『★Weak Point★(桃海)』
【 あなたの苦手なモノはなんですか? 】
久々の休日、桃城に誘われ買い物と言うなのデート(桃城が言っているだけで、海堂にそのつもりはさらさら無い)に出掛け街を歩いていると、意気なり呼び止められた。
「ねぇ、そこのカッコ良い2人組。ちょつといいかな?」
振り向くと、何かの取材なのかマイク片手に佇むリポーターもどきの女性が居た。
桃城と歩いていると、こういう声をよく掛けられる。
それは、海堂にとっては有難くも無い状況で…。
桃城も元が良い奴だから、こういうのを無碍にできない事が分かるからますますムカツク……。
それでなくても今日は朝からちょっと不機嫌だった海堂は、キッとその彼女を睨み付けた。
リポーターの彼女も声を掛けた片方に意気なり睨まれ、しかもその目のキツさに、一瞬息を呑むのが分かった。
それで引き下がるかと思ったが、相手も仕事だからかなかなか引かず、ターゲットを自分よりも話しかけやすい雰囲気の……まあ、実際そうなのだが…。桃城一人に変更すると、詰め寄っている。
そして、目をパチクリさせている桃城に何やら質問していた。
「俺っスか?」
「そう、ちょっと話いいかな?簡単に答えて欲しいの、いい?」
チラッとこっちを伺うのがまた腹立たしいが、桃城が目でちょい我慢しろよ…と言っているし、自分が聞かれている訳じゃないから仕方なく待つ事にした。
「チッ。早くしろ。」
「はいはい。」
桃城はそう言うと、リポーターに向き直り、「いいっスよ。」と笑顔を見せている。
ホント、人当たり良いってか…八方美人だよなコイツは…と溜息を吐きたくなった。
「それじゃあ、あなたの苦手なモノって何かある?」
「苦手なモノっスか?」
「そう。何か無いかな?」
「…………ん―。そうっスね。」
苦手なモノと言うのに対して、本気で悩む桃城。
いつも飄々としている曲者なコイツの苦手なモノ…というのが、何かちょっと気になる。
待つ事数十秒、桃城が言った。
「いや~やっぱ何も無いっスね―。しいて言えば、コイツのキツイ口調かな?」
親指を立て、桃城の奴がこっちを指しながら、んな事を言いやがった。
………苦手にしてたのか…。
んなそぶり一度も見せてねぇだろっ!
と聞きながらブスッとしていると、「じゃあ。」と言いながら桃城が戻ってきた。
「わりぃ。んじゃ、行こうぜ。」
「………口悪くて悪かったな。」
「へ? ああ、んなモン今更だろ?」
「……ふしゅ~。」
ニッと笑って言う桃城の腹に一発肘鉄を食らわす。
無防備だった桃城は、ウッと息を詰まらすと腹を押えて立ち止まっている。
それを無視し先に歩いていくと、回復した桃城が後ろからブツブツ文句を言いながら着いてきた。
俺の口がコイツの苦手なモノなのか…。なら、ますます言ってやると思いながらその日は終わっが……。
今、目の前にいる桃城の姿に……なんと声を掛けて良いのか分からず固まってしまう。
「………………。」
俺の目の前に居る桃城は、いつものヘラヘラした雰囲気でもなく、ましてや笑顔でもなく、耳を両手で押えるとその大きい身体を小さく丸め、縮こまっている。
その表情は、今にも死にそうで…こんな桃城の行動は初めて見た為、海堂はどうしていいか分からず、ただ目を点にして固まるしかなかった。
そうそれは、あのインタビューを受けた日から数日が経ったある日の事――――
その日は、午後から降った雨によりテニスコートが使えない為、部活もミーティングのみで終わった。
今、室内に居るのは、用事のある大石に代わり、鍵を預かった俺と、いつもは越前や菊丸と寄り道をしていくのだが、何故かどの誘いもことごとく断った桃城だけだった。
しかも、さっきから黙りこくって…いつもの雰囲気が無い桃城。
いつも煩く喋っている為、桃城が無口なのはいかにも変で、違和感がある。
その表情はなんだか暗く、一体どうしたんだ?と目を見張る。
「…………。」
「…………。」
室内に沈黙が続く……。
海堂にとっては今更沈黙は苦では無い物であるが、桃城が沈黙しているのが奇妙だった。
意を決して桃城に向き直ると、少し強めの口調で声を掛ける。
「おいっ! 桃……っ。」
俺の言葉と共に外がピカッと光ったかと思うと、ゴロゴロゴロ―っドーンっっ!!と間近で雷が落ちる音がした。
そして…それと同時に悲鳴じみた大きな声が海堂の鼓膜を直撃した。
「うわっ!わ―――――っっ!!!」
「………………。」
その声を上げたのが自分じゃないとすると、自動的にそれはもう一人のモノとなる訳で……。
海堂の目の前には、丸まっている物体が一つ……。
何が起こったか分からず、しばし沈黙と奇妙な雰囲気が辺りに漂った。
「………桃…城…?」
声を掛けるが、未だ桃城は耳から手を離そうとも、身体を起こそうともしない。
何がコイツをこんなにしているか分からず、ただ疑問符だけが幾つも浮かぶ海堂であった。
桃城から返る言葉も無い。
もしかしたら聞こえてないのでは? と今度は、もうちょっと大きな声で呼び掛ける。
「おいっ、聞いてるのか桃城っ!!」
それと同時にまたしてもピカッと光り、雷が鳴る。
「ヒッ!!」
これまた同じく桃城の身体が、ビクッと震えるのが分かった。
…………………。
これは…どういう事だ?
さっきと今。
どちらも共通する事と言えば、俺が呼び掛けた事。
しかし、そんな事で桃城がこんな風になるのは可笑しい。
じゃあ、何か……。
他に共通する事と言えば……。
雷が鳴った事?
………雷?
窓の外を見ると、未だ空がゴロゴロいっている。
そしてまた、ピカッと光った。
今度も近かったのか、ゴロゴロド――――ンッ!と物凄い音がした。
これには自分もちょっと驚いた。
そして、目の前の人物はと言うと…何故か自分にしがみついていたりする……。
しかも抱き付かれ、背中に回された手がギュッと何かに耐える様に握られていて、ちょっと痛い。
その様子に、今までの桃城の行動に対する原因を確信する。
つまるところ、【 雷が怖い 】という訳だ。
自分にしがみつく桃城を見下ろし、一つ溜息を吐く。
「……ふしゅ~。」
そして、今まで忘れていた先日のインタビュ―を思い出した。
【 あなたの苦手なモノは何ですか? 】
それに対して、こいつは何て答えたか………。
「おい。」
「……………。」
俺の呼び掛けに返る言葉は無い。
「おい、苦手なモンなんて無いんじなゃなかったのか?」
溜息混じりにそう言うと、またまた雷が鳴る。
桃城の身体がビクッと振るえ、ますます自分を抱く腕に力が入ってくる。
ちょい、苦しい…。
桃城の様子を見れば、目をギューッと瞑り、力一杯歯を食いしばっている姿が見えた。
そんな桃城の様子が、いつもの余裕っポイ顔でも、暖かな笑顔でも、喧嘩している時のブスくされた顔のどれでも無く、なんだか…ちょっぴり新鮮で、こんな顔もするのか……可愛いかも…なんて思ってしまった。
いつもは見られないそんな顔にほだされた訳ではないが、思わずその頭をギュッと抱き締めていた。
悔しいけど、こんな姿見せられたら…優しくしたくなっちまう。
俺らしくないなと思うけど、コイツもコイツらしくないから、お互い様って事にしておく。
こんな奴を可愛いなんて思う自分は、ちょっと終わってると思うが…今日だけは、大目に見よう。
そのまま、雷か終わるまで抱き合っていた。
桃城は「う~。」とか「わ――っ。」とかしか言わず、今の自分の状態が分かっているかさえ危うい。
仕方ないので、その背中をポンポンと叩き、落ち着かせてやる。
しかし、ここまで苦手とは……。
ある意味凄いなと感心してしまう海堂であった。
そうこうして雷も止み、雨も止んだ様だ。
そして、やっと桃城が動いた。
「…………。」
罰が悪いのか、身体を離すとポリポリと頬を掻きながら目線を彷徨わせている。
そんな桃城に溜息を一つ吐くと、壁に立て掛けてあったテニスバッグを肩に掛けて一言告げてから室内を出る。
「帰るぞ、早くしろ。」
それを受け桃城も慌てたように俺に続いた。
帰り道、互いに気まずくて無言が続く。
ほんと、今日は変な事が並ぶ。
「………苦手なモノねぇんじゃなかったのか…?」
「っ!!」
ボソッと呟けば、チッと舌を鳴らす音が聞こえた。
「………格好付けやがって。」
「……っ!!」
「バレる嘘付くな、バカ城。」
「………このっ!」
ボソボソ呟き桃城を見やると、ついに耐えられなくなったのか桃城が、キッと睨み付けてくる。
ジーッと見ていると、もう一度チッと舌を鳴らしたかと思うと怒鳴る様に声を荒げて来た。
「悪かったなっ! 人間、誰しも苦手なモンの一つや二つあんだろっ! あ―、そうだよっ俺は、雷が苦手だよっ! 悪いかっ!! たくっ、なんでこんな事になんだよっ…。ちくしょ~格好わりぃ~。」
一気に言いたい事を言った桃城は、みっとも無いとばかりに頭を抱えている。
言い終わるまで黙って聞いていたが、そんな桃城の様子に一つ溜息を吐く。
「たく…別に…。悪くねぇんじゃねぇのか…? 格好悪くても、それがお前だろ? なら、いいじゃねぇか。たくっ、つまらねぇ嘘付くんじゃねぇよ。……俺に…嘘付くな、バカ城っ…。」
最後は恥ずかしくてボソボソと喋ってしまう。
たくっ、あんな姿見せるコイツが悪いんだ。
だから、思ってもいなかった言葉まで言っちまった……。
たくっ、こっちのが格好悪いじゃねぇか…。
きっと顔が赤くなっているのが、頬の熱さから伝わった来る。
そんな顔を見られたくなくて背けていると…。
「海堂……。」
静かに桃城が呟く声が聞こえた。
なんだか居心地が悪くなって、すぐさま何か桃城が言う前に口を切った。
「大体、嘘付くならもっとマシなモンにしろっ。しかも、雷ごときで嘘付く方がバカなんだっ!」
「~~~~っ! このっマムシっ! 言いたい事言いやがってっ! 雷こどきって言うなっ、あんなんでも隠しておきてぇモンなんだよっ。それくらい格好付けさせろよっ!」
「だからっ、んな格好の付け方が可笑しいって言ってんだろっ!! 隠す事ねぇだろうがっ!!」
「んな事言ったって、この歳になって言えるかっ!」
「なんでだよっ、いいじゃねぇかっ! んな事気にする方がバカだろっ!」
売り言葉に買い言葉で、いつもの様に喧嘩しながら歩く。
ようやくいつもの調子に戻ってきたと感じた。
「っ! んなの、好きな奴の前じゃ格好付けてぇもんだろっ!!」
嘘偽りの無い桃城の瞳が俺を見据える。
それがなんだか悔しくなる。
「…………そんなん嬉しくねぇ…。隠される方が……嫌だ。」
「………海堂…。」
隠される事…すなわち秘密が有る事。
たかが苦手なモノ一つでも知らない事がある…って言うのがなんだか寂しいと思う。
ホント、なんか可笑しい俺。
そんな全部を知りたいとか知れる…なんて思わないが、少しでもコイツの事を知って居たいと思うのは悪い事では無い…筈だ。
素直にそれを口にすると、目の前の桃城の表情がいつもみたいな向日葵の様な笑顔に変わった。
そんな笑顔に見とれていると、ソッと肩に手が回されグイッと抱き寄せられた。
「っ、桃城っ!!」
「………ハハッ。なんか俺、愛されてる? メチャ、嬉しかったり…。」
「っ! 何言ってやがるっ!
んな事一言も言ってねぇだろっ!」
「照れんな、照れんなっ。いや~薫にこんなに想ってもらってるなんて知らなかったぜ♪」
「だからっ!違うってんだろっ!!」
いくら俺が違うと喚いても、一人自分の世界に入っちまった桃城はニヤケるばかりだ。
たくっ!なんだってコイツは自己解釈しやがるんだっ!
「でも、俺の事知りたかったんだろ?俺が嘘言って、ムカツイたんだろ?」
「っつ!!」
「ごめんな海堂。でも、あながち嘘じゃねぇんだぜ?」
「 ? 」
桃城が何を言いたいか分からない。
さっきまで自分の世界にトリップしてたってのに、今度は意味不明の言葉を言いながら俺を見て笑っている。
「お前のキツイ口…。」
「口?」
「そ。キツイ事いいながらも、本音をポロッと零すからさ…。嬉しくなり過ぎて心臓ドキドキしちまうから、ちょっと苦手…。な、嘘じゃねぇだろ?」
そう言いながら、俺の手を自分の心臓に当てる桃城。
手の平から伝わる桃城の鼓動に、カーッとますます顔が赤くなる。
「…っ!」
その心臓はドクドクと速く波打っている。
しかし、自分の心臓の方がそれよりも速くなっている様で、その音が聞かれないかと冷や冷やだ。
「へへ★ 薫ちゃん、顔赤いぜ?」
「っ!う、うるせぇっ!」
バッと桃城から離れ、そのまま早足で歩き出す。
そんな俺の態度に、ますます笑みを深めた桃城が付いて来るのが足音で分かった。
たくっ、ろくな事言わない奴だっ!
聞いているこっちが恥ずかしいっ!!
って…こいつに羞恥心を求める事の方が無謀なのかもしれないが…。
「なあなあ、薫っ!」
「っ! なんだよっ。」
「もうバレちまったから仕方ねぇからさ。今度雷鳴ったら、また抱き締めてくんねぇ? な?」
にこやかに笑いながらも、その中に不安そうな顔が見え隠れし、さっきの部室での事を思い出す。
「…………仕方ねぇから、受けてやる。」
「ハハッ。んじゃ、これからもよろしくな、薫!」
ボソッと呟けば、満面の笑みを向けて来る桃城。
それに溜息を吐きつつ、桃城の弱点を知れた事にちょっぴり優越感で嬉しいだなんて、コイツには言ってやらねぇ。
桃城の苦手が俺のキツイ口だってんなら、俺の苦手は…さしずめ『桃城の笑顔』になるのかもしれない。
この笑顔を向けられたら、なんでも許してやりたくなる上に、思いがけない本音を言わされちまう。
ホント、曲者だな…。
と、横を歩く桃城を見ながら思う海堂であったーーーー
ーENDー
久々の休日、桃城に誘われ買い物と言うなのデート(桃城が言っているだけで、海堂にそのつもりはさらさら無い)に出掛け街を歩いていると、意気なり呼び止められた。
「ねぇ、そこのカッコ良い2人組。ちょつといいかな?」
振り向くと、何かの取材なのかマイク片手に佇むリポーターもどきの女性が居た。
桃城と歩いていると、こういう声をよく掛けられる。
それは、海堂にとっては有難くも無い状況で…。
桃城も元が良い奴だから、こういうのを無碍にできない事が分かるからますますムカツク……。
それでなくても今日は朝からちょっと不機嫌だった海堂は、キッとその彼女を睨み付けた。
リポーターの彼女も声を掛けた片方に意気なり睨まれ、しかもその目のキツさに、一瞬息を呑むのが分かった。
それで引き下がるかと思ったが、相手も仕事だからかなかなか引かず、ターゲットを自分よりも話しかけやすい雰囲気の……まあ、実際そうなのだが…。桃城一人に変更すると、詰め寄っている。
そして、目をパチクリさせている桃城に何やら質問していた。
「俺っスか?」
「そう、ちょっと話いいかな?簡単に答えて欲しいの、いい?」
チラッとこっちを伺うのがまた腹立たしいが、桃城が目でちょい我慢しろよ…と言っているし、自分が聞かれている訳じゃないから仕方なく待つ事にした。
「チッ。早くしろ。」
「はいはい。」
桃城はそう言うと、リポーターに向き直り、「いいっスよ。」と笑顔を見せている。
ホント、人当たり良いってか…八方美人だよなコイツは…と溜息を吐きたくなった。
「それじゃあ、あなたの苦手なモノって何かある?」
「苦手なモノっスか?」
「そう。何か無いかな?」
「…………ん―。そうっスね。」
苦手なモノと言うのに対して、本気で悩む桃城。
いつも飄々としている曲者なコイツの苦手なモノ…というのが、何かちょっと気になる。
待つ事数十秒、桃城が言った。
「いや~やっぱ何も無いっスね―。しいて言えば、コイツのキツイ口調かな?」
親指を立て、桃城の奴がこっちを指しながら、んな事を言いやがった。
………苦手にしてたのか…。
んなそぶり一度も見せてねぇだろっ!
と聞きながらブスッとしていると、「じゃあ。」と言いながら桃城が戻ってきた。
「わりぃ。んじゃ、行こうぜ。」
「………口悪くて悪かったな。」
「へ? ああ、んなモン今更だろ?」
「……ふしゅ~。」
ニッと笑って言う桃城の腹に一発肘鉄を食らわす。
無防備だった桃城は、ウッと息を詰まらすと腹を押えて立ち止まっている。
それを無視し先に歩いていくと、回復した桃城が後ろからブツブツ文句を言いながら着いてきた。
俺の口がコイツの苦手なモノなのか…。なら、ますます言ってやると思いながらその日は終わっが……。
今、目の前にいる桃城の姿に……なんと声を掛けて良いのか分からず固まってしまう。
「………………。」
俺の目の前に居る桃城は、いつものヘラヘラした雰囲気でもなく、ましてや笑顔でもなく、耳を両手で押えるとその大きい身体を小さく丸め、縮こまっている。
その表情は、今にも死にそうで…こんな桃城の行動は初めて見た為、海堂はどうしていいか分からず、ただ目を点にして固まるしかなかった。
そうそれは、あのインタビューを受けた日から数日が経ったある日の事――――
その日は、午後から降った雨によりテニスコートが使えない為、部活もミーティングのみで終わった。
今、室内に居るのは、用事のある大石に代わり、鍵を預かった俺と、いつもは越前や菊丸と寄り道をしていくのだが、何故かどの誘いもことごとく断った桃城だけだった。
しかも、さっきから黙りこくって…いつもの雰囲気が無い桃城。
いつも煩く喋っている為、桃城が無口なのはいかにも変で、違和感がある。
その表情はなんだか暗く、一体どうしたんだ?と目を見張る。
「…………。」
「…………。」
室内に沈黙が続く……。
海堂にとっては今更沈黙は苦では無い物であるが、桃城が沈黙しているのが奇妙だった。
意を決して桃城に向き直ると、少し強めの口調で声を掛ける。
「おいっ! 桃……っ。」
俺の言葉と共に外がピカッと光ったかと思うと、ゴロゴロゴロ―っドーンっっ!!と間近で雷が落ちる音がした。
そして…それと同時に悲鳴じみた大きな声が海堂の鼓膜を直撃した。
「うわっ!わ―――――っっ!!!」
「………………。」
その声を上げたのが自分じゃないとすると、自動的にそれはもう一人のモノとなる訳で……。
海堂の目の前には、丸まっている物体が一つ……。
何が起こったか分からず、しばし沈黙と奇妙な雰囲気が辺りに漂った。
「………桃…城…?」
声を掛けるが、未だ桃城は耳から手を離そうとも、身体を起こそうともしない。
何がコイツをこんなにしているか分からず、ただ疑問符だけが幾つも浮かぶ海堂であった。
桃城から返る言葉も無い。
もしかしたら聞こえてないのでは? と今度は、もうちょっと大きな声で呼び掛ける。
「おいっ、聞いてるのか桃城っ!!」
それと同時にまたしてもピカッと光り、雷が鳴る。
「ヒッ!!」
これまた同じく桃城の身体が、ビクッと震えるのが分かった。
…………………。
これは…どういう事だ?
さっきと今。
どちらも共通する事と言えば、俺が呼び掛けた事。
しかし、そんな事で桃城がこんな風になるのは可笑しい。
じゃあ、何か……。
他に共通する事と言えば……。
雷が鳴った事?
………雷?
窓の外を見ると、未だ空がゴロゴロいっている。
そしてまた、ピカッと光った。
今度も近かったのか、ゴロゴロド――――ンッ!と物凄い音がした。
これには自分もちょっと驚いた。
そして、目の前の人物はと言うと…何故か自分にしがみついていたりする……。
しかも抱き付かれ、背中に回された手がギュッと何かに耐える様に握られていて、ちょっと痛い。
その様子に、今までの桃城の行動に対する原因を確信する。
つまるところ、【 雷が怖い 】という訳だ。
自分にしがみつく桃城を見下ろし、一つ溜息を吐く。
「……ふしゅ~。」
そして、今まで忘れていた先日のインタビュ―を思い出した。
【 あなたの苦手なモノは何ですか? 】
それに対して、こいつは何て答えたか………。
「おい。」
「……………。」
俺の呼び掛けに返る言葉は無い。
「おい、苦手なモンなんて無いんじなゃなかったのか?」
溜息混じりにそう言うと、またまた雷が鳴る。
桃城の身体がビクッと振るえ、ますます自分を抱く腕に力が入ってくる。
ちょい、苦しい…。
桃城の様子を見れば、目をギューッと瞑り、力一杯歯を食いしばっている姿が見えた。
そんな桃城の様子が、いつもの余裕っポイ顔でも、暖かな笑顔でも、喧嘩している時のブスくされた顔のどれでも無く、なんだか…ちょっぴり新鮮で、こんな顔もするのか……可愛いかも…なんて思ってしまった。
いつもは見られないそんな顔にほだされた訳ではないが、思わずその頭をギュッと抱き締めていた。
悔しいけど、こんな姿見せられたら…優しくしたくなっちまう。
俺らしくないなと思うけど、コイツもコイツらしくないから、お互い様って事にしておく。
こんな奴を可愛いなんて思う自分は、ちょっと終わってると思うが…今日だけは、大目に見よう。
そのまま、雷か終わるまで抱き合っていた。
桃城は「う~。」とか「わ――っ。」とかしか言わず、今の自分の状態が分かっているかさえ危うい。
仕方ないので、その背中をポンポンと叩き、落ち着かせてやる。
しかし、ここまで苦手とは……。
ある意味凄いなと感心してしまう海堂であった。
そうこうして雷も止み、雨も止んだ様だ。
そして、やっと桃城が動いた。
「…………。」
罰が悪いのか、身体を離すとポリポリと頬を掻きながら目線を彷徨わせている。
そんな桃城に溜息を一つ吐くと、壁に立て掛けてあったテニスバッグを肩に掛けて一言告げてから室内を出る。
「帰るぞ、早くしろ。」
それを受け桃城も慌てたように俺に続いた。
帰り道、互いに気まずくて無言が続く。
ほんと、今日は変な事が並ぶ。
「………苦手なモノねぇんじゃなかったのか…?」
「っ!!」
ボソッと呟けば、チッと舌を鳴らす音が聞こえた。
「………格好付けやがって。」
「……っ!!」
「バレる嘘付くな、バカ城。」
「………このっ!」
ボソボソ呟き桃城を見やると、ついに耐えられなくなったのか桃城が、キッと睨み付けてくる。
ジーッと見ていると、もう一度チッと舌を鳴らしたかと思うと怒鳴る様に声を荒げて来た。
「悪かったなっ! 人間、誰しも苦手なモンの一つや二つあんだろっ! あ―、そうだよっ俺は、雷が苦手だよっ! 悪いかっ!! たくっ、なんでこんな事になんだよっ…。ちくしょ~格好わりぃ~。」
一気に言いたい事を言った桃城は、みっとも無いとばかりに頭を抱えている。
言い終わるまで黙って聞いていたが、そんな桃城の様子に一つ溜息を吐く。
「たく…別に…。悪くねぇんじゃねぇのか…? 格好悪くても、それがお前だろ? なら、いいじゃねぇか。たくっ、つまらねぇ嘘付くんじゃねぇよ。……俺に…嘘付くな、バカ城っ…。」
最後は恥ずかしくてボソボソと喋ってしまう。
たくっ、あんな姿見せるコイツが悪いんだ。
だから、思ってもいなかった言葉まで言っちまった……。
たくっ、こっちのが格好悪いじゃねぇか…。
きっと顔が赤くなっているのが、頬の熱さから伝わった来る。
そんな顔を見られたくなくて背けていると…。
「海堂……。」
静かに桃城が呟く声が聞こえた。
なんだか居心地が悪くなって、すぐさま何か桃城が言う前に口を切った。
「大体、嘘付くならもっとマシなモンにしろっ。しかも、雷ごときで嘘付く方がバカなんだっ!」
「~~~~っ! このっマムシっ! 言いたい事言いやがってっ! 雷こどきって言うなっ、あんなんでも隠しておきてぇモンなんだよっ。それくらい格好付けさせろよっ!」
「だからっ、んな格好の付け方が可笑しいって言ってんだろっ!! 隠す事ねぇだろうがっ!!」
「んな事言ったって、この歳になって言えるかっ!」
「なんでだよっ、いいじゃねぇかっ! んな事気にする方がバカだろっ!」
売り言葉に買い言葉で、いつもの様に喧嘩しながら歩く。
ようやくいつもの調子に戻ってきたと感じた。
「っ! んなの、好きな奴の前じゃ格好付けてぇもんだろっ!!」
嘘偽りの無い桃城の瞳が俺を見据える。
それがなんだか悔しくなる。
「…………そんなん嬉しくねぇ…。隠される方が……嫌だ。」
「………海堂…。」
隠される事…すなわち秘密が有る事。
たかが苦手なモノ一つでも知らない事がある…って言うのがなんだか寂しいと思う。
ホント、なんか可笑しい俺。
そんな全部を知りたいとか知れる…なんて思わないが、少しでもコイツの事を知って居たいと思うのは悪い事では無い…筈だ。
素直にそれを口にすると、目の前の桃城の表情がいつもみたいな向日葵の様な笑顔に変わった。
そんな笑顔に見とれていると、ソッと肩に手が回されグイッと抱き寄せられた。
「っ、桃城っ!!」
「………ハハッ。なんか俺、愛されてる? メチャ、嬉しかったり…。」
「っ! 何言ってやがるっ!
んな事一言も言ってねぇだろっ!」
「照れんな、照れんなっ。いや~薫にこんなに想ってもらってるなんて知らなかったぜ♪」
「だからっ!違うってんだろっ!!」
いくら俺が違うと喚いても、一人自分の世界に入っちまった桃城はニヤケるばかりだ。
たくっ!なんだってコイツは自己解釈しやがるんだっ!
「でも、俺の事知りたかったんだろ?俺が嘘言って、ムカツイたんだろ?」
「っつ!!」
「ごめんな海堂。でも、あながち嘘じゃねぇんだぜ?」
「 ? 」
桃城が何を言いたいか分からない。
さっきまで自分の世界にトリップしてたってのに、今度は意味不明の言葉を言いながら俺を見て笑っている。
「お前のキツイ口…。」
「口?」
「そ。キツイ事いいながらも、本音をポロッと零すからさ…。嬉しくなり過ぎて心臓ドキドキしちまうから、ちょっと苦手…。な、嘘じゃねぇだろ?」
そう言いながら、俺の手を自分の心臓に当てる桃城。
手の平から伝わる桃城の鼓動に、カーッとますます顔が赤くなる。
「…っ!」
その心臓はドクドクと速く波打っている。
しかし、自分の心臓の方がそれよりも速くなっている様で、その音が聞かれないかと冷や冷やだ。
「へへ★ 薫ちゃん、顔赤いぜ?」
「っ!う、うるせぇっ!」
バッと桃城から離れ、そのまま早足で歩き出す。
そんな俺の態度に、ますます笑みを深めた桃城が付いて来るのが足音で分かった。
たくっ、ろくな事言わない奴だっ!
聞いているこっちが恥ずかしいっ!!
って…こいつに羞恥心を求める事の方が無謀なのかもしれないが…。
「なあなあ、薫っ!」
「っ! なんだよっ。」
「もうバレちまったから仕方ねぇからさ。今度雷鳴ったら、また抱き締めてくんねぇ? な?」
にこやかに笑いながらも、その中に不安そうな顔が見え隠れし、さっきの部室での事を思い出す。
「…………仕方ねぇから、受けてやる。」
「ハハッ。んじゃ、これからもよろしくな、薫!」
ボソッと呟けば、満面の笑みを向けて来る桃城。
それに溜息を吐きつつ、桃城の弱点を知れた事にちょっぴり優越感で嬉しいだなんて、コイツには言ってやらねぇ。
桃城の苦手が俺のキツイ口だってんなら、俺の苦手は…さしずめ『桃城の笑顔』になるのかもしれない。
この笑顔を向けられたら、なんでも許してやりたくなる上に、思いがけない本音を言わされちまう。
ホント、曲者だな…。
と、横を歩く桃城を見ながら思う海堂であったーーーー
ーENDー
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