魔王と神子の入れ替わり

2 魔王

 そろそろか。人間と魔族との戦いもあと少しで終わろうとしている。

 先代も先々代も、人間の手によって世界征服を妨害された。

 我も神子と勇者によって多くの傷を負ったが、こうして最後の勝利を見届けようとしている。長い戦いだった。

 自室に飾られた先代の肖像画を指で触れながら、その前を歩く。

 勇者を殺し、谷底へと放りこんだとき、我は勝利を確信した。

 勇者亡き今、神子ひとりに何ができるというのか。あと一息だ。

 あの忌々しく汚れのない神子を破れば、魔族は頂点に立つ。蔑まれたこれまでの年月を晴らすことができるであろう。早くその時が来て欲しい。

 しかし、その時は永久に来なかった。肖像画は揺れて、床に落ちていく。我も立ってはいられない。魔王も足腰には自信はないのだ。最後に崩壊する天井が頭上に迫るのを見た。
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Clap