破門される魔術師

第1話

 ――どうしよう、どうしよう、どうしようっ!

 師匠の部屋から追い出されたわたしは、自室に戻ろうか否か、迷っていた。つい先程のことだ。師匠はわたしにある宣告をした。

 ――「お前は破門だ」と。

 当然、わたしは絶句した。そして、頭のなかでは、ゆっくりと思考をはじめた。

 師匠に破門されるということは、上級魔術師の道が閉ざされたに等しい。しかも、わたしはようやく下級魔術師に手が届いたくらいの半人前だ。師匠に破門されれば、当然、行くところもない。紹介状なしでは他の師匠を探すのは難しいだろう。

 つまりは、はじまってもいないわたしの魔術師人生の終わりを示している。

 どうにかならないか、わたしが食い下がったとき、師匠はまたまた人の悪い笑みを浮かべた。

 ――「ただし、フルグライトとのけじめをつけられれば、破門は取り消す」

 一度、「破門」という地獄のような言葉を受けたため、その言葉は救いのように感じられた。わたしはその提案にすがるしかない。「けじめ」の意味をたずねると、師匠はますます笑みを深くした。

 ――「話はこうだ。あの男、つまりはアルダス・フルグライトと結婚しろ」

 ――「そ、そんな無理です!」

 フルグライト様はわたしと恋仲(口に出すのももったいない)である。2日に1回はわたしの部屋で過ごしているし、たまの休みにはフルグライト様と街へ出てみたりしている。だからといって、結婚なんてまだ早い。フルグライト様が旦那様なんて、嬉しすぎるし、とにかくおそれ多い。

 ――「エリアル。これは決定事項だ。破門されたくなかったら、フルグライトをものにしてこい。そうすれば、城のなかの我らの地位は安泰だ。愛のある政略結婚……素晴らしいではないか」

 師匠は良からぬ企みをしているようだが、わたしは正直、「結婚」のことで頭が一杯だった。白い結婚衣装に身を包んだわたしの隣に騎士服姿のフルグライト様が立つ。そんな夢が実現できるとは思えない。

 それに、破門はされたくないとの思いで結婚するのは違う気がする。すべてをぶちまけてフルグライト様が結婚を許してくれるわけがないと思う。でも、魔術師の道も諦めきれない。その気持ちが少なからずあったから、師匠を前にして「わ、わかりました」なんて返事をしていたのだろう。
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