『★無自覚★(桃+海&微塚リョ)』

暖かい日差しが降り注ぐ、お昼休みの屋上 ーーー
海堂に桃城に越前…1・2年コンビの3人は、いつの間に仲良くなったのか、昼食を一緒に取る様になっていた。
今日も屋上の一角を陣取り、3人は弁当を広げている。っと言っても、弁当なのは海堂だけで、後の2人は授業が終わったと同時に駆け付けた購買で買ったパンであったが…。 今日も今日とて、礼儀正しい海堂は食べる前には必ず箸を揃え、手を合わせると「いただきます」の挨拶付きだ。
初めこそ、そのいつもの雰囲気とは違った様子に面食らった2人だったが、今では馴染みの物である。
今日もその挨拶を心地よく聞き、自分のパンにかぶりついた。
昼食も中盤に入った頃、やはりと言うか、お馴染みと言うか…。
犬猿の仲の2人が、またまた言い争いをし出した。それでも止める気が全く無い越前は、我知らずと一人黙々と食べている。
ここに部長や副部長がいれば、すぐに止めに入るだろうが、生憎ここには無関心が歩いている様な越前しかいなかった。

「てめぇっ!何、食べようとしてんだよっ!これは俺んだっ!?」

必死に自分の弁当を死守しようとする海堂に対し、桃城も負けていなかった。

「ケチケチすんなよマムシ~っ!んな、いっぱいあんだから一つくれぇーでガタガタ言うなよな~。 ケチくせーな。ケチくせーよ。」

横から手を出し奪い取ろうとする桃城。
ますます頭に血が上る海堂は、正論で返す。

「ケチもなにも、これは俺のなんだから俺がどーしようが、てめぇには関係ねぇだろっ!大体、てめぇー箸ねぇだろっ! どうやって食うんだよっっ!?」

だが、正論が効かないのが青学一の曲者だった。

「箸なら、そこにあんだろ~。食べさせてくれたら、俺が箸無くても万事OKじゃん☆」 にこ~っと悪びれもせず、さもそうするのが当たり前の様に言う桃城に、呆れ果てるしかなかった。
「ふしゅ~…。」
これもまた一緒に食べ初めてからの恒例行事だった。 この後の展開が読めつつ、ジーとその様子を見つめる越前。
彼には常々、言いたい事があった。その間にも越前が居るにも関わらず、目の前では根負けした海堂が溜め息を吐きつつ、桃城に何が欲しいか聞いている。

「たくっっ! どれが欲しいんだよ…。」

「あーと、今日はどれにしようかな~♪やっぱ、穂摘さん特製の卵焼きかな~☆」

キョロキョロと見渡し、リクエストを決めた桃城に呆れつつ、箸で卵焼きを摘む海堂。

「ほら…。」

それに合わせて口を大きく開く桃城。
その、まるであ~ん♪と言う口に、自然の事の様に卵焼きを入れてやる海堂の姿。

「うめ~☆」

口の中に広がる卵焼きの美味しさに顔を綻ばす桃城と、そんな桃城の様子を微かに笑みを浮かべ見る海堂…。
一部始終を見比べ、越前はついに思っていた事を呟いた。

「ねぇ…。」

「 ? 」

「なんだよ、越前?」

不思議そうに自分を見る2人を、ジーっと見つめる。

「それって……自覚あり?」

「「 は? 」」

越前の訳の分からぬ問いに、2人同時に間抜けな顔を生意気な後輩に向ける。
その表情から、今の一連の流れが無自覚だと感じ取り、『ふぅー』と溜め息を吐く。
立ち上がると、ぼそっと呟き、その場を後にした。

「まだまだだね、2人とも…。」

越前の消えたドアを見つつ、言われた言葉に首を傾げる2人の姿があったーーー


一方、越前はと言うとーーー
屋上からの階段を降りながら、窓からの景色に黄昏ていた。
《 部長……早く帰って来てよ…。 》
遠い空の下に居る手塚に想いをはせ、さっきの先輩2人の無自覚な当て付けに不機嫌になっていたとか…。


明日もあの、くっ付いている様でくっ付いていないバカップルに当てられるのか…と大きな溜め息を吐くのだった。

「やっぱ…まだまだだね。」

END
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