【★告白日和★(桃→海)】

5月11日 朝ーー
いつも通りの朝のジョギングを終え、いつも通りの時間に、いつも通りの道を登校する。
いつも通りな筈なのに、どこかが違う…。
道で行き交う奴等は、何故かこちらをチラチラ見る。人の視線など去年からの事なので、慣れている。
しかし、なんだか今日はいつもの侮蔑や拒絶的なモノじゃない様な気がする。
しかも、目が合うとあからさまに目線を逸らす…。
これもいつも通りなのだが、顔が赤く見えるのは目の錯覚だろうか?
よく分からないまま、心地悪い雰囲気を振り切る様に部室へ急いだ。
扉空けた途端、意気なり誰かに抱き付かれる。
俺に抱き付く奴なんて一人しか思い付かず、低い声で声を掛けつつ自分とそう大差無い身体を押し返した。

「意気なりなんなんスか、菊丸先輩?」

「薫ちゃ~ん♪ 誕生日おめっと!」

ニコニコ笑いながら言われた言葉に一瞬止まる。

「…………は?」

思いがけない言葉に、思考が止まっている間にも菊丸はニコニコ顔で話しかけて来る。

「だっから~今日は、海堂の誕生日だろぅ~? だから、おめっとってお祝いしてんだよ~。なぁ~大石。」

未だ、固まって動けない俺の上から、やれやれと菊丸先輩を退かしながら大石副部長が、にこやかに笑い掛けて来た。

「意気なりで悪いな、海堂。 英二が真っ先にお祝い言うって聞かなくてな。 俺からもおめでとう、海堂。」

「あ…ありがとうございます。」

ペコッとお礼を言いながら、そう言えば今日は自分の誕生日だった事を思い出した。

「ふふっ。 もしかして誕生日忘れてたのかい?」

何時の間にか後ろに立っていた不二先輩に笑われた。

「……っス。」

真面目に返事したら、今度は乾先輩にまで笑われる羽目になる。

「海堂らしいな。」

菊丸先輩なんかはゲラゲラ笑う始末で、なんとなくバツが悪い。
ブスッとしていると、すかさず河村先輩のフォローが入る。

「まあま、みんな笑っちゃ悪いよ。誕生日を忘れちゃうくらい海堂は、毎日頑張ってるって事だよ。それより手塚、プレゼント渡そう。」

河村先輩の言葉を受けて、スッと手塚部長が俺の前に立つ。

「海堂、誕生日おめでとう。これは3年からのプレゼントだ。」

「あ…ありがとうございます。ふしゅ~」

改めて、プレゼントなんか貰うと照れてしまう。
照れた顔なんて見られたくなくて、思わず伏せってしまった。
そんな俺に気分を害する事なく、先輩達はクスクス笑うと「先に行くね。」と言い残し、部室を出て行った。
なんだか心が暖かい気持ちになり、そっと箱を空けると中からはタオルとグリップテープ。何故か絆創膏まで入っていて、思わず顔が綻んでしまう。
多分、絆創膏は間違いなく某先輩からだろう。
箱に入っていた手紙には、達筆な字で『あまり無茶をしない様に…。』と書かれていた。それと一緒に新しいトレーニングメニューも入っており、有難かった。
箱をロッカーに戻し、ジャージに着替える。

「 ねぇ。」

声がした方を見ると、さっきまで我関せずだった越前だった。

「あ? なんだよ。」

問い返して見れば、ズィッと握った左手を突き出して来た。

「 ? 」

戸惑っていると、「手出して…。」と言うので、素直に右手を出してやる。

「オメデトウゴザイマス。」

その言葉にと共に、手の平に乗っかった猫のキーホルダー。

「…………。」

目の前の後輩と手の中の猫を見比べる。
心なしか照れた様に帽子を深くかぶり、俯く越前に思わず笑ってしまう。

「ぷっ。……サンキュ。」

柄にも無くこっちまで照れてしまう。

「まだまだだね。」

その言葉に満足したのか越前は、いつものキメ台詞を残し、部室を後にした。
その後も下駄箱にはリボンの付いた箱はあるわ、教室でも廊下でも歩く度におめでとうの言葉と共に、見ず知らずの奴からもプレゼントを貰ったりと、大変な一日だった。
いろんな人にお祝いされる中、ただ一人だけが何も言ってこない。
しかも、いつもは顔を合わせれば喧嘩ばかりなのに、今日は喧嘩になる事も無く。
そればかりか、言葉すら交していなかった。
その事がなんだか心にぽっかり穴を開けていた。
寂しい様な気分…その気持ちを振り切るように部活に専念した。
練習を終え、みんなが帰宅に着いた後、一人自主練をしていた俺。
今日のメニューをこなし部室に入ると、そこには居る筈の無い桃城が、こちらを向きベンチに座って居た。

「っ…何してんだ、てめぇー。」

動揺を悟られない様に努めて、いつも通りに振る舞う。
なんだか真剣な表情に、少し怖じ気付いたとは断じて認めたくない。

「………お前を待ってたんだ…。」

「……は?」

思わず振り替えると、すぐ目の前に真剣な桃城の顔。
ビックリして言葉も無く見つめ返すしか出来なかった。
固まったままの俺に、桃城が真剣な表情のまま話し掛けてくる。

「今日…お前の誕生日だろ? まずは…おめでとうな。」

「………。」

みんなと同じ言葉なのに、なんでか顔が熱くなる。
居心地が悪くなり、目線を彷徨わせなければ、その場に立っていられなかった。

「っで、こっからが本題なっ! これ…プレゼント…。」

桃城が俺の左手を取り、何かを巻き付け縛っている。
動く事も出来ず、ただ黙ってその様子を見ていた。
よく見ると、それは『青い色のバンダナ』だった。

「この色さ…お前に似合うと思ってさ…。」

さっきまでの真剣な表情から打って変わり、いつもの…でも決して自分には向けられないと思っていた笑顔を向ける桃城。
その笑顔に、ますます言葉が詰まる。

「つっ……。」

「海堂…俺…お前が好きだ…。 好きで、好きでたまんねーよ…。」

言葉と共に抱き締められる。
驚き過ぎて、何を言われたか分からなかった。
しかも、今までライバルで喧嘩した事しか無かった桃城からの思わぬ告白に、素直に受け取る事が出来ない。

「っつ!じょっ…冗談は大概にしろよっ、バカ城っ!! てめー言って良い事と悪い事も分かをねぇのかよっ! 俺をバカにすんのもいい加減にしろっっ!!」

カッと頭に血が上り、ジタバタ暴れながら思い付く限りの言葉で罵った。
しかし、そんな俺の態度にも怒る事無く耐え、ますます腕の力を強める桃城。

「海堂っ!っ…海堂っ!!」

冗談を言われたと一人で突っ走り、なんだか悲しくなり泣きたくなっている俺を呼び戻す様に桃城が叫ぶ。
それにも構わず暴れる俺に、チッと舌打ちが聞こえたかと思うと、唇に暖かなモノが触れた。

「ふっ…んっ…ん?」

何か分からず、思わず力が抜けた。
一瞬の事で自分の身に起きた事が認識出来ない。
それはすぐに離れ、目の前の桃城を見ると何故か真っ赤な顔をしていた。

「……桃城?」

「っ…あー、これで分かっただろっっ!冗談でも騙してもねぇっ、本気で海堂が好きなんだよっ!」

その表情から冗談では無い事が分かった。
でも、自分は桃城の事をそういう対象で見た事も無かったし、ライバルで嫌いな相手と認識していたから…答えに戸惑っていると、それを見越した様に桃城が畳み掛けて来た。

「あー。えと…だから、今直ぐ答えはいいっ。分かりきってるからな…だから、俺の誕生日…7月23日までに、お前が俺の事好きだと感じて、付き合ってもいいと思ったら…その日に今日渡したバンダナ…付けてみてくれないか?」

「……………。」

真剣なその様子に押される様に、コクリと頷いていた。

「そっか…サンキュ。」

安心した様に笑い、そのまま帰っていった桃城。
扉が閉まると同時に力が抜け、その場に座り込んでしまった。
思いがけない告白と、思いがけないキスに頭がショートしそうだ。
さっきの感触がキスだった事を自覚し、カーと顔が熱くなる。
思わず唇を押さえていた。
なんだったんだ…。
なんだか考える事が有り過ぎて訳が分からない。
でも、誰よりも祝いの言葉が嬉しくて…告白もキスも嫌じゃなかったと思う自分が居る。
まだ戸惑っているが、それは何故か…答えは出ている様だが、認めたくない気もする。
ぐるぐるになりながらも、その場からしばらく動けない俺が居た。


その日は、生まれて来てから一番印象的な誕生日となった ーーーー


END
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