『★過去からのLove Letter ★(桃海)』
桜の舞い散る春風薫る、4月初旬ーーーー
入学式が行われた今日、俺は最高学年に進級したーーーー
式も終わり、部活動の方も今日は無い為、帰宅する生徒が多く、すでに校内に残ってる人影もまばらだ。
そんな中、俺は校門とは反対側へ歩いて行く…。
ある場所へ向かってーーーー
途中、誰かに名前を呼ばれた。
「海堂先輩?」
「ふしゅ~。越前か、帰らねぇのか?」
呼ばれた方を見ると、越前の姿。
越前は、この半年で自身が主張していた通りすくすく伸び、もうすぐ追いつかれそうな勢いになりつつある。
自分もそうだったが、成長期ってヤツは怖い…。
かと言って、俺もそうそう負ける気はねぇけどな。
「そう言う海堂先輩は帰んないんスか?」
「ああ……。」
今日は約束の日だから、俺には行かなきゃならない所がある……。
物思いにふけっていると「ふーん。」と言う声が聞こえて来た。
「まあ、いいけど。明日からまたヨロシクオネガイシマス、海堂部長。」
ニッと笑い、越前はそのまま帰って行った。
そう、越前が言った様に俺は、あの手塚部長の後を継いで部長になっていた。
元3年生が引退してから部を運営してたっていっても、事実明日からが本当の意味での部長就任になる訳で…。
副部長がもっとしっかりしてくれると助かるんだけどな……。
なんて事を思いながら、越前を見送り、一人裏庭に歩いて行く……。
アイツは来て居るだろうかーーーー
覚えているだろうかーーーー
ってか忘れてそうだな…;
なんて思っていると、目的の場所が見えて来た。
裏庭は、校門とはまた違った色合いを見せていた。
校門も桜で咲き誇っているが、裏庭はまた満開の桜並木が続いている。
そして、その中でも奥の奥にある穴場な一本の桜の木の下に歩み寄った。
その桜の木は、どの木よりも桜が満開に咲いており、絶景の景色を醸し出して居た。
下から見上げると、春風に吹かれた桜がフワッと舞い上がり、制服の上にいくつものピンクを落とす。
心地良い日差しが差し込む中、周りに人影が無い事を確認する。
「……あのバカ、やっぱり忘れてんじゃねぇか…?」
アイツが来るまで待つ事にし、そこに腰掛けると木に凭れつつ上を見上げた。
日差しが心地良い…。
あの日も、こんな景色が自分の目の前に広がっていたーーーー
まだ自分は…自分達はこんなに大きく無くて、そう丁度今、しゃがんだ位の身長で…それでもその目に映る景色は一生忘れない……。
そうあれは、まだ俺がアイツを、アイツが俺を…。
名前で呼び合っていた時期の事ーーーー
私立「あおば幼稚園」そら組の教室ーーーーーー
その日の授業はちょっと変わっていた。
年中組から新しく進級したての今日、先生から年長組の子ども達全員にある話がもたらされた。
それは、タイムカプセルを埋めようと言う事で……。
紙に手紙を書き、それを埋めて何年後かに開けるという話は、将来とか夢だとかに興味を持ち始めた子ども達にとってはワクワク、ドキドキするモノだった。
「今日は、みんなにこの紙に、10年後の自分に向けて手紙を書いて貰おうと思います。みんなは将来何になっていると思う? 夢はあるかな? 何でも書いていいよ。好きな事とか、好きなモノとか。どんな事でもいいから書いてみよう!」
先生はそう言うと、自分達の前に真っ白な紙と鉛筆を渡してくれた。
紙を貰うと大張り切りで書いた桃城 武は、書きながらある事を思い付いた。
それはとってもドキドキする事で……どうしてもやりたい事だった。
幼稚園が終わり、家に帰ると鞄を置くのも、おやつを食べるのもそこそこに、勢い良く家を飛び出した。
目的の場所はいつも遊びに行く公園ーーーー
きっといつもの場所にアイツが居る筈だ。
公園に到着した桃城は、キョロキョロと周りを見渡し、目的の人物を探す。
すぐにその人物は見つかった。
いつもの様に他の子と少し離れた所で、一人遊んでいる。
「おい、かおるっ!」
俺が勢い良く名前を呼ぶと、相手はふしゅ~といつもの息を吐きながら、ギロッと不機嫌そうにこちらを向いた。
「ふしゅ~。なんだてめぇか、たけし。」
「ちょっと、俺に着いてこいよっ!」
「あ、なんでだよ。」
いつもの事なので気にせずに話掛ける。が、いつも喧嘩しかしてねぇから、相手もそうそうノッて来ない。
「いいからっ!」
まだ何か言いたげな海堂を強引に引っ張り連れ出した。
公園を出る事数十分、最初引っ張られていた海堂も、ブツブツと文句を言いながらもトコトコ後ろを付いて来る。
そして、目的の場所に付いた。
「着いたぜ~☆」
「…おい、ここって……。」
その外観を見た海堂は、訝しげに自分とその建物を見比べている。
そこは青学学園中等部の校門だった。
海堂が躊躇しているのにも構わず、その袖を引っ張り中に入っていく。
「あ、おぃ!たけしっ、いいのかよっ?」
「いいんだって、気にすんなっ!」
本当は良くないのだが、桃城は気にせずどんどん進んで行く。
そして、ある一本の木の下へと連れて行った。
「…すげぇ……。」
そこは満開の桜が咲き散る絶景のポイントだった。
春風が吹き、桜の花が舞い上がると共に優しく髪を吹き上げる。
暖かい日差しと、絶景な桜の木に声も無く見入る海堂だった。
そんな海堂の姿を見て、桃城も嬉しくなる。
「だろ? ここ父さんの母校なんだって、この前連れて来てもらってさ。かおるにも見せようと思ってたんだ~♪ 綺麗だよな?」
「…うん。すげぇ、綺麗…。」
「へへへ」
未だ、見入っている海堂の姿を見つつ自分もその景色に溶け込む。
自分も始めて見た時には声も無く、嬉しくなった。
それを同じく今、目の前の人物が感じているんだと、嬉しくなる。
少しそのまま景色を堪能した。
隣から「ふしゅ~。」と満足そうな溜め息が聞こえて来た事を確認し、今日のもう一つの目的を切り出した。
「なあなあ。かおるも今日、先生からタイム…えーと…タイムカップだっけ?」
「…タイムカプセルだろ。」
俺が唸っているとボソッと呆れた様に、海堂が答えを言った。
「そうそう! それそれっ、その話聞いただろ?」
「うん。」
「それでさ、俺達もここにタイムカプセル埋めないか?」
「ここに?」
「そう。なんか話聞いたら、どうしても埋めたくなったんだ~。」
ニコニコと笑って言えば、海堂がまた溜め息を吐く。
「……何書くんだよ?」
「へへ、幼稚園ではさ自分に向けてだったからさー。ん~そうだなぁ……かおる、10年後のお互いに向けて手紙書かねぇ?」
「……いいぜ。ちゃんと書けよ。バカたけし。」
バカって言われたのにはムッとしたけど、それは置いといて紙とペンを取り出し1枚を渡す。
ちょっと離れた所にしゃがみ、何を書こうかと互いに悩む。
「う~~~ん。」
「ふしゅ~~。」
悩みつつその一言を書き上げた。
「よしっ!俺は終わったぜ~。かおるは?」
「俺も出来た。」
「んじゃ、これに入れようぜ~。家からくすねて来たんだ~」
桃城の手には銀色に光る海苔の缶があった。
その準備の良さに呆れつつ、溜め息を吐く海堂。
「じゃ、かおる入れろよ。」
「うん。」
畳んだ紙をその缶に詰め込む。
桃城もそれにならい自分の紙を缶にいれ、蓋をした。
「よし、これでオッケー♪」
そして、2人で桜の木の下に位置する土を掘り、缶を埋めた。
2人とも無心に掘っていた為、洋服は泥だらけになっていたが、やり遂げたという達成感からそんな事も気にならない。
「へへ、かおるの顔、きったねぇ~!」
「ふしゅ~、それはたけしもだろっ!」
「なんだよっ!」
「やるのかっ!」
ム~ッといがみ合いつつ、その顔に笑いが起こる。
「ハハハ。」
「ククッ。」
「かおる、10年後の今日、4月×日…ここに集合な、『約束』だぜ!」
「うん。『約束』な。遅れんなよ、たけし。」
「かおるもなっ!」
そうしてもう一度、桜の木とその下にあるタイムカプセルを見て夕焼けの中、家に帰った。
10年後に一緒に開けようという『約束』を2人、心に刻み付けながらーーーー
そんな昔の事を思い出していると、カサッと芝生を踏み鳴らす足音が聞こえて来た。
「……遅ぇ。」
「ハハ。悪ぃ、悪ぃ。ちょっと野暮用でさ。」
頭を掻きつつ現れたのは今日、自分と同じく中学3年に進級した桃城 武その人だった。
「たくっ、忘れてたんじゃねぇのか?」
「なになに~海堂君ってば、俺が来なくて心配してくれてたのか~?」
「…っ…。殺すっ!」
茶化してふざけた事を言う桃城に怒りが沸いて来る。
ギロッと睨み付けると桃城が慌てて取り繕う姿が映った。
「わーっ!! まてまて、俺が悪かったって!」
「フンッ!」
いつまで経っても変わらねぇ、コイツ。
ホント、もっとしっかりしてくれねぇとこっちが困る。
「ふへ~。やっぱスゲェなここ。ここに入学してから、ちょくちょく見には来てたんだぜ~。『かおる』もだろ?」
ニッとさもそうだろと断定した様に言う桃城が気に食わないけど、図星だから仕方ない。
「ああ、偶にな。『たけし』が来てんのも知ってた。」
「なんだよ~知ってたんなら、くりゃいいのに。」
「……テメェとは『はじめまして』の関係だったからな。」
テニス部で最初に在った時、いや…中1の入学式で見掛けた時から、こいつが桃城武があの『たけし』だって気付いてた。
でも、テニス部で会った時、こいつは俺の事全然覚えてない様に『はじめまして』なんて言うから、ムカ付いて……悲しくて…ちょっぴり寂しかったのを思い出す。
でも、自分だけが覚えてるってのも癪で、悔しいからこっちも『なんだテメェ』なんて態度を取ってしまったんだ。
「それはお前もだろ~!俺、テニス部に行く前にお前に会ってるんだぜ~なのに、お前《あ、誰だテメェ…》みたいな顔して俺の事睨んだじゃねぇか~っ。だから悔しくて『はじめまして』なんて言ったんだぞ~!」
「は? いつの話だよ、知らねぇ…。」
「はぁー?覚えてねぇのかよっ! ほら、校門とこでさ。」
「……記憶にねぇよ。」
記憶を辿ってみる……入学式の校門……。
あの時は確か、母親がまたやれ写真を撮るだの、ここに立てだの何度も注文されてさすがにイライラしていた。
そして、そんな時に声を掛けて来た奴がいた様な…。
あまりにも機嫌が悪かったからガン付けていた気もする。
あんまりそいつの事見て無くて、すぐにそいつは居なくなったから……。
もしかしてあれが桃城か?
「………悪い;」
「思い出したか?」
「……うん。」
「ハハ、まあいいって。俺もあんな態度してごめん。」
「全くだ。」
シレッと呟く海堂に桃城もカチンと来る。
「なんだよ~。元はと言えばお前がな~っ!!」
「だからって、あれはねぇだろっ!」
「あっ?やんのかよっ!」
「ああ、やってやるよっ!!」
お互いに言い合い睨み付ける。
それこそいつもの喧嘩に発展しそうな勢いだ。
しかし、それは互いのプッと言う笑い声で途絶えた。
「プッ…クククククッ。アハハッ!かおる、マジ悪かったっ!」
「プッ…ハハッ。ああ、俺も悪かったな…たけし。」
互いに目を合わせ笑い合い、謝った事でスッキリし合う。
そして、ひとしきり笑った後、あの【 カプセル 】がある場所を囲む。
「さてと、掘ってみるか?」
「そうだな…。」
「んじゃ、これ。」
これと言って差し出した桃城の手には、スコップが2つ持たれていた。
本当、何時に無く準備が良い奴だ。
それを受け取ると、土を掘る。
10年前の小さな自分達が掘った穴だと言っても、なかなか深くまでいかないとその缶が見つからなかった。
今思うと、無心でしていただけあり、頑張って掘ったんだな…と感心してしまう。
「なかなかねぇな~。」
「だな…。」
それでも掘っていくと、何かがコツッと当たる感触がした。
「お!なんかあったみたいだぜ♪」
「ああ。」
スコップを置き、缶を取り出す。
10年も経っている為、缶の表面はちょっと茶色く変色している。
が、中は意外と大丈夫だった様だ。
中を開けると紙が2枚出て来た。
たけしへと書かれた方を桃城に渡し、かおるへと書かれている方を自分が持つ。
そして、そっとその紙を広げ10年前…過去からの相手からの手紙を見てみた。
海堂への手紙にはーーーー
『 かおるへ 好きだっ! 』
汚く幼い、いかにも桃城らしい字でそうデカデカと書かれていた。
そして、桃城への手紙には ーーーー
『 たけしへ バカ……でも、好き…。 』
幼いながらも整った、こちらも海堂らしい字で小さくハッキリと書かれていた。
お互いがそんな、過去のお互いからの手紙を見て、その幼さと直球な言葉にクスッと笑ってしまった。
「あの頃のかおるにしちゃ、素直なんじゃねぇ?」
「お前はそのまんまだな。」
互いの手紙を見せ合いながら、そう呟き合う。
その感想にまた笑いが起きる。
「なぁ、こんなに相思相愛なら、俺達付き合わねぇ?な、かおる。」
「…バーカ。当たり前だ…。もっとしっかりしろよ、たけし。」
「おぅ、お前をしっかりサポートしてやんねぇとな、新部長さん♪」
「頼りにしてる…新副部長。」
フッと2人微笑めば、それを受けて春風が吹き、辺りに桜を舞い上がらせた。
「わ~、やっぱこれだよな♪」
「ああ…。」
「なあ…『かおる、10年後のお互いに向けて手紙書かねぇ?』」
ニッコリ笑い、いつか聞いた事のある言葉を投げ掛けてくる桃城。
「…『いいぜ…ちゃんと書けよ、バカたけし。』」
こちらもニッと笑いそう返せば、ますます桃城の笑みが深くなる。
この笑顔が、自分に向けられるっていうのは、やっぱりいいよな。
やっと独占出来るかと思うと、ちょっと優越感が起こる。
「んじゃ、これにいれようぜ☆」
そう言うと、桃城はどこから持ってきたのかまた、海苔の缶を出して来た。
「……また『家からくすねて来たのか?』」
「ハハ、バレたか。やっぱ、タイムカプセルとくればこれしかねぇじゃん☆ だろ?」
「まあな…。」
「じゃあ、これな。」
あの時同様、紙を2枚取り出した桃城は、その一つを俺に渡して来る。
その紙を受け取り、ちょっと離れた所で、あいつへ…たけしへ向けての手紙を書く。
何を書こうか…。
アイツもそう悩んでいるのか、「う~~~ん。」なんて言葉が聞こえてくる。
今の素直な気持ちを、10年後のアイツへ…そして自分へ向けて書いてみる事にした。
未来は分からない…でも、今この時感じる想いが永遠であればいいなと願いつつ…。
手紙に想いを込めるーーーー
未来へのLove Letterへーーーー
桃城は海堂へーーーー
『 薫へ 大好きだっ! 今は愛してるけどな♪ これからもずーっと、一緒に居ような★』
海堂は桃城へーーーー
『 武へ 悔しいけど、認めてやる。 大好きだ。 だから、ずっと俺の側にいろっ! 』
お互いへの手紙を缶の中へと入れる。
蓋をしっかり閉めると、さっき掘り返した穴の中へ丁寧に入れ、上から土をかけていく。
沈黙の中の作業ではあったが、なんだか暖かい気持ちが満たしていた。
元通りの状態に直し、もう一度桜の木を見上げた。
「さーてと。そろそろ行くか?」
「ああ。」
「じゃあ、また10年後の4月×日、この場所でな★『約束』だぜ?」
「遅刻すんじゃねぇぞ。『約束』だろ?」
「おうっ!」
ヘヘッと笑う桃城を、ホントに大丈夫か?と訝しげに見つつも、こちらも自然に笑みが浮かぶ。
今日は一生分笑った気分だ。
こんな日もいいかもしれねぇけど…。
2人、桜の木が咲き誇る裏庭を歩く、4月の小春日和ーーーー
この日、2人は喧嘩友達・ライバル・幼馴染みのどれでも無く、またどれでも在りながら【 恋人 】という関係になったーーーー
2枚の過去からのLove Letterから始まった2人の恋ーーーー
それは、また『約束』の形となって、永遠に続く絆となる ーーーー
END
入学式が行われた今日、俺は最高学年に進級したーーーー
式も終わり、部活動の方も今日は無い為、帰宅する生徒が多く、すでに校内に残ってる人影もまばらだ。
そんな中、俺は校門とは反対側へ歩いて行く…。
ある場所へ向かってーーーー
途中、誰かに名前を呼ばれた。
「海堂先輩?」
「ふしゅ~。越前か、帰らねぇのか?」
呼ばれた方を見ると、越前の姿。
越前は、この半年で自身が主張していた通りすくすく伸び、もうすぐ追いつかれそうな勢いになりつつある。
自分もそうだったが、成長期ってヤツは怖い…。
かと言って、俺もそうそう負ける気はねぇけどな。
「そう言う海堂先輩は帰んないんスか?」
「ああ……。」
今日は約束の日だから、俺には行かなきゃならない所がある……。
物思いにふけっていると「ふーん。」と言う声が聞こえて来た。
「まあ、いいけど。明日からまたヨロシクオネガイシマス、海堂部長。」
ニッと笑い、越前はそのまま帰って行った。
そう、越前が言った様に俺は、あの手塚部長の後を継いで部長になっていた。
元3年生が引退してから部を運営してたっていっても、事実明日からが本当の意味での部長就任になる訳で…。
副部長がもっとしっかりしてくれると助かるんだけどな……。
なんて事を思いながら、越前を見送り、一人裏庭に歩いて行く……。
アイツは来て居るだろうかーーーー
覚えているだろうかーーーー
ってか忘れてそうだな…;
なんて思っていると、目的の場所が見えて来た。
裏庭は、校門とはまた違った色合いを見せていた。
校門も桜で咲き誇っているが、裏庭はまた満開の桜並木が続いている。
そして、その中でも奥の奥にある穴場な一本の桜の木の下に歩み寄った。
その桜の木は、どの木よりも桜が満開に咲いており、絶景の景色を醸し出して居た。
下から見上げると、春風に吹かれた桜がフワッと舞い上がり、制服の上にいくつものピンクを落とす。
心地良い日差しが差し込む中、周りに人影が無い事を確認する。
「……あのバカ、やっぱり忘れてんじゃねぇか…?」
アイツが来るまで待つ事にし、そこに腰掛けると木に凭れつつ上を見上げた。
日差しが心地良い…。
あの日も、こんな景色が自分の目の前に広がっていたーーーー
まだ自分は…自分達はこんなに大きく無くて、そう丁度今、しゃがんだ位の身長で…それでもその目に映る景色は一生忘れない……。
そうあれは、まだ俺がアイツを、アイツが俺を…。
名前で呼び合っていた時期の事ーーーー
私立「あおば幼稚園」そら組の教室ーーーーーー
その日の授業はちょっと変わっていた。
年中組から新しく進級したての今日、先生から年長組の子ども達全員にある話がもたらされた。
それは、タイムカプセルを埋めようと言う事で……。
紙に手紙を書き、それを埋めて何年後かに開けるという話は、将来とか夢だとかに興味を持ち始めた子ども達にとってはワクワク、ドキドキするモノだった。
「今日は、みんなにこの紙に、10年後の自分に向けて手紙を書いて貰おうと思います。みんなは将来何になっていると思う? 夢はあるかな? 何でも書いていいよ。好きな事とか、好きなモノとか。どんな事でもいいから書いてみよう!」
先生はそう言うと、自分達の前に真っ白な紙と鉛筆を渡してくれた。
紙を貰うと大張り切りで書いた桃城 武は、書きながらある事を思い付いた。
それはとってもドキドキする事で……どうしてもやりたい事だった。
幼稚園が終わり、家に帰ると鞄を置くのも、おやつを食べるのもそこそこに、勢い良く家を飛び出した。
目的の場所はいつも遊びに行く公園ーーーー
きっといつもの場所にアイツが居る筈だ。
公園に到着した桃城は、キョロキョロと周りを見渡し、目的の人物を探す。
すぐにその人物は見つかった。
いつもの様に他の子と少し離れた所で、一人遊んでいる。
「おい、かおるっ!」
俺が勢い良く名前を呼ぶと、相手はふしゅ~といつもの息を吐きながら、ギロッと不機嫌そうにこちらを向いた。
「ふしゅ~。なんだてめぇか、たけし。」
「ちょっと、俺に着いてこいよっ!」
「あ、なんでだよ。」
いつもの事なので気にせずに話掛ける。が、いつも喧嘩しかしてねぇから、相手もそうそうノッて来ない。
「いいからっ!」
まだ何か言いたげな海堂を強引に引っ張り連れ出した。
公園を出る事数十分、最初引っ張られていた海堂も、ブツブツと文句を言いながらもトコトコ後ろを付いて来る。
そして、目的の場所に付いた。
「着いたぜ~☆」
「…おい、ここって……。」
その外観を見た海堂は、訝しげに自分とその建物を見比べている。
そこは青学学園中等部の校門だった。
海堂が躊躇しているのにも構わず、その袖を引っ張り中に入っていく。
「あ、おぃ!たけしっ、いいのかよっ?」
「いいんだって、気にすんなっ!」
本当は良くないのだが、桃城は気にせずどんどん進んで行く。
そして、ある一本の木の下へと連れて行った。
「…すげぇ……。」
そこは満開の桜が咲き散る絶景のポイントだった。
春風が吹き、桜の花が舞い上がると共に優しく髪を吹き上げる。
暖かい日差しと、絶景な桜の木に声も無く見入る海堂だった。
そんな海堂の姿を見て、桃城も嬉しくなる。
「だろ? ここ父さんの母校なんだって、この前連れて来てもらってさ。かおるにも見せようと思ってたんだ~♪ 綺麗だよな?」
「…うん。すげぇ、綺麗…。」
「へへへ」
未だ、見入っている海堂の姿を見つつ自分もその景色に溶け込む。
自分も始めて見た時には声も無く、嬉しくなった。
それを同じく今、目の前の人物が感じているんだと、嬉しくなる。
少しそのまま景色を堪能した。
隣から「ふしゅ~。」と満足そうな溜め息が聞こえて来た事を確認し、今日のもう一つの目的を切り出した。
「なあなあ。かおるも今日、先生からタイム…えーと…タイムカップだっけ?」
「…タイムカプセルだろ。」
俺が唸っているとボソッと呆れた様に、海堂が答えを言った。
「そうそう! それそれっ、その話聞いただろ?」
「うん。」
「それでさ、俺達もここにタイムカプセル埋めないか?」
「ここに?」
「そう。なんか話聞いたら、どうしても埋めたくなったんだ~。」
ニコニコと笑って言えば、海堂がまた溜め息を吐く。
「……何書くんだよ?」
「へへ、幼稚園ではさ自分に向けてだったからさー。ん~そうだなぁ……かおる、10年後のお互いに向けて手紙書かねぇ?」
「……いいぜ。ちゃんと書けよ。バカたけし。」
バカって言われたのにはムッとしたけど、それは置いといて紙とペンを取り出し1枚を渡す。
ちょっと離れた所にしゃがみ、何を書こうかと互いに悩む。
「う~~~ん。」
「ふしゅ~~。」
悩みつつその一言を書き上げた。
「よしっ!俺は終わったぜ~。かおるは?」
「俺も出来た。」
「んじゃ、これに入れようぜ~。家からくすねて来たんだ~」
桃城の手には銀色に光る海苔の缶があった。
その準備の良さに呆れつつ、溜め息を吐く海堂。
「じゃ、かおる入れろよ。」
「うん。」
畳んだ紙をその缶に詰め込む。
桃城もそれにならい自分の紙を缶にいれ、蓋をした。
「よし、これでオッケー♪」
そして、2人で桜の木の下に位置する土を掘り、缶を埋めた。
2人とも無心に掘っていた為、洋服は泥だらけになっていたが、やり遂げたという達成感からそんな事も気にならない。
「へへ、かおるの顔、きったねぇ~!」
「ふしゅ~、それはたけしもだろっ!」
「なんだよっ!」
「やるのかっ!」
ム~ッといがみ合いつつ、その顔に笑いが起こる。
「ハハハ。」
「ククッ。」
「かおる、10年後の今日、4月×日…ここに集合な、『約束』だぜ!」
「うん。『約束』な。遅れんなよ、たけし。」
「かおるもなっ!」
そうしてもう一度、桜の木とその下にあるタイムカプセルを見て夕焼けの中、家に帰った。
10年後に一緒に開けようという『約束』を2人、心に刻み付けながらーーーー
そんな昔の事を思い出していると、カサッと芝生を踏み鳴らす足音が聞こえて来た。
「……遅ぇ。」
「ハハ。悪ぃ、悪ぃ。ちょっと野暮用でさ。」
頭を掻きつつ現れたのは今日、自分と同じく中学3年に進級した桃城 武その人だった。
「たくっ、忘れてたんじゃねぇのか?」
「なになに~海堂君ってば、俺が来なくて心配してくれてたのか~?」
「…っ…。殺すっ!」
茶化してふざけた事を言う桃城に怒りが沸いて来る。
ギロッと睨み付けると桃城が慌てて取り繕う姿が映った。
「わーっ!! まてまて、俺が悪かったって!」
「フンッ!」
いつまで経っても変わらねぇ、コイツ。
ホント、もっとしっかりしてくれねぇとこっちが困る。
「ふへ~。やっぱスゲェなここ。ここに入学してから、ちょくちょく見には来てたんだぜ~。『かおる』もだろ?」
ニッとさもそうだろと断定した様に言う桃城が気に食わないけど、図星だから仕方ない。
「ああ、偶にな。『たけし』が来てんのも知ってた。」
「なんだよ~知ってたんなら、くりゃいいのに。」
「……テメェとは『はじめまして』の関係だったからな。」
テニス部で最初に在った時、いや…中1の入学式で見掛けた時から、こいつが桃城武があの『たけし』だって気付いてた。
でも、テニス部で会った時、こいつは俺の事全然覚えてない様に『はじめまして』なんて言うから、ムカ付いて……悲しくて…ちょっぴり寂しかったのを思い出す。
でも、自分だけが覚えてるってのも癪で、悔しいからこっちも『なんだテメェ』なんて態度を取ってしまったんだ。
「それはお前もだろ~!俺、テニス部に行く前にお前に会ってるんだぜ~なのに、お前《あ、誰だテメェ…》みたいな顔して俺の事睨んだじゃねぇか~っ。だから悔しくて『はじめまして』なんて言ったんだぞ~!」
「は? いつの話だよ、知らねぇ…。」
「はぁー?覚えてねぇのかよっ! ほら、校門とこでさ。」
「……記憶にねぇよ。」
記憶を辿ってみる……入学式の校門……。
あの時は確か、母親がまたやれ写真を撮るだの、ここに立てだの何度も注文されてさすがにイライラしていた。
そして、そんな時に声を掛けて来た奴がいた様な…。
あまりにも機嫌が悪かったからガン付けていた気もする。
あんまりそいつの事見て無くて、すぐにそいつは居なくなったから……。
もしかしてあれが桃城か?
「………悪い;」
「思い出したか?」
「……うん。」
「ハハ、まあいいって。俺もあんな態度してごめん。」
「全くだ。」
シレッと呟く海堂に桃城もカチンと来る。
「なんだよ~。元はと言えばお前がな~っ!!」
「だからって、あれはねぇだろっ!」
「あっ?やんのかよっ!」
「ああ、やってやるよっ!!」
お互いに言い合い睨み付ける。
それこそいつもの喧嘩に発展しそうな勢いだ。
しかし、それは互いのプッと言う笑い声で途絶えた。
「プッ…クククククッ。アハハッ!かおる、マジ悪かったっ!」
「プッ…ハハッ。ああ、俺も悪かったな…たけし。」
互いに目を合わせ笑い合い、謝った事でスッキリし合う。
そして、ひとしきり笑った後、あの【 カプセル 】がある場所を囲む。
「さてと、掘ってみるか?」
「そうだな…。」
「んじゃ、これ。」
これと言って差し出した桃城の手には、スコップが2つ持たれていた。
本当、何時に無く準備が良い奴だ。
それを受け取ると、土を掘る。
10年前の小さな自分達が掘った穴だと言っても、なかなか深くまでいかないとその缶が見つからなかった。
今思うと、無心でしていただけあり、頑張って掘ったんだな…と感心してしまう。
「なかなかねぇな~。」
「だな…。」
それでも掘っていくと、何かがコツッと当たる感触がした。
「お!なんかあったみたいだぜ♪」
「ああ。」
スコップを置き、缶を取り出す。
10年も経っている為、缶の表面はちょっと茶色く変色している。
が、中は意外と大丈夫だった様だ。
中を開けると紙が2枚出て来た。
たけしへと書かれた方を桃城に渡し、かおるへと書かれている方を自分が持つ。
そして、そっとその紙を広げ10年前…過去からの相手からの手紙を見てみた。
海堂への手紙にはーーーー
『 かおるへ 好きだっ! 』
汚く幼い、いかにも桃城らしい字でそうデカデカと書かれていた。
そして、桃城への手紙には ーーーー
『 たけしへ バカ……でも、好き…。 』
幼いながらも整った、こちらも海堂らしい字で小さくハッキリと書かれていた。
お互いがそんな、過去のお互いからの手紙を見て、その幼さと直球な言葉にクスッと笑ってしまった。
「あの頃のかおるにしちゃ、素直なんじゃねぇ?」
「お前はそのまんまだな。」
互いの手紙を見せ合いながら、そう呟き合う。
その感想にまた笑いが起きる。
「なぁ、こんなに相思相愛なら、俺達付き合わねぇ?な、かおる。」
「…バーカ。当たり前だ…。もっとしっかりしろよ、たけし。」
「おぅ、お前をしっかりサポートしてやんねぇとな、新部長さん♪」
「頼りにしてる…新副部長。」
フッと2人微笑めば、それを受けて春風が吹き、辺りに桜を舞い上がらせた。
「わ~、やっぱこれだよな♪」
「ああ…。」
「なあ…『かおる、10年後のお互いに向けて手紙書かねぇ?』」
ニッコリ笑い、いつか聞いた事のある言葉を投げ掛けてくる桃城。
「…『いいぜ…ちゃんと書けよ、バカたけし。』」
こちらもニッと笑いそう返せば、ますます桃城の笑みが深くなる。
この笑顔が、自分に向けられるっていうのは、やっぱりいいよな。
やっと独占出来るかと思うと、ちょっと優越感が起こる。
「んじゃ、これにいれようぜ☆」
そう言うと、桃城はどこから持ってきたのかまた、海苔の缶を出して来た。
「……また『家からくすねて来たのか?』」
「ハハ、バレたか。やっぱ、タイムカプセルとくればこれしかねぇじゃん☆ だろ?」
「まあな…。」
「じゃあ、これな。」
あの時同様、紙を2枚取り出した桃城は、その一つを俺に渡して来る。
その紙を受け取り、ちょっと離れた所で、あいつへ…たけしへ向けての手紙を書く。
何を書こうか…。
アイツもそう悩んでいるのか、「う~~~ん。」なんて言葉が聞こえてくる。
今の素直な気持ちを、10年後のアイツへ…そして自分へ向けて書いてみる事にした。
未来は分からない…でも、今この時感じる想いが永遠であればいいなと願いつつ…。
手紙に想いを込めるーーーー
未来へのLove Letterへーーーー
桃城は海堂へーーーー
『 薫へ 大好きだっ! 今は愛してるけどな♪ これからもずーっと、一緒に居ような★』
海堂は桃城へーーーー
『 武へ 悔しいけど、認めてやる。 大好きだ。 だから、ずっと俺の側にいろっ! 』
お互いへの手紙を缶の中へと入れる。
蓋をしっかり閉めると、さっき掘り返した穴の中へ丁寧に入れ、上から土をかけていく。
沈黙の中の作業ではあったが、なんだか暖かい気持ちが満たしていた。
元通りの状態に直し、もう一度桜の木を見上げた。
「さーてと。そろそろ行くか?」
「ああ。」
「じゃあ、また10年後の4月×日、この場所でな★『約束』だぜ?」
「遅刻すんじゃねぇぞ。『約束』だろ?」
「おうっ!」
ヘヘッと笑う桃城を、ホントに大丈夫か?と訝しげに見つつも、こちらも自然に笑みが浮かぶ。
今日は一生分笑った気分だ。
こんな日もいいかもしれねぇけど…。
2人、桜の木が咲き誇る裏庭を歩く、4月の小春日和ーーーー
この日、2人は喧嘩友達・ライバル・幼馴染みのどれでも無く、またどれでも在りながら【 恋人 】という関係になったーーーー
2枚の過去からのLove Letterから始まった2人の恋ーーーー
それは、また『約束』の形となって、永遠に続く絆となる ーーーー
END
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