『★A lover of sweets★(リョ海+α)』

「海堂先輩、今日は自主トレ辞めて、俺とイイトコ行きません?」

部活終了後、着替えをしていた部室ーーーー
リョーマの一言が部室に響いた。

『!!!』

着替えをしていた部員全員が、その一言に驚愕する中、問われた当の海堂はというと…。

「……………。」

制服に掛けていた手を止め、隣りに佇むリョーマをジーッと見下ろした。

「どう?今日は駅前のトコにでも行ってみないっスか?」

さも行くだろ?と言う様にニヤリと笑い、生意気に再度問い掛けるリョーマ。

「…………ふしゅ~。」

誰もが断るだろうと踏んでいたのを、これまた裏切り、海堂はコクリと頷いた。

「じゃ、早く着替えて行きましょう♪」

そういうと、海堂を急かし、自分の着替えを再会させたリョーマだった。
そして、「お先ッス」と2人は後ろの先輩達に声を掛け、部室を後にしていった。


一方、残された部員はと言うと……。

「ちょっとちょっと、どういうコト? なーんで、おチビが薫ちゃんと帰るの~?」

「いやそれよりも、マムシの奴が自主トレもせずに帰った方が天変地異の前触れっスよっ!!」

「フフ、乾は何か知らないのかい?」

「…俺のデータにも無かったな。予想外の組み合わせだ。」

「お前達……。」

「まあまあ、手塚抑えて…。」

「ハハ…。」

レギュラーメンバーは好き勝手に言い合い、その他の部員は触らぬ神に祟り無し…とばかりに、そそくさと着替え、その場を後にした。

「うにゃ~っ気になる~!な、大石っ!」

「えっ!あ、ああ…そうだな。」

意気なり自分に振られた大石は、手塚を押えながらハハッと微かに頬を引きつらせつつ答えた。

「かー、アイツ等どこ行きやがったんスかね?」

「クスッ、なんか越前の言い方、意味深だったよね?」

「………;」

「ハハハ……;」

不二の一言で、全員がさっきのリョーマの言葉を頭の中で反芻していた。

「フッ、尾行するか?」

乾がデータノート片手に、キランと眼鏡を光らせ呟く。
問い掛けつつも、彼の中ではすでに決定事項となっているのだ。
それに、他のメンバー、主に不二・菊丸・桃城も同意を示した。

「おーっ!乾、あったま良いっ!」

「そうっスね、気になるんならやらなきゃいけねぇーな。いけねぇーよ☆」

「クスッ、面白そうだね。今なら、まだそう遠くには行ってないだろうしね。」

「よし、尾行するぞ。」

そう言うと、早々に着替え、渋る大石を菊丸が強引に引っ張り、手塚を不二がニコリと裏のある笑みで見つめ引っ張り、それに乾いた笑みを見せながら渋々付いて行くタカさんが居たとか。
ここに海堂・越前偵察隊が結成された。


部室を後にする事数分後、駅街を歩く2人の姿を見つけた一行は、尾行している事に気付かれない様に、一定の距離を保ちつつその様子を観察していた。

「どこに行くのかな?」

ジーッとその様子を見ていた菊丸が呟く。

「ここ等辺りだと、なんでもあるな…」

「そうっスね。本屋に服屋、スポーツ店やファーストフードもあるっスよ?」

キョロキョロと辺りを見渡し、菊丸の問いに答える大石と桃城。
乾は、一人さっきからノートに書き込んでいるし、不二なんかはフフッと笑うばかり。
そんな連れを半ば呆れた風に見つつ、溜め息を吐く手塚に、なんでこんな所にいるのかな?と後悔しつつ回りを見つめる河村。
そんな仲間に気付いた風も無く、海堂と越前は仲良さげに歩いている。
いや、そう見えるだけで、実際は甲斐甲斐しく話しかけるリョーマに、海堂はただ頷いたり眉をしかめたりしているだけだったが。


「あ、あの店に入るみたいだよー!」

菊丸の言葉に、全員の視線が一斉に一ヵ所に集まる。

「これは……また…。」

「フフッ。怪しいお店には見えないよね?」

「不二ッ!」

手塚の喝が入るが、そんなモノに堪えた風も無い不二。

「だって、越前のあの言い方なら、誰もが一度は勘違いするんじゃないの? あの2人付き合ってるんだし。」

「「えーーーーっ!?」」

「「「…………;」」」

全員が驚愕の表情で不二を見る。
乾だけが、ノートから顔を上げ、不二に詰め寄った。

「…本当か不二?」

「ん?うん、間違い無いよ。」

「……理屈じゃないな…。」

書き書きノートに新たな情報を書き込む乾だった。

「ねぇねぇ、ホント、不二~?」

「マジッスか!越前と…あのマムシが…。」

「クスッ、見てれば分かるじゃない?」

「「………;」」

それはアンタだけだよ、と口に出して言えない桃城と菊丸であった。

「それより、早く僕達も追いかけようよ?」

そう言うと、惚けている大石・手塚・河村を置いて、そそくさとさり気無く気付かれない様に海堂達の入った店に忍び込む一行であった。
そこは、不二の言う様に妖しいお店…ホテルとかではなく、ごく普通のなんの変哲も無いただのカフェだった。
海堂と越前は、窓際の奥の席に向かい合わせに座って居た。
レギュラー陣は、そこから通路を挟んで斜め前の席に隠れながら、こっそり様子を伺っていた。
不二から先程、爆弾発言を聞かされた一行は、2人の様子を喜々として、あるものは胃を押え、あるものは呆れた様に、あれものはデータを取りながら見て居た。
お互いにメニューを見ながら、ああでも無い、こうでも無いと真剣な表情で語り合っている。
少しして、2人の席にウェイトレスが来て、注文を取り付けていった。
その後も、観察するもいつも通りの2人の様子。
不二から聞かされても、まだ納得が行かないとばかりに菊丸が口を開いた。

「不二~。デマなんじゃないの~?確かにおチビが、あんなに喋ってるのは珍しいけど、海堂なんていつも通りだよ?」

「そうっスよ~。信じられねぇっス。」

桃城も続けて、そう訴える。が、
「僕の言う事が信じられないって言うの?」
キラッと開眼しつつニコリと笑みを浮かべ言う不二に、冷や汗が流れる2人であった。

「「……ご、ごめんなさい…;」」

「フフ、分かればいいよ。」

「英二…;」

「桃まで…;」

「はぁ……。」

そんな3人の様子に苦労人の2人と、最高権力者である筈の手塚は頭を抱え溜め息を吐くしかなかった。
そこで、データを取っていた乾がフと顔を上げた。

「いや、あながち嘘ではない。越前の饒舌ぶりはいつもの3倍増しなのはもちろん、その笑顔はいつもの数倍増しだ。
しかも、それは海堂にも言える。一見眉をしかめ、不機嫌そうに見えるが…あれが照れ隠しな確率95.7%だ。」

「マジッスかっ!」

「ああ、間違いない。」

「へー。薫ちゃん、可愛い~♪」

ニマニマと菊丸が笑っていると、海堂達のテーブルに異変が…。

「何か来たみたいだね。」

ウェイトレスが注文したモノを持って来た様だ。
なにやら大きいモノを海堂とリョーマ互いの前に置いている。

「「………え?」」

「「「…………っ!!」」」

「へー。なかなかだね…。」

「…フム。これは、予想外だったな……。」

全員が、そのテーブルに在るモノに驚き、菊丸や桃城なんかは目が点になっている。
乾は、その目で見たモノをノートにすかさず書き込んでいた。

「………嘘だろ~!」

「ビックリだにゃ~!」

そういうと、ガタガタッと音を立てながらテーブルを移動し、2人が座る所まで駆けて行く桃城と菊丸の姿があった。

「そりゃねぇな、そりゃねぇよっ!」

「そうだぞ~!なんで2人がそんなモノ食べてんのっ! ギャップ在り過ぎっ!!」

「「っ!!!」」

意気なりの来訪者に、海堂と越前はスプーンを咥えたまま呆然とそんな仲間の姿を見るしかなかった。

「フフ、さすがの僕もそのメニューは思い付かなかったなぁ。」

その後ろから、済まなそうにしている大石や河村。無表情の手塚まで現れ、改めて呆気に取られてしまう。

「……何してんの、アンタ達…?」

「ってか、なんでここにいるんスかっ?」

2人がそう呟けば、すかさず答える不二。

「何故って? あんな意味深な一言残していったら、気になるのが人間の性ってもんでしょ?」

「データの為にもな。」

「すまん…海堂、越前…。」

「僕達には止められなかったよ…。」

「……すまん。」

ニヤニヤ笑う2人に続いて、こちらは本気で済まなそうにしている良識陣。

「あんな一言って…?」

首を傾げる越前に、菊丸と桃城が囃し立てる。

「もーおチビってば、海堂とイイトコ行こうなんて、何考えてんだよ~!」

「そうだぞ、そもそも。素直に付いて行くマムシも悪いんだっ!」

「あ? マムシ言うなっ、このバカ城がっ!!」

「あんだと~!やんのかコラッ!」

桃城の一言に、喧嘩に発展しそうな2人は放って置いて、越前はああ、と一人納得していた。

「なんだ、それの事か。あれは、俺と海堂先輩の合言葉みたいなもんスよ。 俺達、共通の趣味があるんスよね。」

「「「「「「「共通の趣味?」」」」」」」

「フム、興味深いな。それで、その共通の趣味というのはなんなんだ?」

越前の一言に、海堂と喧嘩を始めていた桃城も興味を示し、会話に加わる。
一人残された海堂は、ムスッとしながらもソッポを向き、またしてもテーブルの上のモノにスプーンを伸ばし食べ始めていた。
どうやら説明は全て越前に任せるつもりらしい。

「んと…これっス。」

越前はそう言うと、自分の前にも在ると言うのに、食べる事に集中し出した海堂を引き寄せつつ、その手元にあるモノを指差した。

「なっ、越前っ!何しやがるっ!!」

意気なり引っ張られた、海堂はそれを零しそうになりギッと越前を睨み付けた。

「それ??」

ジーッと指差されたモノを見つめる面々。

「そうっス。俺達、ここら一体のジャンボパフェを制覇していってるんスよ。」

そういうと、グイッと海堂が食べようとしていたパフェをすくった手を自分の口に引き寄せ、パクッと食べてしまった。

「あーーーーっ! テメッ、これは俺んだろーがっ!!」

その行動に異論を唱え、殴り掛かる勢いの海堂。
それをヒラリとかわし、自分のパフェを優雅に食べる越前だった。
レギュラーの面々は、そんな2人のやり取りを呆然としながら見ていた。

「へー、海堂も越前も甘党だったんだ?」

「そうっスよ、ここの店のはまだだったんで、今日誘ってみたんスよ。」

「そうか。越前はいつもファンタを飲んでいる事から見て、甘党ではあると思っていたが、海堂までも甘党だとは思わなかった。」

データ不足だったと、即座にまた一つ海堂の欄に追加させていく乾。

「海堂先輩ん家、おやつはいつもお母さん特製のお菓子っスよ。この人、俺よりも甘党っス。ね、先輩?」

リョーマが、未ださっきの事を根に持っている海堂に伺い立てれば、プィッと顔を背け不機嫌を隠さない海堂がいた。

「相変わらず、しつこいっスね…。」

そんな海堂の態度に、ボソッと呟いたリョーマだった。

「ふ~ん。そうなんだ~! やっとすっきりした~♪すっきりしたら、なんかお腹空いちゃった~大石、んか食べてこ~☆あ、桃も食うだろ~?」

「ウィース☆もちろん、英二先輩のおごりっスよね?」

「なっ!んな訳ないだろ~!!」

真相を聞いた面々は、それぞれその場を後にして行く。
菊丸は大石と桃城を連れ、元居た定位置に戻り。

「じゃあ、タカさん。僕等も行こうか。ここに居たら2人の邪魔になるしね★」

「ん、ああ。」

と何やら含みのある言い方をしながら、不二と河村も戻る。
そして、ノートに書き込みを完了した乾も「手塚、ちょっとメニューの事で話していかないか?」と手塚を誘い、「ああ。」と2人も戻っていった。

そして、残された海堂と越前……。

「……まだまだだね…。」

と一つ溜め息を吐き、目の前の不機嫌な恋人を見る。

「ねえ、そろそろ機嫌直したら?」

「……ふしゅ~。」

一向に機嫌を回復する気も無く、窓の外を眺め、こちらを見ようとしない海堂。
ハーッともう一つ溜め息を吐き、どうしたものかと考える。
こうなってしまった海堂がなかなかにしつこいのは、身を持って知っているリョーマである。
たかが、パフェ一口…されどパフェ一口…。
極度の甘党の海堂にしたら、その一口を食べられたのが許せないらしい。
いつもは年上面する海堂が、幼く可愛く見えるのもこんな時だった。
可愛くていつまでも見ていたい様にも思うけど、機嫌が悪いままの海堂と居ても楽しくないと、リョーマは素直に謝る事にした。

「ごめんなさい…。」

「……………。」

それでもこちらを見ず、答えない海堂。

「…ごめん、ごめんてば……薫…。」

「っ!!」

海堂が、ファーストネームを呼ばれる事に弱い事を知っててのリョーマの作戦だった。
その作戦が効果を発揮し、カッと頬を赤く染めた海堂が、やっとこちらを見る。

「やっと見た。ねぇ、喧嘩しながら食べても美味しくないっスよ?」

「っ!誰の所為だと思ってんだっ!」

「ん、俺の所為だよね。だから……。」

そう言うと、パクッとパフェを口に含み少し腰を浮かすと、海堂の頭に手を添え、自分方に引き寄せる。
『?』と訳が分からないという表情をしている海堂に、ニッと笑いかけるとそのまま、その唇に自分の唇をくっ付けた。

「んっ!!」

ビックリして目を見開き、押し返そうとする海堂の手をもう片方の手で抑えると、頑なに閉じられているその唇をこじ開け、舌を差し入れる。

「んーーーっ!」

奥に隠れて居た海堂の舌を見つけると、それに自分の舌を絡めつつ、さっき口に入れたパフェを移していく。
と言っても、その殆どが2人の舌の熱さで溶けてしまっていたが。

「ハ…ンッ…。」

全て移し終えると、チュッと音を立てキスし、ペロッと海堂の唇に付いたクリームを舐めつつ唇を離した。

「どう、お返しっス? これで文句無いっスよね♪」

「……………。」

未だ、荒い息を吐き、呼吸を整えている海堂は、文句の一つでも言いたかったが、言葉にならず、リョーマを睨み付ける事しか出来なかった。
そんな海堂の様子にニッコリ笑顔で、パフェを食べるのを再会させるリョーマだった。
その様子を見ているモノが居るとも知らずに………。




「クスッ。こんな所でキスするなんて、さすが越前だね。」

「ああ、いいデータが取れたよ。」

「………ハハハ…;」

「…公共の場で…っ。クッ、越前に海堂は明日、校庭20周だ…。」

ニヤリと笑い合う、ある意味、青学最強の2人とそんな2人と一緒に居たが為に、見なくていいモノまで見せられてしまった不幸な2人の姿があったとか…。
一方菊丸と桃城は、そんな事も構わず食べる事に集中しており、大石は2人の莫大な食欲に胃を傷めていたとか。

「越前にとって海堂と居れば、とこでもイイトコで在るのは間違いないよね。」

「だな。」

不二と乾の妖しい笑みだけが、その場にあった。


そして、越前はと言うと…翌日頬に真っ赤な紅葉型を付けて来たとか。
そして、その後一週間海堂に口を利いてもらえなかったという噂である……。



END
1/1ページ
    スキ