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『★恋のきっかけ★《桃城ver》』

人が人を好きになるきっかけって、本当に些細な事だと思う…。
ちょっとした仕種だったり、思いがけない言葉だったり…もしかしたら、ただ隣に居ただけだったり…。
それは、何気無い日常の中にゴロゴロと転がっているものだ。
ただ…それが自分にとって、もっとも苦手としていた相手だったら…。
自分がもっとも嫌っている相手であったら…。
ましてや、周りからも自他共に認められる様な犬猿の関係であったなら…。
その場合…自分は、どうしたらいいのだろう?
一番厄介な相手に惚れてしまった…と深く、深く溜め息を吐き、想い人であるその人物を今日も遠く木に凭れつつ眺める桃城だった。

それは、数日前の事であったーーーー
いつも通り、コートでは練習が繰り広げられていた。
今日は、乾先輩が組んだ試合形式のシングルス練習となっていた。
自分の試合が終わり、まだ試合の続いている隣のコートを何気無く見る。
そこでは、アクロバティック全開の菊丸先輩と粘りのテニスが基本の海堂が試合をしていた。
始め、菊丸先輩が優勢に見えたその試合だったが、じわりじわりと粘りを見せ、ここぞという時に習得した得意技のブーメランスネイクを決め、反撃を開始した海堂が追い上げていた。
海堂の試合なんて見るつもりはなかったが、段々と追い上げるライバルの姿に、その場を動く事が出来なくなり、終いにはその試合を真剣に見ている自分がいた。
そして…試合はそのまま海堂の粘り勝ちになった。
負けてしまった菊丸は、コートの中で「くやし~ぃ!大石~俺、海堂に負けちゃったよ~」と大声で悔しがり、大石副部長に泣き付いていた。
そして、海堂はというと……。
無表情で、次の試合に備えているんだろうなっと言う俺の予想を裏切って、その場で立ち尽くしていたかと思うと、微かに…本当に微かに笑みを見せ、グッとこぶしを握っていたのだ。
俺は、自分の目を疑った。
海堂が…、あの無愛想で、いつも睨みしか浮かべていない海堂が、あんな…あんな、笑顔を見せるとは思わなかった…。
そして、俺は失敗したと思った。
ここに居て、この場所に居て…この試合を見てしまった自分に…。あんな海堂の表情に出会ってしまった自分を呪った…。
それは、突然の出来ごとだった…。
あの笑顔が、どうしても頭から離れなかった。
それ以来、アイツの姿を目で追ってしまう自分が信じられなく、知りたくなかった。
しかし、寝ても覚めても考えるのは海堂の事ばかり。
それは、いつもの喧嘩中の時でも変わらずで…。
アイツを見るとドキドキして、胸が押し潰されそうになる。
アイツと話すと嬉しくなる。
そんな日々が続き、認めたくは無かったが、俺がアイツに…海堂に…恋をしていると認めずにはいられなくなってしまった…。
そして、今に至るという訳だ ーーー
さて、どうしたものか…。
ここでスバッとアイツに告白なんてものしようものなら……。

「まず…間違いなく、即振られるよな…。」

自分で自分の言葉に落ち込む。

「んじゃ…どうすりゃいいんだ…?」

「何がっスか?」

「うわっ!!なっ…なんだ、越前かよっ。お前、脅かすなよな~っ!」

意気なり声を掛けられて、ビックリして腰を抜かしかけたっていう事は、格好悪いから言わないで置こう…。

「別に脅かしてなんかないけど? それとも、なんか疚しい事でも考えてたんスか?」

「っ!べっ別にっ。んな訳ねぇーな。ねぇーよっ!ハハハっ…。」

ニヤリと意味ありげな笑みを見せる越前に、慌てて言い繕う。

「その笑いが嘘っポイっスよ…。」

「……ハハ…。なぁ、今、越前は好きな奴とかいないのか?」

「なんスか、意気なり。」

俺の突然の問いに、怪訝な表情を見せる越前。
やっぱり、意気なりこんな話し、可笑しいよな…。

「いや、聞いてみただけ…。」

「………………。」

ジーっとこちらを見ている越前の瞳に居心地が悪くなる。
目を泳がせていると、『ハァ』と溜め息を吐く音が聞こえた。

「あ、そう。そう言う事ね。」

「な、何がそう言う事なんだよ?」

「だから。桃先輩が、海堂先輩が好きで、どうやって告白しようかな~って事でしょ?」

「なっっ!!」

意気なりのドンピシャな言葉にビックリして思わず後ろに飛び退いていた。

「…驚き過ぎ。たかが図星指されたくらいでさ。」

「………お前なぁ…」

越前のその物言いに、呆れ果てて言葉も無い。
もっと、こっちの身にもなって欲しい…と、この後輩に思うのは無謀だろうか…。

「それより、どうするんスか?」

「何が?」

「何がって…告白っスよ。」

「…………。」

告白…そんな物して、今の関係まで壊れないだろうか…。
俺は、今の喧嘩してでもアイツの側に居られるライバルという関係が結構気に入っている。
それを今、俺が告白なんてして…アイツに軽蔑されたら…。
アイツの側に居られるどころか、話しをする事も出来なくなったら…俺は、俺はきっと押し潰されてしまうんじゃないだろうか…。

「…桃先輩らしくないね。」

「越前?」

「そんな後ろ向きな考えなんだったら、告白したって上手くいく筈無いし、海堂先輩も迷惑するっス。」

「っつ。」

越前の言う事はもっともで…こんな臆病な俺は、俺らしくない…。
告白して関係がどうなるか分からないけど、このままにして良いとも思えないし…。
だからと言って…本当にそれで、解決するのだろうか…。

「あーっもうっ!じれったいっスねっ。そんな桃先輩になんて海堂先輩任せらんないっス!!」

キッと睨む様な眼差しと共に投げ付けられた越前の言葉。

「おい…越前…。何が言いたいんだよ?」

そんな後輩の挑発的な態度にイラ付いてくる。
そう簡単なもんじゃないだろっ。
大体、コイツは何が言いたいんだ?
『任せられない』って…どういう意味だ?

「海堂先輩は俺が貰うからっ!桃先輩は、それでもいいんだよねっ?」

挑発する様な目付きを変えずに、面白がる様な物言いの越前。
そんな越前の言葉と態度に、俺の中で何かがキレる音がした…。

「ふっふざけんなっ!!海堂は誰にもやらねぇっ、アイツは俺んだっ!!俺よりアイツを理解してる奴なんてっ、俺よりアイツを愛してる奴なんているはずねぇっっ!!」

越前の胸倉を掴みながら、俺は想いの丈を全てぶちまけていた。
そんな俺に対して、越前は呆れた表情で見て来る。

「ふぅ…。まったく、桃先輩。告白する相手間違えてるんじゃないっスか? そんなに大事なら、本人にハッキリとその事を伝えればいいじゃないの? それからどうなるかなんてくよくよ考えて、告白も出来ない様じゃ…誰かに取られても文句言えないっスよ。」

「なっ…お前…。わざとかよっ!」

「さぁ…どうっスかね~。」

ニヤリと笑う越前に、一気に脱力してしまう。
でも、なんだかスッキリした。
確かに…くよくよ考え過ぎてたよな…。
えーぃ!! 当たって砕けろ精神で突っ走るしかねぇーな。ねぇーよっ!!

「……ありがとな。越前…。」

自分より背の低い、生意気な後輩のアドバイスのお陰ってのがちょっと気に食わないけど、決心は付いた。
ニッといつもの笑顔を向けると、不思議そうにしている越前の頭をポンポンと叩き、木陰から飛び出した。

「桃先輩?」

「サンキュ、越前。俺、ちょっくらアイツに告白してきんわーっ!!」

大声で宣言しつつ、アイツが居るであろう所までダッシュしていく。
考えるのは海堂の事だけ。
恋人になりたいとか、この関係が壊れるかもとか…そんな小さい事はどうでもいい。
ただ、この気持ちをアイツに…海堂には知っていてもらいたい。
こんなに好きになった奴、今までいないから。
『世界で一番、君が好き』なんて、どっかのドラマのフレーズなんて口にするつもりは無いけど、俺にとっての唯一はお前しか居ない…。
そう信じて居るから。
少し行った所で海堂を見つけた。
その後ろ姿に思い切って、声を描けてみる。

「っ…おいっ!海堂っ!ちょっと話しがあるんだけど……。」

振り向いた海堂はいつもの無愛想で…。
でも、しっかりと俺をその瞳に映していたーーー


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