる。
「まあ、こんなもんだな…。」
「ああ、だが大吉を引く確率を考えると…これもまた必然という事か…。」
そんな2人はしみじみと呟き合っている訳で…。
乾なんかは恒例のデータノートに書き込んでいる始末だ。
「うひょ~♪ 当たっちまった、ラッキー☆」
「こんなんで喜ぶなんて、まだまだスね、桃先輩。」
「なんだと~。」
どちらが先輩なんだと言いたくなるコンビの、これまた恒例な言い合い。
そんな言葉も耳に入らないくらい俺は、自分のおみくじを凝視していた。
「………………。」
そんな海堂の様子に気付いた越前が声を掛けてきた。
「どしたんスか、海堂先輩?」
「………。」
越前の声にも反応出来ずに固まったままでいると、グイッと俺の手を引っ張り越前が覗き込んできた。
隠す間もなく、それは越前の目に映る。
「え……と…。」
俺のおみくじを見て、あの越前までもが絶句してしまった。
そりゃそうだよな…。
そうこうしていたら、今度はあのお騒がせコンビの1人、菊丸がこちらを気にして覗きに来た。
「うにゃ? 海堂に越前、どったの?」
この人に知られたら全員に知られるのも時間の問題だ。
それだけは避けたいと、今まで固まっていたにも関わらず、バッとその時ばかりは素早くおみくじを隠す。
しかし、動体視力では青学で適うものが居ない菊丸の事、そんな海堂を見逃す訳もなく、素早くその紙に書かれた文字を読み取った。
「うわ~♪海堂ってばすごー! 大凶なんて俺、初めて見ちゃった♪」
何故か嬉しそうにそう報告する菊丸。
しかも、その声は大音量で…青学陣に筒抜けだった。
一歩遅かった…と俺同様、越前までガックリと項垂れていた。
菊丸の声に駆け寄ってきた一同は、ざわざわと思い思いに感想なんぞを述べていた。
「海堂…そうか…。まあ、何だ。そんな事も…ある…か…?」
「まあ…落ちこまないで。大凶だって…考えてみれば…良い事…じゃない…か?」
ハハッと空笑いでフォローともつかない言葉を投げかけてくる青学の良心2人。
言いたい事はなんとなく分かるが、今はそんな慰めが更に痛い。
「うひゃ~。マムシもついてねぇーな。ついてねぇーよ。」
「フフ…。大凶…かぁ。ちょっと中身に興味あるなぁ…。」
「そうだな。大吉に対して、大凶の当たる確率は…10万…いや100億分の1の確率か? いや、しかし、大凶自体作られている事にこそ、価値が在るな…。」
なにやら慰めなんだか、なんなんだか分からない2人に、またしてもデータ・データの乾先輩。
この人達をどうにかして欲しい…。
そして…。
「海堂。」
「…ス。」
「油断せずに行こう…。」
「……………。」
この人が一番分からねぇ…。
こんな事で落ち込むつもりはねぇが、やっぱり少しショックな事は隠せない。
大体俺1人だけってありえねぇだろ…。
しかも、今まで一度としてみた事の無い大凶って…。
ふしゅ~と溜息を吐いていると、今まで囃し立てたり心配していた皆が、一斉に俺の周りに集まりだした。
『何だ?』
首を傾げていると…全員で目を合わせ頷き合ったかと思うと、行き成り一斉に俺の服や袖に手を伸ばしてきた。
「え?」
目をパチパチさせて見ていると、へへっと笑った菊丸先輩がこんな事を言ってきた。
「大凶だからって気にすんな、薫ちゃん☆ 俺達が付いてるよん♪」
「そうそう、なんたって俺達全員が大吉なんだぜ~。」
「ああ、みんなで寄ればこんな運気なんてどうって事無いさ。」
「そうだよ。みんなの運気で大凶なんてナッシーングだ!」
「フフ。まあ、そういう事だね。」
「ああ、大吉で大凶を消せる確率100%と言っておくさ。」
「そういう事だ。」
「みたいっスよ。海堂先輩。」
全員が自分の為に、そんな事を考えてくれていたって事にジーンとしてしまう。
運が悪いのは生まれつきだと思うけど、こうして皆が居てくれたら…そんなの吹っ飛んでしまうんじゃないか…なんて都合良く考えてしまう。
ホント、自分は恵まれていると思う。
こんな仲間が居て、改めてそう感じた。
「…ありがとうス…。」
そんな俺の言葉に皆が笑顔を返してくれるのが、また嬉しい。
大凶だからってなんだ。そんなの吹っ飛ばしてやる!
そう心に決め、全員で俺の大凶おみくじを真ん中に木に縛った。
最後にもう一度俺は神社に向け、『今年も皆と一緒に居られますように…。』と願うのを忘れずに…。
今年もきっとよいことが待っているに違いない。
こうして俺の周りには大吉パワーを持っている皆が居るんだから―――――
~Å HAPPY NEW YEAR ~
― END ―
1/1ページ