毛玉とゆうしゃ

2 毛玉のとくぎ

 家でもある洞窟を出たときだった。ちょうど、勢いがついてきて段差も何のその。

 ゴロゴロ転がっていたら、頭上から何かが降ってきた。洞窟の上は崖になっていたし、小岩がぶつかったのかなと思った。でも、小岩にしては衝撃がすごかった。

 毛におおわれた瞼を恐る恐る開けば、目の前に人が倒れている! 人って確か、人間で、魔族を滅ぼそうとしているんじゃなかった? どうしよう。でも、うめき声を上げる人間はとっても苦しそう。

「さり……あ」

 それだけを言い残して、人間は動かなくなってしまう。目元は真っ赤になっていて、たぶん、魔王様の毒攻撃(魔王様が使う特別な毒)をまともに食らってしまったのだろう。毒を抜かなければ、人間は確実に死ぬ。

 だけど、人間は魔王様と対立している。いくらわたしが中立な立場といっても、敵を助けていいのかな? おじいちゃんだったら……。と、考えれば、迷うことはなかった。おじいちゃんなら、絶対に助けるはず。

 わたしは人間の反対側に回って、頭突きするように押した。あんまりびくともしないから、毛のなかから口を出して、人間の足首に噛みついた。ちりしか吸わないから歯なんてないけれど、どうにか引っ張れた。

 人間は岩みたいにとっても重かった。それでも、わたしは諦めなかった。人間を洞窟のなかに引っ張りこんだ。

 洞窟のなかに毛布があったのでその上に人間を寝かせると、わたしは覚悟を決める。

 ちりやホコリを好むわたしたちは、汚いとされているものを吸いこみ、お腹のなかで中和することができる。つまり、人間に入った毒の気を残さず吸いこめばいいというわけ。

 見たところ、人間は目をやられているから、ちょっとその周りを吸ってみようとと思った。
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Clap