毛玉とゆうしゃ

3 毛玉のこと

 吸っているうちに気分が悪くなってきた。さすがに魔王様の毒だ。並大抵の汚染物質じゃない。あんまりおいしくないなと洞窟の壁にもたれかかっていると、むくっと毛が逆立ちはじめた。成長の証だ。

「はあ……また、大きくなっちゃったな」

 毛玉が大きくなりすぎると、わたしのからだは破裂する。おとうさんもおかあさんもそうだった。破裂して、後には何にも残さない。あっという間にひとりぼっちになった。

 おじいちゃんはひとり毛玉族じゃなかった。だから、長生きもできたし、旅にも出られた。

「絶対にわたしを死なせないって」

 おじいちゃんは言い残していったけれど、いまだに果たされていない。今頃、どこでどうしているのだろう?

「おじいちゃん……」

「ん……」

 わたしのつぶやきに反応したかのように、人間の声が聞こえた。目が覚めたのだろうか。近づいても大丈夫? 考えていたら。

「こ……」

「こ?」

「ここはどこだろうか?」低くかすれた声が聞こえた。人間は見えない目で辺りを見渡していた。

「洞窟」

「洞窟?」

「うん、洞窟」

「その洞窟に、なぜ、いるのだろうか? できれば、詳しく教えてほしい。あと、目がまったく機能していない理由も聞きたい」

 人間は早口だった。いっぺんに2つも質問をされたことがなくて、わたしは混乱しつつも、あなたが空から降ってきたこと、魔王様の毒の話をしてあげた。

 人間は黙って聞いたあとに「ありがとう」と落ち着いて言った。ふるふるとからだを横に振ったけれど、人間には見えていないはずだ。わたしは慌てて「いいの」と言い直した。

「きみは、女性なのか? あるいは、雌なのか?」

「じょせい、めす……」それって性別というものでしょ。人間は性別を気にしているらしい。

「いや、声が高いから女性なのかと」

「わたしたちには性別はないよ。ただ、おとうさんになれるか、おかあさんになれるかってだけ」

「きみはどちらになれるのだ?」

「おかあさん」

「そうか」なぜか、人間が笑ったような気がした。わたしがおかあさんになれると変なの?
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