ヤメ騎士さんとわたし

最終話『結婚式』


 今日、セブランさんとモニクの結婚式がとりおこなわれた。

 セブランさん、モニク、ロルフさんたちの故郷での結婚式。とても素敵だった。

 村に咲いたバラが教会までの道を埋めつくした。バラの花びらがシャワーのように降り注いだ。ジゼルさんも見ていたのではないだろうか。

 広場には魔女像が建っていて、ダリヤまでもが村を見守っている。本当はロルフさんの像が建つ予定だったけれど、本人が嫌がった。「英雄ではない」、「建てるなら、ダリヤにしてくれ」と言ったんだそう。代わりに建つことになったダリヤはりりしく、魔法をかかげている。

 わたしのなかのダリヤは、まったく顔を出さなくなった。声も聞こえない。

 モニクの見解によれば、「魂は天に召された」というのだ。お別れもなく、わたしのなかから離れてしまった。それは淋しいけれど、安心したのも事実だった。憎しみも苦しみもない世界に行けたのだとしたら、ダリヤはしあわせだろうから。

 聖魔術師協会はセブランさんの告発を受けて、解体されることになった。後ろ盾としていた者たちも、みんな離れていった。リージヤたちは牢屋で過ごすらしい。

 残酷かもしれないけれど、犠牲になった人たちの未来を考えれば、仕方ない。どうにかしても、罪をつぐなうしかない。それが加害者が唯一できることだ。

 結婚式が終わり、家へと帰る道すがら、ロルフさんの隣には、わたしがいる。ゼオライトもいるけれど、気にはならない。大分髭の落ち着いたロルフさんの右肩に寄り添っている。ひと昔前のわたしなら「マジか」と言うかもしれないけれど、大いに「マジだ」。

 しかも、手綱を掴んでいない方の指なんかからませて、わたしはしあわせでしかなかった。旅用のローブを縫ったのは、このわたしだ。

 最近では、服の直しまでできるようになってきた。モニクから教わった裁縫の心得がすごい活きている。何もできない、何も知らない異世界人じゃない。ここで生きていける。ロルフさんのそばにいられる。

「セーラ」

「はい?」

「俺たちもしないか、コンギを?」

「コンギ?」

 たまにロルフさんは難しい言葉を使う。「コンギ」の意味を考えた。もしかしたら「婚儀」なのでは、と思った。つまり、結婚式をしないかとお誘いを受けたらしい。

「しない、か?」

 ロルフさんは不安そうな声を隠さない。小声になってきている。誤解しているらしい。

「します! します!」慌てて応える。

「そうか」

 横顔からはあんまり変化のない表情も、口の端が少しだけ上がる。嬉しいのだ。長く居すぎて、ロルフさんの気持ちの変化もわかるようになった。わたしの変化も結構、バレているらしい。

「ロルフさん、好きです。わたしのそばにいてください。できれば、ずっと」

 はじめは恩返しでしかなかった愛情が、返すためのものではなくなった。ロルフさんのためなら、何だってできる。見返りなんか求めない。いつから、変わったのか、はっきりとはわからない。でも、それが今の素直な気持ちだ。

 結構、真面目に選んだ言葉のはずだったけれど、ロルフさんからのリアクションはなかった。外してしまったのだろうか。不安になっていると、小脇に抱え上げられた。

「ロルフさん……!」

 ゼオライトの背に置かれる。背後にはロルフさんが乗ってきて、後ろから抱きしめられた。

「帰るぞ」たったそれだけ。

「帰るって」

 行きは急ぎで来たから、帰りはゆっくり歩こうとか言っていたのに、また裏切りだ。ゼオライトの背に乗ったら、急ぎになってしまう。暴れてやると、「待て」と抱き封じこめられた。

「ゆっくり帰るのは本当だ。だが、もっと、触れていたい。ダメか?」

 「うへ」とか変な顔になってしまったかもしれない。こういうとき、自分の顔が客観的に見えなくて良かったと思う。甘ったるい雰囲気にわたしは居たたまれない。

「ダメじゃないです」と弱々しい声が出た。

 ゼオライトの背に乗って、大人ふたりが何やってるんだろ。幸い、周りに人はいない。それだけが救いだ。

 ロルフさんの手綱さばきで、ゼオライトはゆっくりと動きだした。腰辺りに巻きついた太い腕に自分の手を置いた。満足そうなロルフさんの笑いを後ろから感じ、ちょっと、ムカッとした。

「帰ったら、何食べます?」

「もらった芋で、ポテートサラダが、いい」

「ポテトサラダ。あれ、本当に好きですね」

 さすがにマヨネーズはないけれど。

「ああ、好きだ」

 さらっと、普通の会話のなかに、「好き」と混ぜられると、混乱する。そして、ロルフさんの腕の力が強くなって、わたしに対してだと思えた。

「わたしも好きですよ」

 いつまでも言い慣れない言葉を伝えるのは苦労する。

「そばにいよう」

「えっ?」

 先ほどの応えだったと気づいたのは、「できるかぎり、ずっとな」と付け足された時だった。

おわり
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