魔王と神子の入れ替わり
8 魔王
魔王軍が壊滅してから7つの夜が足早に過ぎていった。その間、残った人間どもは、木々を切り倒し、荒れ地だった場所にそまつな家を建てた。
この家はひとりで独占するためではなく、集団で生活するためのものらしい。人間はどうも集団を好む性質のようだ。食事も就寝も同じ時刻である。誰ひとりその輪を乱す者はいない。
理解に苦しむが、我もなぜか同じ場所で寝起きすることになった。魔王であったときは休息など必要はなかった。常に力はみなぎってきて、むしろ発散しなければならなかった。破壊は我の力を発散する大事な行為だった。
だが、人間となってから(正確には神子だが)体質が変わったためか、体力の消耗が著しくなった。
例えば、昨日だ。森のなかをたった6時間歩いただけで、足がふらつきだした。かたわらにいた人間の男の手を借りるはめになった。一応、「すまぬ」と断っておいたが、人間の男ダムは顔を真っ赤にさせて「い、いえ」と言っていたから大丈夫であろう。
しかし、神子の体はどうも人間の女のそれと似ていた。川で水浴びをしたときも胸にふくらみが2つ。子どもを産んだ母親に比べれば、なだらかな山である。
「これは何だ?」
「子どもを育てるときに大事なものさ。神子さまもその時になればわかるよ」
と、言われたが、我には何のことだか今のところは理解不能だ。それでもいずれわかると言われ、なぜか納得ができた。きっと、我にもわかるときが来るのだろう。
共同生活をしていると、赤ん坊や子どもと接触する機会がある。特に、赤ん坊はこの頃、ハイハイをするようになった。床に這いつくばり、頭を重そうにしながらも頼りなく進んでいく。
赤ん坊は我の足もとへ近づいてきた。足首にはめていた丸い玉が連なった飾りを見ると、にっこりと笑う。何が面白いというのか。だが、悪い気はしなかった。我はわざわざしゃがみ、産毛のようにやわらかい髪を撫でてやった。
それを遠巻きに見ていた母親の集まりが騒ぎ始めた。まるで、いけないことでもしたのかと思いきや、母親のひとりの目に涙が浮かんでいる。「なんて素敵なお姿なの」などと言われても、意味が解明できず戸惑うだけだ。
ちょうど、我の味方となってくれる人間の男が通りかかった。手には木製の水を運ぶ容器を持っているから、台所の水がめに足すためだろう。
「ダム」
「は、はい!」
「我も手伝おう」
「えっあ、でも、重いですし」
「いい。持てる」
ここでわけのわからない視線にさらされるくらいならダムと一緒にいるほうが良い。容器の取っ手を奪うと、ダムは抵抗せずに我のやりたいようにやらせてくれる。
相変わらず、妙な視線は感じるが、ダムの広い背中が隠してくれるかのようでいちいち気にはならなかった。
魔王軍が壊滅してから7つの夜が足早に過ぎていった。その間、残った人間どもは、木々を切り倒し、荒れ地だった場所にそまつな家を建てた。
この家はひとりで独占するためではなく、集団で生活するためのものらしい。人間はどうも集団を好む性質のようだ。食事も就寝も同じ時刻である。誰ひとりその輪を乱す者はいない。
理解に苦しむが、我もなぜか同じ場所で寝起きすることになった。魔王であったときは休息など必要はなかった。常に力はみなぎってきて、むしろ発散しなければならなかった。破壊は我の力を発散する大事な行為だった。
だが、人間となってから(正確には神子だが)体質が変わったためか、体力の消耗が著しくなった。
例えば、昨日だ。森のなかをたった6時間歩いただけで、足がふらつきだした。かたわらにいた人間の男の手を借りるはめになった。一応、「すまぬ」と断っておいたが、人間の男ダムは顔を真っ赤にさせて「い、いえ」と言っていたから大丈夫であろう。
しかし、神子の体はどうも人間の女のそれと似ていた。川で水浴びをしたときも胸にふくらみが2つ。子どもを産んだ母親に比べれば、なだらかな山である。
「これは何だ?」
「子どもを育てるときに大事なものさ。神子さまもその時になればわかるよ」
と、言われたが、我には何のことだか今のところは理解不能だ。それでもいずれわかると言われ、なぜか納得ができた。きっと、我にもわかるときが来るのだろう。
共同生活をしていると、赤ん坊や子どもと接触する機会がある。特に、赤ん坊はこの頃、ハイハイをするようになった。床に這いつくばり、頭を重そうにしながらも頼りなく進んでいく。
赤ん坊は我の足もとへ近づいてきた。足首にはめていた丸い玉が連なった飾りを見ると、にっこりと笑う。何が面白いというのか。だが、悪い気はしなかった。我はわざわざしゃがみ、産毛のようにやわらかい髪を撫でてやった。
それを遠巻きに見ていた母親の集まりが騒ぎ始めた。まるで、いけないことでもしたのかと思いきや、母親のひとりの目に涙が浮かんでいる。「なんて素敵なお姿なの」などと言われても、意味が解明できず戸惑うだけだ。
ちょうど、我の味方となってくれる人間の男が通りかかった。手には木製の水を運ぶ容器を持っているから、台所の水がめに足すためだろう。
「ダム」
「は、はい!」
「我も手伝おう」
「えっあ、でも、重いですし」
「いい。持てる」
ここでわけのわからない視線にさらされるくらいならダムと一緒にいるほうが良い。容器の取っ手を奪うと、ダムは抵抗せずに我のやりたいようにやらせてくれる。
相変わらず、妙な視線は感じるが、ダムの広い背中が隠してくれるかのようでいちいち気にはならなかった。