『★夕焼け★(桃海)』
部活後の自主練を終え、部活へと戻る。
すでに他の部員は帰り、誰も居る筈が無いのに、部室の窓からは明るい光が漏れていた。こんな時間に残ってるなんて…一体、誰だ?
不信に思いながらも、このままここにいる訳にもいかず、ドアに手を掛けた。
扉の向こうにはーーー
ベンチに座って眠りこけている、バカ面した桃城が居た。
「なんで、コイツが…。」
誰よりも早く帰ったと思われた桃城が居た事に、内心驚いた。
ジーッとその寝顔をまじまじと見てしまった。
しかし、一向に桃城が起きる気配は無い。
それに、少しばかり安心しつつ、着替え始める。
汗を拭き、ジャージから制服に着替える間も桃城は、依然起きない。すでに、制服に着替え終わった海堂は、この寝ている人間を見ながらどうしようかと考えていた。
鍵は自分が持っている。
テーブルに鍵を置いて、自分は帰るって手も有る事には有るが…。
このままにして、桃城がいつ起きるかも分からないし、風邪を引かないとも限らない…。さて、どうしよう…。
と変な所で真剣に悩む海堂であった。
ライバルで犬猿の仲と言う前に、一応、恋人にも当たる人物をこのまま放って置くって言うのも…冷たい話しだ。
結局、海堂は桃城に声を掛ける事にした。
側に行き、まだ眠りこけている桃城の肩を軽く押しながら名前を呼んでみる。
「おい、桃城っ。起きろっ!」
「……ん?…すぅ……。」
声を掛けられた桃城は、少し寝ぼけながらもその瞳を微かに開いた。
「てめっ、ちゃんと起きろっ!!」
今度はさっきよりも強く揺さぶる…と、ビクッと桃城の身体が反応した。
「ふぇっ!な、なんだっ!!」
「起きたか?」
驚き、起き上がった間抜け面の桃城に呆れつつ溜め息を吐く。
「あ…なんだ、海堂か…。驚かすなよな~っ。」
「てめぇが、寝てるのが悪い。ほらっ、とっとと外に出ろ。鍵、閉められねぇだろうが。」
「あー? たくっ待ってたってのに、冷てぇな。冷てぇよ…。」
ベンチから腰を上げた桃城が、俺の脇を通り、外に出る。
部室の電気を消し鍵を閉めながら、桃城の言葉の引っ掛かりに気付いた。
「てめぇ…さっき、なんて言った?」
「へ? 薫が、冷てぇ?」
「誰が薫だっ!名前で呼ぶんじゃねぇっ!」
海堂から桃城に、すかさず鉄拳が飛ぶ。
素早かった為、避けられる事も無く桃城の頭に直撃する。
直撃した頭を手で押さえつつ涙目になりながら、恨めしそうにこちらを見てくる桃城に、また溜め息が出る。
「アテテテー。何すんだよ~。いいじゃねぇか、名前くれぇ。」
「良くねぇ。その前の話だ。」
「その前?………ああ。待ってたって事か?」
一度首を傾げ、数秒考えたかと思うとポンと手を叩き、こちらを見る桃城。
「誰がそんな事頼んだ…。」
「は? んな露骨に嫌な顔すんなよ、凹むだろー。俺がただ待ってたのっ!お前と帰りたかったからさ。」
「迷惑だ。」
「…お前なー。もっと他に言葉ねぇのかよ…;」
「本心だから、仕方ねぇ。」
がっくりと項垂れる桃城を置いて、さっさと歩き出す。
それに気付いた桃城が、後ろから追いかけてくる。
「っがーっ!!可愛くねぇな。可愛くねぇよっ!」
「当たり前だ、気持ち悪ぃ。」
「ホント、なんだかな~お前って…。」
そっぽを向いたままの海堂に、呆れ果てる桃城。
チラッとこちらを見る桃城の視線に気付きつつも、絶対折れてやるかと変な所で意地を張ってしまう。
「勝手に帰れ。」
「それじゃ、意味ねぇだろー。」
どこまでも自分の後ろを付いてくる桃城に苛立つ。
「付いてくんじゃねぇっ!」
「俺もこっちが帰り道なんだよっ!」
「てめぇ、チャリはどうしたっ!」
「あっ! んなもん学校に置いて来たに決まってんだろっ!」
「なんでだよっ?」
「っつ!だからっ!お前と帰りたいからだって言ってんじゃねぇかっ!ちょっとは俺の気持ち分かれっ!!」
どこまでも続く海堂と桃城の言い争い。校門から続いた口論は、突然の桃城の大声と共に意気なり掴まれた手によって止まった。
左手に感じる暖かくて自分とさほど変わらない大きな手。
それが、桃城の物だと分かると、急に恥ずかしくなる。
「てめっ、手、離せっっ!!」
「嫌だっ!ぜってぇ離さねぇっ!!」
「この馬鹿城がっ!」
「へーへー。言ってろ、言ってろ。」
いくら口で言っても。手を離そうと力を入れても一向に離れない手にいい加減諦めモードになって来る。
「っつ。勝手にしろっ!」
「おぅ!勝手にするぜ♪」
プイッと顔を背ける。が、反対方向で桃城が嬉しそうに笑っているのが、雰囲気で分かる。
それが、ますます憎らしい。
「ちっ。」
その苛立ちを、舌を鳴らす事で少し解消する。
そんな俺の態度にも気にした風も無く、桃城はご機嫌だ。
「なあなあ、海堂♪」
「あ?何だよ…。」
脱力感から返事も何となく投げやりになってしまう。
「これから何か食べに行かねぇ?」
「行かねぇ。」
「なんだよケチくせーな。じゃあ、散歩しねぇ?」
「ヤダ。しねぇ。」
「ホント、冷たいな;じゃあ、俺ん家来ねぇ?」
「行くはずねぇ。」
その後も桃城があれしよう、これしよう…と言う度に即答で返す海堂。さすがの桃城も段々とその額に青筋が浮かんでくる。
「……………。」
さっきまで五月蠅く話していた桃城が、意気なり無言になる。
不信に思い桃城の方を見るが、その顔は何やら考えている様で…。
「なあ、海堂。俺の事、ホントは嫌いか?」
「…………………キライ…。」
プイッとそっぽを向きつつ答える。
「ふーん。キライなんだ? そうか、そうか。それは良かった♪」
キライと言ったのに、何故か嬉しそうに言う桃城が不思議だった。
「……なんで、良かったなんだよ?」
不信に思って顔を向けると、そこには満面の笑みを浮かべる桃城が居た。
「ん? なんでって…お前が俺の事が、ホントはすっごく好きだって分かったからよ~。これが嬉しがらずにいられるかって♪」
「なっ!なんでそうなるんだよっ。俺は……キライって言っただろっ!」
勝手な解釈をする桃城に食って掛かる。が、それも桃城の言葉の前には効力を無くした。
「だってよー、さっきまでは何を言っても即答してただろ?なのに、キライって言う時だけ、間を空けるって事は、ホントは正反対だって事じゃねぇの? それに、お前。自分の顔、分かってるか?」
「っ……今の顔?」
ニコニコ笑って、図星を言う桃城に言葉も無い。しかし、顔ってどういう事だ?
首を傾げていると、桃城の手が頬に降りてくる。
「ここ、真っ赤になってるぜ~♪」
「っつ!!」
自分では気付かなかったが、キライと言った時に本心が顔に出てたらしい。
醜態だ…と悔しくなる。
キッとその気持ちを、桃城を睨み付ける事で払拭した。
その顔はやはり赤いままであったが。
「ふしゅ~。黙れっ、バカ桃っ。」
「はいはい、ホント、素直じゃねぇな~。素直じゃねぇよ~。」
呆れた様に言う桃城だったが、その表情はどこかすっきりしていて、まだ笑っている。
そんな表情を見ていると悔しくもあるが、コイツには敵わねぇな…とも感じる。
素直に言ってやるつもりは更々無いが、やっぱりコイツが好きらしい。
「おっ!見てみろよ、海堂!!」
桃城が指す方を見れば、真っ赤に燃える夕焼けがその姿を現していた。
「……………綺麗だな…。」
「な!すげぇよな~☆」
「ああ…。」
今日桃城はチャリでもないし、自分は何故かコイツと歩いている。
しかも、手なんか繋いで、いつもみたいに喧嘩して…。
遠巻きな告白なんかもしてしまった…。
そして、綺麗な夕焼けを一緒に眺めている。
いつもとは違った日常だけど、こんな日もあってもいいか…と思う。
隣には馬鹿しかしねぇ、桃城が居て。
こうして笑っている…。
そんな日々が続けばいいな…なんて思うのは、きっとこの夕焼けが綺麗だからだ。
だから、少し素直にもなってしまう。
「なぁ、やっぱり今日、俺ん家来ねぇ?」
「……勝手にしろ。」
手を繋ぎ、仲良く歩く2人の後ろ姿を夕焼けだけが見送っていたーーーー
END
すでに他の部員は帰り、誰も居る筈が無いのに、部室の窓からは明るい光が漏れていた。こんな時間に残ってるなんて…一体、誰だ?
不信に思いながらも、このままここにいる訳にもいかず、ドアに手を掛けた。
扉の向こうにはーーー
ベンチに座って眠りこけている、バカ面した桃城が居た。
「なんで、コイツが…。」
誰よりも早く帰ったと思われた桃城が居た事に、内心驚いた。
ジーッとその寝顔をまじまじと見てしまった。
しかし、一向に桃城が起きる気配は無い。
それに、少しばかり安心しつつ、着替え始める。
汗を拭き、ジャージから制服に着替える間も桃城は、依然起きない。すでに、制服に着替え終わった海堂は、この寝ている人間を見ながらどうしようかと考えていた。
鍵は自分が持っている。
テーブルに鍵を置いて、自分は帰るって手も有る事には有るが…。
このままにして、桃城がいつ起きるかも分からないし、風邪を引かないとも限らない…。さて、どうしよう…。
と変な所で真剣に悩む海堂であった。
ライバルで犬猿の仲と言う前に、一応、恋人にも当たる人物をこのまま放って置くって言うのも…冷たい話しだ。
結局、海堂は桃城に声を掛ける事にした。
側に行き、まだ眠りこけている桃城の肩を軽く押しながら名前を呼んでみる。
「おい、桃城っ。起きろっ!」
「……ん?…すぅ……。」
声を掛けられた桃城は、少し寝ぼけながらもその瞳を微かに開いた。
「てめっ、ちゃんと起きろっ!!」
今度はさっきよりも強く揺さぶる…と、ビクッと桃城の身体が反応した。
「ふぇっ!な、なんだっ!!」
「起きたか?」
驚き、起き上がった間抜け面の桃城に呆れつつ溜め息を吐く。
「あ…なんだ、海堂か…。驚かすなよな~っ。」
「てめぇが、寝てるのが悪い。ほらっ、とっとと外に出ろ。鍵、閉められねぇだろうが。」
「あー? たくっ待ってたってのに、冷てぇな。冷てぇよ…。」
ベンチから腰を上げた桃城が、俺の脇を通り、外に出る。
部室の電気を消し鍵を閉めながら、桃城の言葉の引っ掛かりに気付いた。
「てめぇ…さっき、なんて言った?」
「へ? 薫が、冷てぇ?」
「誰が薫だっ!名前で呼ぶんじゃねぇっ!」
海堂から桃城に、すかさず鉄拳が飛ぶ。
素早かった為、避けられる事も無く桃城の頭に直撃する。
直撃した頭を手で押さえつつ涙目になりながら、恨めしそうにこちらを見てくる桃城に、また溜め息が出る。
「アテテテー。何すんだよ~。いいじゃねぇか、名前くれぇ。」
「良くねぇ。その前の話だ。」
「その前?………ああ。待ってたって事か?」
一度首を傾げ、数秒考えたかと思うとポンと手を叩き、こちらを見る桃城。
「誰がそんな事頼んだ…。」
「は? んな露骨に嫌な顔すんなよ、凹むだろー。俺がただ待ってたのっ!お前と帰りたかったからさ。」
「迷惑だ。」
「…お前なー。もっと他に言葉ねぇのかよ…;」
「本心だから、仕方ねぇ。」
がっくりと項垂れる桃城を置いて、さっさと歩き出す。
それに気付いた桃城が、後ろから追いかけてくる。
「っがーっ!!可愛くねぇな。可愛くねぇよっ!」
「当たり前だ、気持ち悪ぃ。」
「ホント、なんだかな~お前って…。」
そっぽを向いたままの海堂に、呆れ果てる桃城。
チラッとこちらを見る桃城の視線に気付きつつも、絶対折れてやるかと変な所で意地を張ってしまう。
「勝手に帰れ。」
「それじゃ、意味ねぇだろー。」
どこまでも自分の後ろを付いてくる桃城に苛立つ。
「付いてくんじゃねぇっ!」
「俺もこっちが帰り道なんだよっ!」
「てめぇ、チャリはどうしたっ!」
「あっ! んなもん学校に置いて来たに決まってんだろっ!」
「なんでだよっ?」
「っつ!だからっ!お前と帰りたいからだって言ってんじゃねぇかっ!ちょっとは俺の気持ち分かれっ!!」
どこまでも続く海堂と桃城の言い争い。校門から続いた口論は、突然の桃城の大声と共に意気なり掴まれた手によって止まった。
左手に感じる暖かくて自分とさほど変わらない大きな手。
それが、桃城の物だと分かると、急に恥ずかしくなる。
「てめっ、手、離せっっ!!」
「嫌だっ!ぜってぇ離さねぇっ!!」
「この馬鹿城がっ!」
「へーへー。言ってろ、言ってろ。」
いくら口で言っても。手を離そうと力を入れても一向に離れない手にいい加減諦めモードになって来る。
「っつ。勝手にしろっ!」
「おぅ!勝手にするぜ♪」
プイッと顔を背ける。が、反対方向で桃城が嬉しそうに笑っているのが、雰囲気で分かる。
それが、ますます憎らしい。
「ちっ。」
その苛立ちを、舌を鳴らす事で少し解消する。
そんな俺の態度にも気にした風も無く、桃城はご機嫌だ。
「なあなあ、海堂♪」
「あ?何だよ…。」
脱力感から返事も何となく投げやりになってしまう。
「これから何か食べに行かねぇ?」
「行かねぇ。」
「なんだよケチくせーな。じゃあ、散歩しねぇ?」
「ヤダ。しねぇ。」
「ホント、冷たいな;じゃあ、俺ん家来ねぇ?」
「行くはずねぇ。」
その後も桃城があれしよう、これしよう…と言う度に即答で返す海堂。さすがの桃城も段々とその額に青筋が浮かんでくる。
「……………。」
さっきまで五月蠅く話していた桃城が、意気なり無言になる。
不信に思い桃城の方を見るが、その顔は何やら考えている様で…。
「なあ、海堂。俺の事、ホントは嫌いか?」
「…………………キライ…。」
プイッとそっぽを向きつつ答える。
「ふーん。キライなんだ? そうか、そうか。それは良かった♪」
キライと言ったのに、何故か嬉しそうに言う桃城が不思議だった。
「……なんで、良かったなんだよ?」
不信に思って顔を向けると、そこには満面の笑みを浮かべる桃城が居た。
「ん? なんでって…お前が俺の事が、ホントはすっごく好きだって分かったからよ~。これが嬉しがらずにいられるかって♪」
「なっ!なんでそうなるんだよっ。俺は……キライって言っただろっ!」
勝手な解釈をする桃城に食って掛かる。が、それも桃城の言葉の前には効力を無くした。
「だってよー、さっきまでは何を言っても即答してただろ?なのに、キライって言う時だけ、間を空けるって事は、ホントは正反対だって事じゃねぇの? それに、お前。自分の顔、分かってるか?」
「っ……今の顔?」
ニコニコ笑って、図星を言う桃城に言葉も無い。しかし、顔ってどういう事だ?
首を傾げていると、桃城の手が頬に降りてくる。
「ここ、真っ赤になってるぜ~♪」
「っつ!!」
自分では気付かなかったが、キライと言った時に本心が顔に出てたらしい。
醜態だ…と悔しくなる。
キッとその気持ちを、桃城を睨み付ける事で払拭した。
その顔はやはり赤いままであったが。
「ふしゅ~。黙れっ、バカ桃っ。」
「はいはい、ホント、素直じゃねぇな~。素直じゃねぇよ~。」
呆れた様に言う桃城だったが、その表情はどこかすっきりしていて、まだ笑っている。
そんな表情を見ていると悔しくもあるが、コイツには敵わねぇな…とも感じる。
素直に言ってやるつもりは更々無いが、やっぱりコイツが好きらしい。
「おっ!見てみろよ、海堂!!」
桃城が指す方を見れば、真っ赤に燃える夕焼けがその姿を現していた。
「……………綺麗だな…。」
「な!すげぇよな~☆」
「ああ…。」
今日桃城はチャリでもないし、自分は何故かコイツと歩いている。
しかも、手なんか繋いで、いつもみたいに喧嘩して…。
遠巻きな告白なんかもしてしまった…。
そして、綺麗な夕焼けを一緒に眺めている。
いつもとは違った日常だけど、こんな日もあってもいいか…と思う。
隣には馬鹿しかしねぇ、桃城が居て。
こうして笑っている…。
そんな日々が続けばいいな…なんて思うのは、きっとこの夕焼けが綺麗だからだ。
だから、少し素直にもなってしまう。
「なぁ、やっぱり今日、俺ん家来ねぇ?」
「……勝手にしろ。」
手を繋ぎ、仲良く歩く2人の後ろ姿を夕焼けだけが見送っていたーーーー
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