殺すのが愛
第5話
ロスに背負われての道のり。森を出たらもう降ろしていいと背中を叩いたのに、彼は聞く耳を持たずに「うるせえ」と一蹴した。
うるさいと言われてもわたしはひとことも声を発していない。でも、ロスはこうなると頑固だし抵抗するのも面倒だ。肩口に顔を伏せて街中を通ることになった。
ギルドに戻ると、幸いなことにドミナスはいなかった。あの蛇の目に見つかっていれば、ますます恥ずかしくて死にたくなっただろう。だから、本当にいなくて助かった。
早く下ろせと背中を叩けば、ロスは椅子の上に降ろしてくれる。そこまでで終わってくれれば、実に親切な男だけど、この男は違った。
「それにしても妖精に靴をとられるなんて、お前、どれだけ間抜けなんだ」
言われても返す言葉がないというか、声の代わりにロスのすねを蹴ってやった。
「いってえ!」
痛いだろう。だが、すべてはロスのせいだ。
いつもだったら顔を近づけただけですぐに目が覚めて返り討ちに合うのに、今回は違った。無防備で、いたずらし放題だった。ロスに仕掛けている間に、妖精に靴を持っていかれたのだろう。ほら、改めて考えてみても、ロスが悪い。
「くそっ」
悪態をつきながらまだ、すねの辺りを押さえている。背負われてあんな恥ずかしめを受けるくらいだったら、あの時に殺るべきだったかもしれない。
ギルド仲間が戻ってきて、そのなかにドミナスの姿を見つけた。すかさず、依頼の巻き紙と革袋をカウンターの上に並べて置く。早く新しい靴を履きたい。
「さすが、メーベル。仕事が速いね。あれ、足どうしたの?」
目ざとい。舌打ちしたら、ロスが「妖精にやられたんだよ」とバラした。先程の復讐だろう。たちまちギルド仲間がにやにやしはじめる。本当にろくでもない連中だ。
「メーベル、どれだけどんくさいんだ。その双剣は飾りか?」
「妖精なんかに盗まれるなんてな」
こういう連中は殴り付けて無視するに限る。わたしは片方の靴も思い切り脱いで、階段を駆け上がった。
部屋に入ったはいいものの、新しい靴なんてなかった。これは店にまで買いに行かなくちゃならない。困った。まだ、1階にはあいつらがいるだろうし。待つのも嫌だし、もう、ここから飛び降りてやるかと思った。
窓から下を眺めていたら、部屋の扉がノックされた。誰だろう? と視線を向ける。こちらから開ける前に扉の隙間ができた。手が差しこまれてそこから何かが投げ捨てられる。ほこりを立てながら床に落ちたのは、靴紐が解かれたブーツだった。
「ギルドで支給されてるやつだ。男物だが、履けるだろ」
ロスの説明を受けてありがたく靴を履く。これなら街に出ても大丈夫だ。一応、施しを受けたのだし、お礼くらいは言っておこう。扉の隙間をさらに開けて、ロスの顔を見上げた。
「ありがと」
伝わったのか、答えの代わりにあたたかい手のひらがわたしの頭を撫でてくる。
「ロス?」
ロスはなぜかにやついている。
「しかし、お前からのキスは驚いたな」
こいつ、気づいていた! 気づいていながら知らないふりをしていた。それならずっと、知らないふりをしてくれたらいいのに。
わたしは腰に収めていた双剣を取り出す。
「お、お前! ここをどこだと思ってるんだ」
今日こそ殺してやる。ロス、覚悟しろ。
おわり
ロスに背負われての道のり。森を出たらもう降ろしていいと背中を叩いたのに、彼は聞く耳を持たずに「うるせえ」と一蹴した。
うるさいと言われてもわたしはひとことも声を発していない。でも、ロスはこうなると頑固だし抵抗するのも面倒だ。肩口に顔を伏せて街中を通ることになった。
ギルドに戻ると、幸いなことにドミナスはいなかった。あの蛇の目に見つかっていれば、ますます恥ずかしくて死にたくなっただろう。だから、本当にいなくて助かった。
早く下ろせと背中を叩けば、ロスは椅子の上に降ろしてくれる。そこまでで終わってくれれば、実に親切な男だけど、この男は違った。
「それにしても妖精に靴をとられるなんて、お前、どれだけ間抜けなんだ」
言われても返す言葉がないというか、声の代わりにロスのすねを蹴ってやった。
「いってえ!」
痛いだろう。だが、すべてはロスのせいだ。
いつもだったら顔を近づけただけですぐに目が覚めて返り討ちに合うのに、今回は違った。無防備で、いたずらし放題だった。ロスに仕掛けている間に、妖精に靴を持っていかれたのだろう。ほら、改めて考えてみても、ロスが悪い。
「くそっ」
悪態をつきながらまだ、すねの辺りを押さえている。背負われてあんな恥ずかしめを受けるくらいだったら、あの時に殺るべきだったかもしれない。
ギルド仲間が戻ってきて、そのなかにドミナスの姿を見つけた。すかさず、依頼の巻き紙と革袋をカウンターの上に並べて置く。早く新しい靴を履きたい。
「さすが、メーベル。仕事が速いね。あれ、足どうしたの?」
目ざとい。舌打ちしたら、ロスが「妖精にやられたんだよ」とバラした。先程の復讐だろう。たちまちギルド仲間がにやにやしはじめる。本当にろくでもない連中だ。
「メーベル、どれだけどんくさいんだ。その双剣は飾りか?」
「妖精なんかに盗まれるなんてな」
こういう連中は殴り付けて無視するに限る。わたしは片方の靴も思い切り脱いで、階段を駆け上がった。
部屋に入ったはいいものの、新しい靴なんてなかった。これは店にまで買いに行かなくちゃならない。困った。まだ、1階にはあいつらがいるだろうし。待つのも嫌だし、もう、ここから飛び降りてやるかと思った。
窓から下を眺めていたら、部屋の扉がノックされた。誰だろう? と視線を向ける。こちらから開ける前に扉の隙間ができた。手が差しこまれてそこから何かが投げ捨てられる。ほこりを立てながら床に落ちたのは、靴紐が解かれたブーツだった。
「ギルドで支給されてるやつだ。男物だが、履けるだろ」
ロスの説明を受けてありがたく靴を履く。これなら街に出ても大丈夫だ。一応、施しを受けたのだし、お礼くらいは言っておこう。扉の隙間をさらに開けて、ロスの顔を見上げた。
「ありがと」
伝わったのか、答えの代わりにあたたかい手のひらがわたしの頭を撫でてくる。
「ロス?」
ロスはなぜかにやついている。
「しかし、お前からのキスは驚いたな」
こいつ、気づいていた! 気づいていながら知らないふりをしていた。それならずっと、知らないふりをしてくれたらいいのに。
わたしは腰に収めていた双剣を取り出す。
「お、お前! ここをどこだと思ってるんだ」
今日こそ殺してやる。ロス、覚悟しろ。
おわり
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