【★雨の後には…★(リョ海)】
ゴロゴロゴローーーー
午後から降り出した雨は、六時間目を迎える頃には大雨になり、今では雷さえ鳴る程に勢いを増している。
「…………。」
退屈な授業ーーー こんな雨の日は、いつも以上に気分が乗らずボーとしてしまい、窓から雨足の強い外の景色を見る。
「チッ……。」
薄暗い灰色の雲が覆う空、止みそうに無い雨に思わず舌打ちしてしまう。
しかし、その音は周りに聞こえない位の弱さではあったが。
《……部活中止だな……》
誰よりも練習命な海堂には、雨は大敵である。
今日は体育館も他の部が使用しており使う事が出来ない、その上、いつもの自主練まで…この雨では諦めるしかない…。
そをな理由が重なり、雨がますます嫌いになった海堂であった。
「ふしゅ~~っ」
何とは無しに溜め息までが出てしまう始末だ。
そんな時、ポケッとに入れていた携帯がメールの着信を知らせる様にブルル……と鳴る。
《 授業中に誰だ? 》
そんな疑問を抱きつつ、黒板にチョークで数字の羅列を書き込んでいる先生に見つからない様に、こっそりと携帯の画面を見た。
そこには、1学年下の生意気な奴…『 越前 』の文字が映し出されていた。
「……………。」
一瞬、訝しげに眉をしかめつつ、メールを開いてみる。
そこなは……
『 件名:雨だね
本文: 今日は部活がなさそうだね。 そこで先輩にお願いがあるんスけど…。 海堂先輩の事だから、傘持ってきてるよね? 帰り道同じでしょ、俺も入れてよ。下駄箱の所で待ってるんで、ヨロシクオネガイシマス……。 』
今までも数回、しかも部の連絡網でしかメールのやり取りが無かった越前からの私用のメール。
頼み事の上に、こっちの都合を全く無視した勝手な言い分に、ますます眉間に皺が寄る。
《 越前の言い分に乗る義理はねぇな、撒こう…。》
そう考えていると、またメールの着信を感知する。
メールを開くと、かの人物で…。
『 件名:まさか…
本文: まさか、撒こうなんて考えてないっスよね? 後輩が困ってんのに、そんな冷たい事…海堂先輩には出来ないっスよね~。 』
「…………。」
メールの文が今、自分が考えていた事とドンピシャなあまり、なんでバレたんだろう…と唖然とする。
しかも、挑発してくる始末だ。
「あのやろっ…。」
携帯を閉じると、グッと思わず握り締めていた。
こうなるともう越前のペースで、いくら生意気が地の後輩だからと言って黙っていられないのが海堂の性分であった。
一発殴ってやるっと意気込み、授業が早く終われっと壁の時計を睨み付けた。
越前の思惑にまんまと乗せられたとも知らず、不機嫌を隠す事無く振りまいていた。
キーン・コーン・カーン・コーンーーーーー
授業終了の鐘と同時に教室を飛び出す海堂。
昇降口に辿り着くと、そこにはすでに越前の姿があった。
「早かったね、先輩。」
「てめぇっ、何のつもりだっ!」
怒りをあらわにする海堂に対し、平然とした越前の態度。
「なにが? ねぇ、それより早く帰ろうよ。」
その視線は、すでに外に向けられていた。
「なんで俺がっ!いつもみてーに、桃城と帰りゃいいじゃねぇかっ。」
ブスッとしたままの顔でさっきまでの誓いを忘れ、呟く。
「桃先輩は、自転車で帰るって。そんなのに付き合ってらんないよ。それに…海堂先輩と帰りたかったし…。」
ニヤッと含みのある笑みを見せる越前の、思いがけない一言に唖然と見詰めてしまった。
《 は? こいつ今、なんて言った? 俺と帰りたかったって…どっか悪いんじゃねぇか? 》
周りの、自分に対する感情や態度を良く理解している海堂には、部活でしか会う事が無く、決して仲の良いとは言えない越前からの言葉が信じられなかった。
思いがけない爆弾発言にフリーズしたままの海堂に、痺れを切らし越前が側に寄る。
「ねぇ、なに固まってんのさ。帰るっスよ、先輩。」
制服の袖を幾度か引っ張られ、やっと覚醒する。
「あ?あぁ…ふしゅ~。」
固まっていた事がバツが悪く、未だ袖を掴んだままの手を振り払うと、鞄の中から傘を出す。
もう、さっきまでの怒りも忘れ、諦めた様に先に靴を履く。
「ほら、行くぞ。早くしろ……。」
その言葉に気を良くし、越前はそそくさと自分の靴を履いた。
「OKっスよ。行きましょう。」
「あぁ……。」
2人はそのまま、未だ雨の止まない外に踏み出したーーーーー
帰りの道中。海堂からは口を開かず、いつもは自分からあまり喋らない事が多い越前がここぞとばかりに、何のジュースが好きかとか。音楽は何を聞いているかとか…。間を置かずに聞いてくる。
それに、律義にも返している海堂だった。
「なんで、てめぇはそんな事知りたがんだよ……?」
いい加減、聞かれ疲れた海堂が越前に疑問を投げ掛けてみた。
いい加減、聞かれ疲れた海堂が越前に疑問を投げ掛けてみた。
「そんなの知りたいからに決まってんじゃん。」
さも当たり前の様に言うのに、首を傾げる。
「は?…だから、なんでだよ?」
まるで分からないと言う海堂の表情に、思わず溜め息を吐く越前。
「………はぁ…。」
「 ? 」
「先輩、鈍感過ぎ…。」
言葉と共にグイッと引っ張られ、よろけた。
それでも無意識に越前が濡れない様に傘を傾けていた海堂であった。
その事に気を良くした越前は、ますますニマリと口を綻ばすと、海堂の首の後ろに手を回し驚いている海堂の唇にそっと自分の唇をくっ付けた。
時間にしては数秒の行為でも、海堂にとっては長く感じた。
しかも、自分が何故キスされているのかが分からない。
頭の中が真っ白になるというのはこういう事だろう…。
「んっ…。」
ハッと我に返り、目の前の相手を突き飛ばす。
が、それも予想の範囲だったのか、越前はひらりとその手をかわす。
「これで分かった?」
「なにがだっ!てめーっ、ふざけやがってっっ!」
唇をゴシゴシと手の甲で擦りながら、越前を睨み付ける。
「……まだ分からないって…あんた本当に年上?」
「っつ!バカにしてんのかっっ!」
馬鹿にした様な呆れた物言いに、ついに海堂がキレる。
しかし、それにも気にした風もなく淡々と続ける越前は、やっぱり大物だった。
「あーもぅ。バカになんてしてないから、ちょっと怒鳴るの止めてよね。もういいよ、はっきり言わないと海堂先輩には伝わらない事がよーく分かったから。」
「あ?なにがだよ。」
「俺は、アンタが好き。ねぇ、俺と付き合ってよ。」
「…………。」
二度目のフリーズ到来。
人間、理解不能な状況に陥ると固まるしかないようだ。
ますます、頭が混乱して思考が上手く纏まらない。
そんな海堂に追い討ちを掛けるように、迫る越前。
「ねぇってば!聞いてんの先輩っ。俺の気持ちは言ったよ。アンタはどうなのっ?」
「あ…いや…ふしゅ~。」
ズイッと迫り来る越前に、一歩引きつつあやふやな声しか出ない。
そんな海堂に、駄目押しとばかりに目を覗き込み、距離を詰める。
「はっきりしてよねっ。どう?付き合うのっ!?」
あまりの越前の迫力に、思わずコクリと頷いてしまった。
《 ……………; 》
ヤバイと思った時には、ニコリ顔の越前に二度目のキスまで奪われてしまっていた。
「んっ…んーっ!あっ…。」
さっきまでとは違い、口を割り舌が入って来る濃厚なそれに、耐えられず膝の力が抜ける。
それを見越したかの様に横から手が伸び、抱き留められた。
唇が離れた時には、すでに言い返す気力も無く。
ただ、恥ずかしさに俯くしか出来なかった。
空は、さっきまでの雨が嘘の様に晴れ渡っていた。
「大丈夫、立てる? さ、帰ろう…薫。」
「っつ!!」
意気なり名前を呼ぶ越前に、文句の一つでも言いたかったが、さっきの余韻が残る身体では何も出来ず、顔を赤くするだけしかなかった。
そんな様子にクスクスと人の悪い笑みを浮かべながら、手を伸ばす越前。
なんとも悔しいが、その手を取るしかない海堂であった。
手を繋ぎ、引っ張られながらも、なんだか嫌では無いと感じる自分。
《 もしかして自覚がなかっただけで、越前が好きだったのだろうか? 》
と、ぼんやり考える。
《 なんだか、とんでもない事になった…。》
心の中で呟きながらもその表情は、僅かに笑みが見られた。
そんな2人の始まりの日を、青空に掛かった虹が祝福している様であったーーー
END
午後から降り出した雨は、六時間目を迎える頃には大雨になり、今では雷さえ鳴る程に勢いを増している。
「…………。」
退屈な授業ーーー こんな雨の日は、いつも以上に気分が乗らずボーとしてしまい、窓から雨足の強い外の景色を見る。
「チッ……。」
薄暗い灰色の雲が覆う空、止みそうに無い雨に思わず舌打ちしてしまう。
しかし、その音は周りに聞こえない位の弱さではあったが。
《……部活中止だな……》
誰よりも練習命な海堂には、雨は大敵である。
今日は体育館も他の部が使用しており使う事が出来ない、その上、いつもの自主練まで…この雨では諦めるしかない…。
そをな理由が重なり、雨がますます嫌いになった海堂であった。
「ふしゅ~~っ」
何とは無しに溜め息までが出てしまう始末だ。
そんな時、ポケッとに入れていた携帯がメールの着信を知らせる様にブルル……と鳴る。
《 授業中に誰だ? 》
そんな疑問を抱きつつ、黒板にチョークで数字の羅列を書き込んでいる先生に見つからない様に、こっそりと携帯の画面を見た。
そこには、1学年下の生意気な奴…『 越前 』の文字が映し出されていた。
「……………。」
一瞬、訝しげに眉をしかめつつ、メールを開いてみる。
そこなは……
『 件名:雨だね
本文: 今日は部活がなさそうだね。 そこで先輩にお願いがあるんスけど…。 海堂先輩の事だから、傘持ってきてるよね? 帰り道同じでしょ、俺も入れてよ。下駄箱の所で待ってるんで、ヨロシクオネガイシマス……。 』
今までも数回、しかも部の連絡網でしかメールのやり取りが無かった越前からの私用のメール。
頼み事の上に、こっちの都合を全く無視した勝手な言い分に、ますます眉間に皺が寄る。
《 越前の言い分に乗る義理はねぇな、撒こう…。》
そう考えていると、またメールの着信を感知する。
メールを開くと、かの人物で…。
『 件名:まさか…
本文: まさか、撒こうなんて考えてないっスよね? 後輩が困ってんのに、そんな冷たい事…海堂先輩には出来ないっスよね~。 』
「…………。」
メールの文が今、自分が考えていた事とドンピシャなあまり、なんでバレたんだろう…と唖然とする。
しかも、挑発してくる始末だ。
「あのやろっ…。」
携帯を閉じると、グッと思わず握り締めていた。
こうなるともう越前のペースで、いくら生意気が地の後輩だからと言って黙っていられないのが海堂の性分であった。
一発殴ってやるっと意気込み、授業が早く終われっと壁の時計を睨み付けた。
越前の思惑にまんまと乗せられたとも知らず、不機嫌を隠す事無く振りまいていた。
キーン・コーン・カーン・コーンーーーーー
授業終了の鐘と同時に教室を飛び出す海堂。
昇降口に辿り着くと、そこにはすでに越前の姿があった。
「早かったね、先輩。」
「てめぇっ、何のつもりだっ!」
怒りをあらわにする海堂に対し、平然とした越前の態度。
「なにが? ねぇ、それより早く帰ろうよ。」
その視線は、すでに外に向けられていた。
「なんで俺がっ!いつもみてーに、桃城と帰りゃいいじゃねぇかっ。」
ブスッとしたままの顔でさっきまでの誓いを忘れ、呟く。
「桃先輩は、自転車で帰るって。そんなのに付き合ってらんないよ。それに…海堂先輩と帰りたかったし…。」
ニヤッと含みのある笑みを見せる越前の、思いがけない一言に唖然と見詰めてしまった。
《 は? こいつ今、なんて言った? 俺と帰りたかったって…どっか悪いんじゃねぇか? 》
周りの、自分に対する感情や態度を良く理解している海堂には、部活でしか会う事が無く、決して仲の良いとは言えない越前からの言葉が信じられなかった。
思いがけない爆弾発言にフリーズしたままの海堂に、痺れを切らし越前が側に寄る。
「ねぇ、なに固まってんのさ。帰るっスよ、先輩。」
制服の袖を幾度か引っ張られ、やっと覚醒する。
「あ?あぁ…ふしゅ~。」
固まっていた事がバツが悪く、未だ袖を掴んだままの手を振り払うと、鞄の中から傘を出す。
もう、さっきまでの怒りも忘れ、諦めた様に先に靴を履く。
「ほら、行くぞ。早くしろ……。」
その言葉に気を良くし、越前はそそくさと自分の靴を履いた。
「OKっスよ。行きましょう。」
「あぁ……。」
2人はそのまま、未だ雨の止まない外に踏み出したーーーーー
帰りの道中。海堂からは口を開かず、いつもは自分からあまり喋らない事が多い越前がここぞとばかりに、何のジュースが好きかとか。音楽は何を聞いているかとか…。間を置かずに聞いてくる。
それに、律義にも返している海堂だった。
「なんで、てめぇはそんな事知りたがんだよ……?」
いい加減、聞かれ疲れた海堂が越前に疑問を投げ掛けてみた。
いい加減、聞かれ疲れた海堂が越前に疑問を投げ掛けてみた。
「そんなの知りたいからに決まってんじゃん。」
さも当たり前の様に言うのに、首を傾げる。
「は?…だから、なんでだよ?」
まるで分からないと言う海堂の表情に、思わず溜め息を吐く越前。
「………はぁ…。」
「 ? 」
「先輩、鈍感過ぎ…。」
言葉と共にグイッと引っ張られ、よろけた。
それでも無意識に越前が濡れない様に傘を傾けていた海堂であった。
その事に気を良くした越前は、ますますニマリと口を綻ばすと、海堂の首の後ろに手を回し驚いている海堂の唇にそっと自分の唇をくっ付けた。
時間にしては数秒の行為でも、海堂にとっては長く感じた。
しかも、自分が何故キスされているのかが分からない。
頭の中が真っ白になるというのはこういう事だろう…。
「んっ…。」
ハッと我に返り、目の前の相手を突き飛ばす。
が、それも予想の範囲だったのか、越前はひらりとその手をかわす。
「これで分かった?」
「なにがだっ!てめーっ、ふざけやがってっっ!」
唇をゴシゴシと手の甲で擦りながら、越前を睨み付ける。
「……まだ分からないって…あんた本当に年上?」
「っつ!バカにしてんのかっっ!」
馬鹿にした様な呆れた物言いに、ついに海堂がキレる。
しかし、それにも気にした風もなく淡々と続ける越前は、やっぱり大物だった。
「あーもぅ。バカになんてしてないから、ちょっと怒鳴るの止めてよね。もういいよ、はっきり言わないと海堂先輩には伝わらない事がよーく分かったから。」
「あ?なにがだよ。」
「俺は、アンタが好き。ねぇ、俺と付き合ってよ。」
「…………。」
二度目のフリーズ到来。
人間、理解不能な状況に陥ると固まるしかないようだ。
ますます、頭が混乱して思考が上手く纏まらない。
そんな海堂に追い討ちを掛けるように、迫る越前。
「ねぇってば!聞いてんの先輩っ。俺の気持ちは言ったよ。アンタはどうなのっ?」
「あ…いや…ふしゅ~。」
ズイッと迫り来る越前に、一歩引きつつあやふやな声しか出ない。
そんな海堂に、駄目押しとばかりに目を覗き込み、距離を詰める。
「はっきりしてよねっ。どう?付き合うのっ!?」
あまりの越前の迫力に、思わずコクリと頷いてしまった。
《 ……………; 》
ヤバイと思った時には、ニコリ顔の越前に二度目のキスまで奪われてしまっていた。
「んっ…んーっ!あっ…。」
さっきまでとは違い、口を割り舌が入って来る濃厚なそれに、耐えられず膝の力が抜ける。
それを見越したかの様に横から手が伸び、抱き留められた。
唇が離れた時には、すでに言い返す気力も無く。
ただ、恥ずかしさに俯くしか出来なかった。
空は、さっきまでの雨が嘘の様に晴れ渡っていた。
「大丈夫、立てる? さ、帰ろう…薫。」
「っつ!!」
意気なり名前を呼ぶ越前に、文句の一つでも言いたかったが、さっきの余韻が残る身体では何も出来ず、顔を赤くするだけしかなかった。
そんな様子にクスクスと人の悪い笑みを浮かべながら、手を伸ばす越前。
なんとも悔しいが、その手を取るしかない海堂であった。
手を繋ぎ、引っ張られながらも、なんだか嫌では無いと感じる自分。
《 もしかして自覚がなかっただけで、越前が好きだったのだろうか? 》
と、ぼんやり考える。
《 なんだか、とんでもない事になった…。》
心の中で呟きながらもその表情は、僅かに笑みが見られた。
そんな2人の始まりの日を、青空に掛かった虹が祝福している様であったーーー
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