『★ヤキモチ★(リョ海)』
珍しく部活の無い日曜日ーーー
休日となると一日の大半を自主練に費やす海堂を、押しまくり、はたまた泣き落とし、終いには【 カルピン 】という猫好きの海堂には堪らない餌で釣り、なんとか自宅へと呼ぶ事に成功したリョーマであった。
しかし今、彼は非常に不機嫌であった。
その原因である筈のかの人は、テーブルを挟んで真向かいに座り、リョーマの機嫌の悪さにも気付かずに、さっきからずーっと膝に抱いたカルピンと戯れていた。
《 確かに、カルピンで釣ったのは俺だけど…恋人の俺をほったらかしって…あんまりじゃないの? 》
口に出したら、すぐさま鉄拳と共に睨まれるのが分かりきっている為、心の中だけで愚痴りながらもジトーっと見つめずにはいられない。
《 普通さ、恋人と2人っきりになったら、もっとさ…こう…甘~い雰囲気とかにならないかな? 》
なんて、夢みたいな事を一瞬考え、しかし、相手が海堂なだけに無意味だと考え直す。 一応、恋人関係に落ち着いているものの、鈍感な海堂によって恋人になる前となんら変わらない2人の距離に、リョーマは苛立っていた。
リョーマ的には、もっと触れ合ったり。どこかへデートに出掛けたり。手を繋いで歩いたり…もっと欲を言えば、キスより先の関係も…と考えているのだが…。
如何せん、海堂のあまりの鈍さの前に、全てことごとく惨敗している現状である。
そんな訳で、ますます仏頂面になり、恨めしそうに楽しそうに戯れている海堂を見るしかなかった。
無言でジーッと見て居るリョーマにやっと気付き、海堂が顔を上げた。
「……なんだよ?」
「?…何が?」
意気なり声を掛けて来た海堂に内心驚きつつ、そんな表情を見せずに返事を返す。
「何がって…。俺の事、ずっと見てただろ?」
「なんだ…気付いてたんだ。」
自分の視線に気付いてた事に、ますます驚いた。
鈍いと思ってたけど、意外と鋭かったらしい。
「あんだけ不躾に見られてたら、気付く。で?」
「 ? 」
「なんか言いたい事あるんだろ? んな見てねぇで、はっきり言いやがれ。てめぇーらしくねぇ。」
カルピンじゃなく、俺自身を真っ直ぐ見つめる目に、さっきまでの気分が少し払拭される。
「だって。海堂先輩、俺と居るのにカルピンばっかり構ってるじゃないっスか…。」
「お前……。」
ムス~としながら思った事を伝えたら、呆れた様な表情で見られた。
ますます、ムス~としていると、意気なり目の前の海堂が笑い出した。
「クククッ。」
「なっ!なんで笑うんスかっ!?」
「だって…お前、それ……。」
笑いが止まらないらしい海堂は、今では腹を抱えて笑っている。
そんな海堂の姿を見るのは初めてで、笑われている事に対する怒りも忘れて、その様子を呆然と見詰めてしまった。
いつもムッとした表情で、睨まれてばかり。口を開けば、文句か罵声しか聞いた事が無かったから、今の表情は珍しくもあり、新鮮だった。
そんな表情を自分に見せてくれるって事が嬉しいと感じるリョーマだった…。
でも、だからと言っていつまでも笑われているのも納得がいかない。
「笑い過ぎっ。それってなんなの、笑う事なんスか?」
「………だって…」
今度はなんだか頬を赤くして、顔を背けてしまった。
《 ? 》
ますます、訳が分からない。
「だって?」
「…っ。お前、本当に分からないのか?」
チラっとこちらを向き、聞いて来る海堂に首を傾げる。
なんだか、自分だけが分からないって事が悔しい。
「分からないから聞いてるんじゃないっスか。」
「 っ。あー…だから…お前、カルピンに…ヤキモチ…焼いたんじゃねぇのか?」
言い切ったと同時にカルピンを抱き込み、頭を伏せてしまった海堂。
リョーマは一瞬、何を言われたか分からなかった。
「………………。」
「……………。」
「なっ…!」
海堂の言わんとする事を理解したリョーマは、言葉も無く動揺した様に、頭を掻いた。
カルピンに嫉妬したって事実も恥ずかしいし、ましてやそれを海堂に指摘されたって事がますます恥ずかしかった。
「「 …………………。」」
お互い言葉も無く無言になる。
どちらもその顔は真っ赤なままで、チラッとお互いの様子を探っていた。
最初に沈黙を破ったのはリョーマだった。
「まさか…薫に、指摘されるとは思わなかった…。俺もまだまだだね。」
「………っ!」
「…ねぇ、薫も分かってんなら、もっと俺も構ってよ…。」
そっと隣の位置に座り、まだ顔を俯けたままの海堂の頬にそっと手を伸ばす。
手が触れた瞬間、ビクッと海堂の身体が揺れたのを気付きながらも、リョーマはそのまま顔を上げ自分の方を向かせる。
ジーとその瞳を覗いていると、海堂がフッと柔らかく笑い掛けて来た。
「…バカ…。カルピンになんて焼いてんじゃねぇよ。俺が…好きなのは……。」
その言葉と共に、目の前の海堂の顔が近付き、そっと唇に暖かいものが当たる。
それが、海堂からの初めてのキスだと理解すると、嬉しさと共に心が暖かくなってくる。
海堂からのキスは本当に一瞬の事で、堪らず、その唇に再びキスしていた。
「…んっ……あっ…。」
海堂の口から荒い息が出る頃、やっと唇を放した。
目の前には、キスの余韻に息を荒げ、頬を真っ赤に染めながらも自分を見ている海堂の姿。
そんな表情を見て、自分の頬も熱くなるのが分かる。
「…薫…好きだよ…。」
「ん…俺も…。」
語尾が小さくて『 好き 』の言葉は微かにしか聞き取れなかったけど、思わずギュッとその身体を抱き締める。
「海堂先輩…。」
「ん?」
「今度はカルピンじゃなくて、俺だけを構ってよね?」
耳元でそっと囁けば、クスッと笑う気配と共に紡がれる言葉。
「……バーカ。」
言葉はそんなだけど、海堂の手が自分の背中に回りギュッと抱き着くのを感じた。
「薫バカだからね…。」
なんだか面白くて、2人でクスクスと笑ってしまった。
こうして、2人でいられる事がたまらなく嬉しく、暖かかった。
自分がカルピンに嫉妬したってのは醜態だけど、結果的にカルピンのお陰で海堂の気持ちにも気付けたし…キスもしてもらったし…今日のご飯は特上にしてやろうかな…なんて考えていたリョーマであった。
ーー おまけ ーー
後日、先日同様に部活の無い休日、リョーマの家には海堂が遊びに来ていた。
「………………。」
目の前の情景に、リョーマの額には怒りマークがいくつも浮かんでいる。
「……海堂先輩…。」
「ん?」
腕に抱いたカルピンの毛並みを心地良さそうに、しかも満面の笑みで撫でていた海堂が顔を上げると、そこには怒り浸透のリョーマの顔。
「……あ…;」
「いい度胸だよね…。これは…お仕置きが必要ッスか?」
「……………………。」
「覚悟してくださいね…。」
こうして、海堂に怒ったリョーマにお仕置きされたとか…。
『 ふぁら… 』
何も知らないカルピンの泣き声だけが、静かな空に響いていた…。
END
休日となると一日の大半を自主練に費やす海堂を、押しまくり、はたまた泣き落とし、終いには【 カルピン 】という猫好きの海堂には堪らない餌で釣り、なんとか自宅へと呼ぶ事に成功したリョーマであった。
しかし今、彼は非常に不機嫌であった。
その原因である筈のかの人は、テーブルを挟んで真向かいに座り、リョーマの機嫌の悪さにも気付かずに、さっきからずーっと膝に抱いたカルピンと戯れていた。
《 確かに、カルピンで釣ったのは俺だけど…恋人の俺をほったらかしって…あんまりじゃないの? 》
口に出したら、すぐさま鉄拳と共に睨まれるのが分かりきっている為、心の中だけで愚痴りながらもジトーっと見つめずにはいられない。
《 普通さ、恋人と2人っきりになったら、もっとさ…こう…甘~い雰囲気とかにならないかな? 》
なんて、夢みたいな事を一瞬考え、しかし、相手が海堂なだけに無意味だと考え直す。 一応、恋人関係に落ち着いているものの、鈍感な海堂によって恋人になる前となんら変わらない2人の距離に、リョーマは苛立っていた。
リョーマ的には、もっと触れ合ったり。どこかへデートに出掛けたり。手を繋いで歩いたり…もっと欲を言えば、キスより先の関係も…と考えているのだが…。
如何せん、海堂のあまりの鈍さの前に、全てことごとく惨敗している現状である。
そんな訳で、ますます仏頂面になり、恨めしそうに楽しそうに戯れている海堂を見るしかなかった。
無言でジーッと見て居るリョーマにやっと気付き、海堂が顔を上げた。
「……なんだよ?」
「?…何が?」
意気なり声を掛けて来た海堂に内心驚きつつ、そんな表情を見せずに返事を返す。
「何がって…。俺の事、ずっと見てただろ?」
「なんだ…気付いてたんだ。」
自分の視線に気付いてた事に、ますます驚いた。
鈍いと思ってたけど、意外と鋭かったらしい。
「あんだけ不躾に見られてたら、気付く。で?」
「 ? 」
「なんか言いたい事あるんだろ? んな見てねぇで、はっきり言いやがれ。てめぇーらしくねぇ。」
カルピンじゃなく、俺自身を真っ直ぐ見つめる目に、さっきまでの気分が少し払拭される。
「だって。海堂先輩、俺と居るのにカルピンばっかり構ってるじゃないっスか…。」
「お前……。」
ムス~としながら思った事を伝えたら、呆れた様な表情で見られた。
ますます、ムス~としていると、意気なり目の前の海堂が笑い出した。
「クククッ。」
「なっ!なんで笑うんスかっ!?」
「だって…お前、それ……。」
笑いが止まらないらしい海堂は、今では腹を抱えて笑っている。
そんな海堂の姿を見るのは初めてで、笑われている事に対する怒りも忘れて、その様子を呆然と見詰めてしまった。
いつもムッとした表情で、睨まれてばかり。口を開けば、文句か罵声しか聞いた事が無かったから、今の表情は珍しくもあり、新鮮だった。
そんな表情を自分に見せてくれるって事が嬉しいと感じるリョーマだった…。
でも、だからと言っていつまでも笑われているのも納得がいかない。
「笑い過ぎっ。それってなんなの、笑う事なんスか?」
「………だって…」
今度はなんだか頬を赤くして、顔を背けてしまった。
《 ? 》
ますます、訳が分からない。
「だって?」
「…っ。お前、本当に分からないのか?」
チラっとこちらを向き、聞いて来る海堂に首を傾げる。
なんだか、自分だけが分からないって事が悔しい。
「分からないから聞いてるんじゃないっスか。」
「 っ。あー…だから…お前、カルピンに…ヤキモチ…焼いたんじゃねぇのか?」
言い切ったと同時にカルピンを抱き込み、頭を伏せてしまった海堂。
リョーマは一瞬、何を言われたか分からなかった。
「………………。」
「……………。」
「なっ…!」
海堂の言わんとする事を理解したリョーマは、言葉も無く動揺した様に、頭を掻いた。
カルピンに嫉妬したって事実も恥ずかしいし、ましてやそれを海堂に指摘されたって事がますます恥ずかしかった。
「「 …………………。」」
お互い言葉も無く無言になる。
どちらもその顔は真っ赤なままで、チラッとお互いの様子を探っていた。
最初に沈黙を破ったのはリョーマだった。
「まさか…薫に、指摘されるとは思わなかった…。俺もまだまだだね。」
「………っ!」
「…ねぇ、薫も分かってんなら、もっと俺も構ってよ…。」
そっと隣の位置に座り、まだ顔を俯けたままの海堂の頬にそっと手を伸ばす。
手が触れた瞬間、ビクッと海堂の身体が揺れたのを気付きながらも、リョーマはそのまま顔を上げ自分の方を向かせる。
ジーとその瞳を覗いていると、海堂がフッと柔らかく笑い掛けて来た。
「…バカ…。カルピンになんて焼いてんじゃねぇよ。俺が…好きなのは……。」
その言葉と共に、目の前の海堂の顔が近付き、そっと唇に暖かいものが当たる。
それが、海堂からの初めてのキスだと理解すると、嬉しさと共に心が暖かくなってくる。
海堂からのキスは本当に一瞬の事で、堪らず、その唇に再びキスしていた。
「…んっ……あっ…。」
海堂の口から荒い息が出る頃、やっと唇を放した。
目の前には、キスの余韻に息を荒げ、頬を真っ赤に染めながらも自分を見ている海堂の姿。
そんな表情を見て、自分の頬も熱くなるのが分かる。
「…薫…好きだよ…。」
「ん…俺も…。」
語尾が小さくて『 好き 』の言葉は微かにしか聞き取れなかったけど、思わずギュッとその身体を抱き締める。
「海堂先輩…。」
「ん?」
「今度はカルピンじゃなくて、俺だけを構ってよね?」
耳元でそっと囁けば、クスッと笑う気配と共に紡がれる言葉。
「……バーカ。」
言葉はそんなだけど、海堂の手が自分の背中に回りギュッと抱き着くのを感じた。
「薫バカだからね…。」
なんだか面白くて、2人でクスクスと笑ってしまった。
こうして、2人でいられる事がたまらなく嬉しく、暖かかった。
自分がカルピンに嫉妬したってのは醜態だけど、結果的にカルピンのお陰で海堂の気持ちにも気付けたし…キスもしてもらったし…今日のご飯は特上にしてやろうかな…なんて考えていたリョーマであった。
ーー おまけ ーー
後日、先日同様に部活の無い休日、リョーマの家には海堂が遊びに来ていた。
「………………。」
目の前の情景に、リョーマの額には怒りマークがいくつも浮かんでいる。
「……海堂先輩…。」
「ん?」
腕に抱いたカルピンの毛並みを心地良さそうに、しかも満面の笑みで撫でていた海堂が顔を上げると、そこには怒り浸透のリョーマの顔。
「……あ…;」
「いい度胸だよね…。これは…お仕置きが必要ッスか?」
「……………………。」
「覚悟してくださいね…。」
こうして、海堂に怒ったリョーマにお仕置きされたとか…。
『 ふぁら… 』
何も知らないカルピンの泣き声だけが、静かな空に響いていた…。
END
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