魔王と神子の入れ替わり

5 神子

 ぽつんぽつん。耳元で雨の降り始めのような音がしました。雨が降れば、大地に水がそそがれて、作物が育ちます。わたしがいた場所も自然に生かされていました。

 けれども、今は違うのです。投げ出した手に触れる土は乾いていて固いのです。

「まっおうさま! 起きてください!」

 この声は耳に残ります。恐る恐る瞼を開けてみると、コウモリがわたしの顔をのぞきこんでいたのでした。心配そうに首を傾げています。雨音かと思ったのはウピリさんの涙でした。

「ウピリさん」

 わたしは意識を失って倒れていたようです。枯れた木陰の下にいるということは、小さい体のウピリさんにずいぶんと迷惑をかけたのでしょう。

 上体を起こして真っ青な手を見ました。胸も腰も意識を失う前と変わりません。目が覚めても魔王である事実はそのままです。

 わたしが魔王なんて、どうしてでしょうか? 世界を救えなかったわたしへの罰でしょうか。あの子たちはどうなったのでしょう。わたしのせいで滅びてしまったのかもしれません。大切な野も里も守れなかったのです。

 もうきっと、ここにある魔界と同じで、枯れた大地ばかりでしょう。

「ウピリさんっ」

 ああ、なぜか、涙が浮かんできます。わたしはウピリさんに抱きつきました。

「まっおうさま!」

 驚いたのか、ウピリさんは翼を広げようとしますが、わたしはきつく抱き締めました。胸が邪魔ですが、どうしてもしたいのです。

「……少しだけ、こうさせてください」

 あったかいです、とっても。誰かに抱きついたのは久しぶりです。魔王の体としても、あたたかさを感じられます。心はわたしのものなのですから。

 ウピリさんを腕から解放すると、「ぷっは」と息を吐く姿を見ました。どうも呼吸ができなかったようです。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!」

 本当でしょうか? 顔を近づけると、ウピリさんは後ろに逃げてしまいます。やはり、抱き締めたのがダメだったのでしょう。

「ごめんなさい」

「あ、謝らないでください。わったしはまっおうさまの手下です。まっおうさまの命令とあれば、どんなことでもいたします!」

「それじゃあ、頼んでもいいですか?」

「もちろん!」

「わたしを魔王のお城に連れていってください」

 ウピリさんは「それだけですか?」と目を丸くして聞いてきました。

「ええ、お願いできますか?」

「もっちろんです!」

 ウピリさんは黒い翼を大きく広げます。一度、空に浮上したかと思うと、足につかまれと言うのです。魔王城へと連れていってくれると言います。怖いけれども、ウピリさんなら命を預けても大丈夫だと思いました。

 わたしは小さい足につかまりました。
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Clap