毛玉とダイエット

終 毛玉のすべて

 おじいちゃんはわたしのために旅に出ていた。ふくれる体を抑える薬を探すための旅はどれだけ大変だったのだろう。おじいちゃんの顔は泥だらけだった。

「おじいちゃん!」

 申し訳ないけど勇者を押し転がして、おじいちゃんに駆け寄った。会えない日々がわたしの嬉しさをたくさん増やしてくれる。だけど、おじいちゃんは違ったみたい。

「そいつは何だ?」

「そいつ?」おじいちゃんはしわくちゃな目元を細めて、勇者をにらみつけた。

「わしには人間のように見えるが」

「だって、人間だもの」

 おじいちゃんったらおかしな顔をする。何でだろ?

「人間……ここは魔界だぞ? 並みの人間ならばこの臭気にやられて」

「勇者だもの」

「ゆ、勇者!」

 確かに驚くよな~と思う。のんきなわたしでも勇者だとわかったとき、驚いた。おじいちゃんでも無理はない。

 事情を説明すると、ふむふむとおじいちゃんは相づちを打った。そして、話すことがなくなると、おじいちゃんは勇者をにらみつけた。その目はすわっていてすごく怖い。

「事情はわかった」

「わかってくれたの!」

「話が進まぬから、お前は少し黙っておれ。のう、勇者殿よ」

「何でしょうか、おじいさま」

「こやつは勇者殿の恩人だな」

「はい。この恩に報いるためにも一生、そばにいるつもりです」

 「え、一生?」わたしは声には出さなかったけど、かなり驚いていた。

「えらい!」

「いえ」

「わしも歳だ。死も近い。勇者殿ならば、こやつのことをすべて任せてもよい。そして、これを託そう」

 おじいちゃんはしわだらけの手で紫色のガラス瓶を差し出した。勇者はためらいなく受け取り、瓶をまじまじと眺めた。わたしも気になって顔を寄せると、勇者は「う、お」と顔を遠ざける。そんなに一緒に見るのが嫌なのか。ひどい。わたしがすねている間にもふたりは話を続ける。

「俺が見る限り、これは魔法薬ですね」

「そうだ。毛の成長を抑える薬だ。あとは副作用として、体がやせる。人間にはほとんど需要がない薬だがな」

 成長をしないなら、わたしは膨れないでいられる。爆発しないで済む。それがこんなに嬉しいなんて。

「それじゃあ、わたし、生きていていいの?」

「生きていておくれ。お前の可愛い子をわしに見せておくれ」

「うん!」

 元気よくうなずいたら、どこからともなく「うぐっ」と変な声が聞こえた。でもすぐに、そんなことはどうでもよくなって、わたしはおじいちゃんにハグをねだった。

 さてさて、おじいちゃんがくれた薬はまずくて吐きそうだったけど、その翌日、勇者はわたしを見て、落ち着きがなかった。「その、胸が、尻が」なんて変なつぶやきばかり。よくわかんないけど、わたしは勇者に飛びついて、自分からはじめてギュッとした。

おわり
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