殺すのが愛
第1話
わたしがロスと出会ったのは、6年前のことだ。6年前といったら、山賊の組織が勢力を拡大して、村や森を荒らしまくっていた。
こそぼそと山賊家業をやっている分には良かったのだが、村や集落を潰したり、街でもやりたい放題暴れれば、周りから睨まれるのも当たり前だ。そんな調子づいた山賊を潰そうと立ち上がったのが、近隣の討伐ギルドだった。
話は少し変わるが、わたしたちの世界のギルドには、いろんな種類がある。ひ弱な魔術師が集まってお互いを守り合うギルド、屈強なおっさんたちががん首そろえた職人のギルドなど。中でも、ロスが所属するギルドは魔物や山賊を討伐を専門としていた。
まだまだ26歳で、若手だったロス。そんな彼は山賊の拠点へ突撃していった。
単身で突撃とか、頭がおかしいとか思えない。でも、やってのけるからすごい。
相手もひとりだからとなめたのか。ロスの力がアホほどにすごかったためか。みるみるうちに山賊は倒れていった。
とうとう首領の部屋までたどり着いてしまったロス。ふつうならボス級の首領と会えば、少しは会話したりするのかと思うが、彼は違った。いきなり首領をめがけて、愛用のショートソードを降り下ろしたのだ。
首領もダガーで応戦した。しかし、ロスの剣さばきは騎士団仕込みで、首領を力で押していった。横で振り払ったとき、ダガーが宙を舞った。武器を手から離した瞬間、勝負は決まったようなものだ。ダガーは大きな音を立てながら、床に落ちた。
ロスはためらわずに首領の心臓を目掛けて一突きした。絶命する首領を目にしても、ロスの瞳は何の感情も表していなかった。
さて、その頃になるとギルドの仲間たちも現れてきて、ロスに怒りをあらわにしていた。討伐ギルドだから、出来高(つまり倒せば倒すほど報酬が上がる)。まあ、山賊は壊滅したし、ロスへの怒りはそれまでだった。ギルドの仲間たちは我先にと戦利品を探り出した。もちろん転売目的に。
首領の部屋にロスだけになると、彼はため息を吐いた。
「まだ、いるみたいだな」
ロスにはすべてがわかっていたのだ。首領の部屋のクローゼットに身を隠した残党がいたことを。残党が出てくる前に、彼はクローゼットを開けた。
「子供か……」
そう。クローゼットのなかでナイフを手にしながら震えていた少女こそ、メーベル・ヒールド――つまり、わたしだった。
「お前は」
ロスの顔が山賊に見慣れたわたしでも怖かったのを覚えている。それは切り目で鋭い瞳をしているからだけじゃない。わたしを見つめる表情に何の色もなかったから。こんな表情で首領を殺したのかと思えば、恐ろしかった。
――「わたしも、殺すの? おとうさんみたいに」
そうたずねたかったけれど、とても声を発せられる状態じゃなかった。クローゼットとロスの間から、おとうさんの倒れた姿を見つけた。ロスの顔を仰ぐと、彼は低く絞り出すように「殺すほどでもないか」と呟いた。
そうだ、わたしは殺される価値もなかった。家族だった山賊は壊滅したし、生きている理由もない。
そう思っていたわたしは立ち上がった。彼はわたしに興味を失ったようで、こちらに背中を向けてどこかへ歩みを進めようとする。わたしはこのまま彼を追うことにした。
「ついてくるなよ」
彼が足を止めて、後ろを振り返る。わたしは黙って首を横に振る。何度もダメだと言われてもよかった。彼の歩幅に合わせて走って追いかける。そのときにはもう心に決めていた。
――「いつか、この手でこの人を殺す」って。
わたしがロスと出会ったのは、6年前のことだ。6年前といったら、山賊の組織が勢力を拡大して、村や森を荒らしまくっていた。
こそぼそと山賊家業をやっている分には良かったのだが、村や集落を潰したり、街でもやりたい放題暴れれば、周りから睨まれるのも当たり前だ。そんな調子づいた山賊を潰そうと立ち上がったのが、近隣の討伐ギルドだった。
話は少し変わるが、わたしたちの世界のギルドには、いろんな種類がある。ひ弱な魔術師が集まってお互いを守り合うギルド、屈強なおっさんたちががん首そろえた職人のギルドなど。中でも、ロスが所属するギルドは魔物や山賊を討伐を専門としていた。
まだまだ26歳で、若手だったロス。そんな彼は山賊の拠点へ突撃していった。
単身で突撃とか、頭がおかしいとか思えない。でも、やってのけるからすごい。
相手もひとりだからとなめたのか。ロスの力がアホほどにすごかったためか。みるみるうちに山賊は倒れていった。
とうとう首領の部屋までたどり着いてしまったロス。ふつうならボス級の首領と会えば、少しは会話したりするのかと思うが、彼は違った。いきなり首領をめがけて、愛用のショートソードを降り下ろしたのだ。
首領もダガーで応戦した。しかし、ロスの剣さばきは騎士団仕込みで、首領を力で押していった。横で振り払ったとき、ダガーが宙を舞った。武器を手から離した瞬間、勝負は決まったようなものだ。ダガーは大きな音を立てながら、床に落ちた。
ロスはためらわずに首領の心臓を目掛けて一突きした。絶命する首領を目にしても、ロスの瞳は何の感情も表していなかった。
さて、その頃になるとギルドの仲間たちも現れてきて、ロスに怒りをあらわにしていた。討伐ギルドだから、出来高(つまり倒せば倒すほど報酬が上がる)。まあ、山賊は壊滅したし、ロスへの怒りはそれまでだった。ギルドの仲間たちは我先にと戦利品を探り出した。もちろん転売目的に。
首領の部屋にロスだけになると、彼はため息を吐いた。
「まだ、いるみたいだな」
ロスにはすべてがわかっていたのだ。首領の部屋のクローゼットに身を隠した残党がいたことを。残党が出てくる前に、彼はクローゼットを開けた。
「子供か……」
そう。クローゼットのなかでナイフを手にしながら震えていた少女こそ、メーベル・ヒールド――つまり、わたしだった。
「お前は」
ロスの顔が山賊に見慣れたわたしでも怖かったのを覚えている。それは切り目で鋭い瞳をしているからだけじゃない。わたしを見つめる表情に何の色もなかったから。こんな表情で首領を殺したのかと思えば、恐ろしかった。
――「わたしも、殺すの? おとうさんみたいに」
そうたずねたかったけれど、とても声を発せられる状態じゃなかった。クローゼットとロスの間から、おとうさんの倒れた姿を見つけた。ロスの顔を仰ぐと、彼は低く絞り出すように「殺すほどでもないか」と呟いた。
そうだ、わたしは殺される価値もなかった。家族だった山賊は壊滅したし、生きている理由もない。
そう思っていたわたしは立ち上がった。彼はわたしに興味を失ったようで、こちらに背中を向けてどこかへ歩みを進めようとする。わたしはこのまま彼を追うことにした。
「ついてくるなよ」
彼が足を止めて、後ろを振り返る。わたしは黙って首を横に振る。何度もダメだと言われてもよかった。彼の歩幅に合わせて走って追いかける。そのときにはもう心に決めていた。
――「いつか、この手でこの人を殺す」って。
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