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『★太陽の輝き★(桃海)』

時計の針は、すでに深夜の3時を示している。
布団に入ったのは、いつもと同じ時間帯ながら今日はいつもと違い、何時間経とうが寝付けなかった。
眠れない苛立ちから、ゴロゴロと寝返りを打つ。

「ふしゅ~……。」

独特の溜め息を吐きつつボーッと天井を眺めた。
室内は、当たり前だが真っ暗で…なんだか、世界で一人になってしまった様な…奇妙な感覚が襲って来る。
なんだか、急に寂しくなり、不安になる……。
自分らしくないな…と思いつつ、そんな事を考えて悲しくなり、ギュッと強く自分の身体を抱き締めた。
無性に桃城に会いたくなった……。
あの、向日葵の様な笑顔が見たい…。
あの、力強い腕で抱き締めて欲しい…。
そして、今、自分の心を蝕んでいるこの訳の分からない不安を、消して欲しい…。

「桃…。」

口に出して呟けば、ますます側に居て欲しくなる…。
その想いがどうしようもなく膨らみ、枕元に置いてあった携帯を掴む。
携帯を開け、リダイヤルの一番になっている【 桃城 】の字を見つめる。が、ボタンを押す事が出来ない。
こんな夜中に電話を掛けたら迷惑になる。
桃なら、きっとすでに寝ている筈だし…こんな事で困らせたくない。
もう少し、自分が我慢すれば…済む事だ……。
そう思いつつも、じわ~っと目には涙が浮かんでくるのが分かった。
こんなに、自分が弱いとは思わなかった。
こんなに、自分が桃城に依存しているなんて…。
つい最近まで、口を開けば喧嘩しかした事が無くて、自他共に認めるライバルだったのに…。
こんなに自分が相手を好きになれるのも驚きだったし、自分がこんなにも桃城が好きだったのだと思い知らされるとは、思わなかった。

「うっ……桃…。」

本格的に涙が頬を濡らす頃、手に握り締めていた携帯が意気なり震え出した。

「つっ!!」

慌てて中を見ると、着信の表示には【 桃城 】の文字。
あまりに突然な事と、その偶然な電話に驚きを隠せない。
呆然としている間にも、携帯は震えたまま……。
恐る恐る、その電話を取る。

「もし…もし…。」

『…薫?』

電話口から響く、今、もっとも望んでいた人の優しい声。
驚きで止まっていた涙が、ツーっと頬を流れた。

「っ…桃ぉ…。」

『泣いてんのか?』

待ち望んでいた声に、ますます涙が止まらなくなる。
そんな俺の状態に気付いたのか、電話口の桃城が気遣う様な声を出す。

『どした?なんか…あったか?』

「くっ…なっんで?」

『 ん? 』

「なんで…電話…。」

パジャマの袖で涙を拭いつつ、突然の電話の理由を聞いてみた。

『ん…なんか、お前呼んでる気がしてさ…。目、覚ましちまって、心配だから掛けてみた…したら、泣いてるからさ…大丈夫か?』

どこまでも自分を心配するような言葉に、思わず口から言葉がもれてしまった。

「桃ぉ…っ…会いたい…会いたい……。」

『………………。』

桃城からの返答が、なかなか返ってこない。
やはり、迷惑だよな…こんな時間だし、俺がこんな事言うなんて……。

「…ごめん…。気にするな…。ひくっ…じゃ…あな…。」

なんとか言葉を紡ぎ、通話を切ろうとした所で、電話口からの大声がそれを引き止めた。

『っつ!着替えて待ってろっっ!?』

「っ!!」

その言葉に驚き、もう一度携帯に耳を付けるが、聞こえてくるのは通話の切れたプープープーの音だけ。
訳が分からないものの、桃城に言われた通りにパジャマを脱ぎ、私服に着替えた。
そうして、音沙汰が無いまま数分が過ぎた頃ーーー。

キキキーッ

自転車のブレーキの音が、自宅の前の道路から響く。
その音に、すかさず窓に近寄りカーテンを開き、窓を開ける。
そこには、全速力してきたのか額に汗を浮かばせ、肩で息をしつつこちらを笑顔で見上げている桃城がいた。

「桃……。」

「ハアハア…ごめ、ちと遅くなった……。」

ニコッと自分を見詰め、手を上げている桃城の姿に、たまらず部屋を飛び出していた。

バタンッッ!!
近所迷惑になるとか、家の人が起きるのでは…とか、そんな事に構わず玄関を飛び出すと、そこに待ち受けている人に全身で抱き付いた。

「っつ…桃っ!」

「ぅわっっ!!」

何も考えず抱き付いた事で、自転車共々倒れこんでしまった。

「あた~っ。おぃ、やり過ぎだろ、薫~;」

たんこぶが出来た頭を擦りつつ、自分に呆れた言葉を向ける桃城。
しかし、その腕はしっかりと自分を抱き締めたままで…。
ギュッとますます抱き付く。

「くっ……。」

「? 薫?」

泣き顔を見られたくなくて、顔を上げられない。
そんな俺を桃城は何も言わず、暖かく包み、ポンポンと頭を撫でてくれた。
どれくらいそうしていたか、落ち着きを取り戻し、そっと身体を離した。

「悪ぃ……。」

「………………。」

付せっていると、ギュッと力強い手に引っ張られる。

「…後ろ乗れよ。」

その言葉と共に、強引に荷台に乗せられた。

「 ? 」

「しっかり掴まってろよっ!」

そう言うと、自転車が勢いよく走り出した。

「わっ!」

思わず背中に抱き付いてしまった。桃城は、さっきからこっちを見ないし、無言で自転車を漕いでいる。
どこへ行くのかも分からないけど、この大きな背中に…何もかも預けていれば大丈夫だと思える。
無言なまま自転車は夜の道を走り続ける。
まるで、夜の闇から逃げる様に……。
そんな2人を月だけが、追いかけていた ーーーーー

キキキキーッ

何分走っただろうか、自転車は大きなブレーキ音と共に止まる。
自転車が止まった所は、自分も良く知る所であった。
それもそのはず、そこはいつも自主練で通る丘の上の公園であった。
桃城は、なぜこんな場所に自分を連れて来たのだろう?

「寒くないか?」

振り向いた桃城が、気遣いげに顔を覗き混んで来た。
その顔にコクリと頷くと、その顔が笑顔に変わる。

「んじゃ、ちょっと歩こうぜ?」

促されるままに、まだ薄暗い公園内を歩き出す。
少し前を歩く、桃城の背中を見ながら、トボトボと…。
桃城は、自転車を漕いでいる時同様に無言のまま。
時折、付いて来ているかを確認する様に、チラッとこちらを向く事はあったが…。
どこか目的があって歩いているのか、それともただの散歩なのか…自分には分からない。
ただ、さっき同様付いて行けば大丈夫だという安心感だけはある。

「……………。」

「………。」

何分歩いていたか、突然桃城が立ち止まった。
意気なりだったので、下を向いていた俺は、桃城の背中にぶつかってしまった。

「 ? 」

桃城の背中にぶつけた鼻を押さえつつ、首を傾げると、クルッと桃城がこちらを振り向いた。

「着いたぜ♪」

「…着いたって…。」

「見てみろよ。」

促されて、桃城の目の前にある景色を見てみる。
そこには、今まさに昇ろうとしている太陽…つまり朝日が、遠い水平線から出て来る所だった。

「わぁ……すげぇ…。」

「だろ?」

そう言った桃城の方を見れば、これまた朝日にも負けない様な微笑みで返された。
その顔はまるで、してやったりと言っている様だった。

「どうして……。」

「ん?」

「ああ……それはさ…。」

次の言葉を待っていると、後ろから暖かな手で抱き締められた。

「…桃?」

「…なんか、お前…元気無かったし、この景色を見せてやりたかったんだ…。こんなスゲェ景色見たら、ちょっとは気分が晴れるかな?ってさ…。単純だけど、こんな事しかしてやれねぇからよ…。ごめんな?」

「……………っ…。」

どこまでも優しくて、どこまでも自分を思ってくれる…。
なんでコイツはこんなに自分にしてくれるのだろう…。
こんな事されたら…ますますコイツに、依存してしまう…。
こんな俺でいいのかな…と思う。
こんな可愛くも、愛想も無い…ましてや男なのに…。

「薫?」

「…っ、桃…っ!」

感極まり、腕が緩んだと同時に今度は自分から抱き付いた。
さっきからコイツに抱き付いてばかりだ…。
でも、今はコイツの事を抱き締めたいって思う。
コイツにしてもらった事を俺も、これから返せるだろうか…?

「桃…ありがと…。俺の話し…聞いてくれるか…?」

「ん。なんでも聞いてやるよ。だから、何でも俺には言ってくれよな?」

「ん…。あのな…。」

桃城の言葉に頷くと、俺はさっき何故泣いていたのかを話し出した。
世界に一人になった様で不安に感じた事。
桃城に会いたくて仕方なかった事…。
そして、こんな俺で…本当にいいのかと ーーーーー

桃城は、俺が話して終わるまで静かに、ただ抱き締める手は離さず、辛抱強く聞いてくれた。
そして……
俺が話し終わると同時に、そっとキスしてくれた…。

「薫…俺が居るから…。世界で一人になんて絶対ならないから……。怖くなったらいつでも俺を頼ってくれよ…。俺はお前が好きだから…。俺は、お前に頼られたら、お前が安心してくれんなら…なんでもするから……。だから…一人でこっそり泣くなんて、しないでくれ……な?」

「………ぅん…サンキュ…桃城…。俺も…好きだ…。」

桃城の言葉にまた泣きたくなる。
でも、今はコイツに泣き顔ではなく、笑顔で答えたい。
薄っすらと涙が浮かぶ目を隠しながら、恋人になって初めて桃城に笑顔を見せた。

「…っ」

「? 桃城?」

何故か顔を背けてしまった桃城が居た。
訳が分からず困惑していると、真っ赤に染まった顔をした桃城の顔が近付いてくる。
条件反射で、目を瞑ると唇に二度目のキスが降りてきた。
優しいキスを受けながら、コイツとならどんな不安も消え、2人で歩いていけるような気がした。
桃城の太陽みたいな笑顔の前には、どんな暗闇も太刀打ち出来ないと思うし。
俺の側にはいつでもコイツが居てくれる。
今度、暗闇に不安を抱いたら、今度は俺から桃城の携帯を鳴らそうと思う…。
そして、今度は俺からこの場所に誘ってみようかな…と考えていた。
この腕の温もりが消えない限り、俺が不安に押しつぶされる事は……
もう、決して無い筈だ ーーーーーー


END
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