戦神王子と男装兵士

第7話

 この7日間でローナとノアの間には明らかな変化が見られた。2人は必要以上に接触しないようにしていた。会話も事務的にものを並べるだけで、世間話をする隙はほとんどなくなった。

 ノアはダニールの荷物をまとめる手伝いをするなかで、もやもやした気持ちを抱えた。ローナは必要なガウンや靴を残して、他の衣類は来たときと同じように、紋章が刻まれた箱に入れていく。その顔は仕事に没頭していて、ノアを見る余裕もなさそうだ。

「ノア」ダニールはノアのとなりで顔をほころばせる。

 2人の関係だけではなく、ダニールとノアもぎくしゃくしていた。ノアのほうが一方的に避けていると言っていいのだが。

 あと一日でダニールは行ってしまうのに、ノアは自分に生まれた気持ちを受け入れられないでいる。ローナの言葉をしみじみ感じながら、自らの秘密と、身分の差という絶対的なものを考えて身動きがとれなかった。どちらも足かせのように重いのだ。

 ため息を吐くとダニールに心配されてしまう。いったいどうしたら解決できるのだろうか。ダニールがいなくなったとき、ノアとローナの間は今まで通りに戻れるのか。答えはなかった。

 昼が過ぎ、晩餐が済めば、ローナは帰り支度をはじめる。話し掛けるならこのときだけだとノアは決めていた。屋敷の入り口を出たところで後ろから声をかけた。ローナが振り向く。

「何か?」

「あのさ」言い渋るノアに、ローナは苛立ったように髪を耳にかけた。

「早く話してくれる?」

「はじめて会ったときのこと覚えてる?」

「……覚えてるわ」

「僕が全然話せないものだから、ローナは怒ったんだ。『あいさつもできないの!』って」

「そうね。だって」

「でも、うれしかった。施設以外で女の子と話せたのははじめてだった。あのときから僕はきみを友達だと思ってきた。かけがえのない友達だと思っているんだよ」

「わかってるわよ、そんなこと。けどダーナ様が現われて、あなたが奪われるかもしれないって考えたら、友達じゃ嫌だなって思ったの。だから、ちょっと意地悪しちゃった。身分とか性別とか、関係ないのにね。何が言いたいのかって言うと……ノアのしあわせを祈ってる」

「しあわせ」

「そうよ。わたしは友達……なんだからあなたの背中を押してあげる」

 ローナはノアの肩を掴んで、反転させた。少しの間、背中に頭を預けたあと、「それじゃ、また明日」とポンと叩かれた。
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