『★メアド★ (リョ海)』

何気無い日常ーーーー
部活後、いつもは桃城とさっさと帰っている越前が、何故か残っており、自主トレを一緒に行った後、そのまま越前家を訪れた海堂。
今日も目当てのカルピンは、自分の膝の上で丸まって眠っている。
その柔らかい毛並みを撫でていると、鞄の中の携帯がメールの着信を知らせる様に、ブーブーと振動している。
カルピンを起こさない様に鞄を取り、メールを開くと母親からで、簡単にメールを返しそのまま携帯をテーブルに置くと、またカルピンの毛並みを撫でる。
越前の家に来たら必ず行ってしまう習慣みたいなモノだ。

「海堂先輩のアドレスって携番のまんまなんスねー。」

カルピンに夢中になっていると、今まで黙っていたこの部屋の主が呟く声が聞こえてきた。
声のした方を見ると…ベットに寝転がり、雑誌を読んでいると思っていた越前が、何やら携帯を弄っているのが見える。

「なっ、それ俺んだろっ!!」

越前の持っている携帯は、今さっきテーブルに置いた自分の物だった。

「今時、携番のまんまなんてナンセンスですよ?」

「うるせぇっ、別にいいだろっ! とっとと返せっっ!!」

奪い取ろうと手を伸ばすものの、膝の上のカルピンが気になって思う様にいかない。
その間にも、越前は勝手に携帯を弄っては、何やら記号を入力している。

「よくないっス。俺が入力し直しときますよ♪」

喜々として入力する越前。
身動き出来ない俺は、ただ様子を文句を言いつつ見て居るしか無い訳で…。
簡単に操作を終えた越前は、携帯を閉じると、「はい、完了★ あ、言わなくても分かると思うけど、変えたらダメだからね。約束っスよ?」と強引に約束を取り付け、携帯を俺の手に持たせた。
一体どんな文字を入れたのかと不安になったが、元来機械音痴で必要最低限の所しか分からない俺には、設定画面を開く事も出来ず、確認する事も出来なかった。
俺が、携帯片手に四苦八苦している間、越前はと言うと…自分の携帯を弄り何やら入力している。

「よし、完璧!」

「何が完璧なんだよ?」

「ん?俺もアドレス変更したんスよ。」

「ふしゅ~。…越前、変な記号とか入れてねぇだろうな?」

「変なって?」

「…いや、それは…。」

「それは?」

「っつ…もういいっ!」

「ふーん…。」

問い返されて、自分でも『変な』とはどんなモノを言うのか分からなくなり、結局そのままにしてしまう。
その間にもニヤケている越前の顔が、気になるには…気になるのだが…。
自分ではどうする事も出来ないから、仕方無くそのまま携帯を持ち帰る事にした。


その夜、部活の連絡メールが来た。
内容は、明日、日曜日の部活集合時間の変更について…というモノであった。
メールを確認し、目覚ましをセットし直すと、そのままの内容を次の相手…菊丸にメール送信する。
送信完了を知らせる画面を確認し、携帯を閉じると、明日に備え寝る事にした。


次の日、部活を訪れた早々に、後ろから菊丸先輩に飛び付かれた。

「かっいどうっ!!」

「わっ!!…ちょっ、菊丸先輩…何するんスかっ!」

「へへ~♪ ごめん、ごめん…って違うって!なあなあ、海堂ってホント越前好きなんだにゃ~☆ 俺、びっくりしちゃった~海堂ってこういうのしないと思ってたからさ~♪」

「は? 何の事スか?」

未だ、背中に乗ったままの菊丸を下ろし、意味不明な事を言う菊丸に首を傾げる。

「ん?あっれ~?海堂がしたんじゃないの~? これこれ☆」

ズイッと菊丸は、自分の前に携帯の画面を出し、見やすい様に掲げてきた。
そこには……
『from 海堂 薫【Ryoma-Love is forever@++++】』
と表示されていた。
自分の名前の後に表示されているアドレスに、目が釘付けになる…。
自分が今まで使っていたのは、ただの数字の羅列だったはずだ。
しかし、今、表示されているのは自分で入れた覚えも記憶も無い文字ーーー

「………………。」

ハッと昨日の越前の行動を思い出す。
昨日、自分の携帯を弄り、何やら入力していたはず………。

「っつ!! え、越前ーっ!!」

大声で、この原因を作った奴の名前を呼ぶ。
すると、直ぐ側から今呼んだ奴の声が聞こえてきた。

「何?」

「なっ、なんだこれわっ!!」

菊丸先輩の携帯をぶんどり、越前の目の前に突き付ける。
それを見た越前は、菊丸と自分の顔、そして携帯を交互に見るとニヤリと笑う。

「ああ、もうバレたんだ? どう?いいでしょ、このアドレス☆」

「っ!!いくねぇっ!! さっさと変えろっ!」

ギッと睨み付けるが、それに堪えた様も無く、自分の携帯を取り出すとそれを自分の目の前に突き付ける。

「これ、俺のね。」

「 ? 」

そこには……
『 名 :越前リョーマ
電話:090++++++++
メアド: Kaoru-Love is Forever@+++++ 』と表示されている。
そのメアドの所を見て、俺は呆然とするしかなかった。

「…………。」

「あっれ~♪ おチビと海堂のアド、おっそろいなんだにゃ~☆ うはぁ~ラブラブ~♪」

固まっている間、俺の目の前に掲げてあった携帯を覗き込んだ菊丸が、嬉しそうに大声でしゃべってしまった。
それを聞き付けた他のレギュラー達も集まり、お揃いのメアドについてクスクス笑ったり、何故か喜んでいたり、苦笑したりと様々な反応をしている。
そんな声も入らず、固まったままの海堂。

「これで公認スね、先輩☆ 変えちゃダメっスからね、約束しましたもんね~?」

越前の嬉しそうな声だけが、頭の中に響いていた ーーーーー
機械に疎い自分を、この日程恨めしく思った事は無い、海堂であった………。
いつか変えてやる…と誓いつつ、リョーマのメアドから自分への愛情を感じ、ちょっぴり嬉しく思う海堂が居たとか……。

「愛してるよ…薫は、永遠に俺のモノッスよ♪」

自分の携帯にチュッとキスをしつつ、そう呟くリョーマだった。

END
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