すべての元凶はあなた
第9話『似合わない』
無事、服を着替えたわたしに、ウィルは容赦なく視線を突き刺してくる。視線の先で何を考えているのか。そう思ったところで、ウィルの考えていることなんて、どうせわたしにとって良いことではない。
たった2日の間に、裸を2度も見られたし、メンタルがかなり削られてしまった。しかも今回は眩しいくらいの日の下で、だ。恥ずかしいにも程がある。
ウィルはわたしの格好を見ても、腕を組んでただすむだけだった。昨日も興味が無さそうだった。確かに凹凸の少ない平らだし、魅力も少ない。そうだとしても、何かそれも悔しい。女として見られていない気がして。
「それではこちらに」
ミアさんが誘導してくれたから、鏡の前に腰をかける。なるべくウィルの方は見ないようにした。
鏡のなかでミアさんの手によって、メイクがほどこされる。白い唇に発色のいい赤が塗られる。見慣れない赤さに白い肌の下で頬が熱を帯びる。もう少し抑えて欲しいけれど、文句は言えない。通じないし。
後は頭にじゃらじゃらした重い飾りが被せられた。雫のような丸みの宝石が揺れると、額に触れて冷たい。首飾りのホックを留められると、胸元に宝石の雫が散らばった。唇の赤といい、救い主の格好は、自分を見ていないような変な感じだった。
「お綺麗ですわ」
お世辞だとしても嬉しかった。鏡のなかの自分は、嬉しさを表すために笑みを浮かべようとする。でも実際は、不器用に片端だけ歪んでいる。相変わらず、変な笑い方だ。
――笑え。
悔しいけれど、ウィルに言われたことを意識して頬を指で持ち上げると、何とか両端が同じ高さに上がった。このまま止めておけば、とりあえず、笑っていることはできるかも。頬の筋肉はひきつりそうだけれど。
「救い主」
気づけば、ウィルがわたしの左横に立っていた。いつも気配なく近づいてくる男だ。鏡のなかの鋭い視線がわたしのと交ざる。何が言いたいのか探りたくて目を合わせたままでいると、白い布を持った手がわたしの唇に当てられた。
「えっ?」
すぐに手が離れていくと、鏡のなかのわたしの唇に薄い赤が残った。
「お前にこの赤は似合わない」
言葉ではきついものがあったけれど、赤が薄くなっただけで鏡のなかの自分が他人事ではなくなった。これはわたし。救い主の姿をしたわたしだ。
「救い主。これからお前の降臨を祝う儀式を行う。すべては俺が進行する。儀式の間はお前は特に何もしなくていい。……ただ、そのように笑え」
まさしく、鏡のなかのわたしは目を丸くさせてウィルを見ていた。当の本人はわたしから離れて、鏡の奥のほうで、ミアさんと何やら話をしている。「そのように」は、今の笑顔でいいとお墨付きをもらったということだ。案外、ウィルは口が悪いだけでいい人なのか。
いや、いい人がわたしを仮の救い主にしたりしないだろう。危ない。もう少しのところで、ほだされてしまいそうだった。
無事、服を着替えたわたしに、ウィルは容赦なく視線を突き刺してくる。視線の先で何を考えているのか。そう思ったところで、ウィルの考えていることなんて、どうせわたしにとって良いことではない。
たった2日の間に、裸を2度も見られたし、メンタルがかなり削られてしまった。しかも今回は眩しいくらいの日の下で、だ。恥ずかしいにも程がある。
ウィルはわたしの格好を見ても、腕を組んでただすむだけだった。昨日も興味が無さそうだった。確かに凹凸の少ない平らだし、魅力も少ない。そうだとしても、何かそれも悔しい。女として見られていない気がして。
「それではこちらに」
ミアさんが誘導してくれたから、鏡の前に腰をかける。なるべくウィルの方は見ないようにした。
鏡のなかでミアさんの手によって、メイクがほどこされる。白い唇に発色のいい赤が塗られる。見慣れない赤さに白い肌の下で頬が熱を帯びる。もう少し抑えて欲しいけれど、文句は言えない。通じないし。
後は頭にじゃらじゃらした重い飾りが被せられた。雫のような丸みの宝石が揺れると、額に触れて冷たい。首飾りのホックを留められると、胸元に宝石の雫が散らばった。唇の赤といい、救い主の格好は、自分を見ていないような変な感じだった。
「お綺麗ですわ」
お世辞だとしても嬉しかった。鏡のなかの自分は、嬉しさを表すために笑みを浮かべようとする。でも実際は、不器用に片端だけ歪んでいる。相変わらず、変な笑い方だ。
――笑え。
悔しいけれど、ウィルに言われたことを意識して頬を指で持ち上げると、何とか両端が同じ高さに上がった。このまま止めておけば、とりあえず、笑っていることはできるかも。頬の筋肉はひきつりそうだけれど。
「救い主」
気づけば、ウィルがわたしの左横に立っていた。いつも気配なく近づいてくる男だ。鏡のなかの鋭い視線がわたしのと交ざる。何が言いたいのか探りたくて目を合わせたままでいると、白い布を持った手がわたしの唇に当てられた。
「えっ?」
すぐに手が離れていくと、鏡のなかのわたしの唇に薄い赤が残った。
「お前にこの赤は似合わない」
言葉ではきついものがあったけれど、赤が薄くなっただけで鏡のなかの自分が他人事ではなくなった。これはわたし。救い主の姿をしたわたしだ。
「救い主。これからお前の降臨を祝う儀式を行う。すべては俺が進行する。儀式の間はお前は特に何もしなくていい。……ただ、そのように笑え」
まさしく、鏡のなかのわたしは目を丸くさせてウィルを見ていた。当の本人はわたしから離れて、鏡の奥のほうで、ミアさんと何やら話をしている。「そのように」は、今の笑顔でいいとお墨付きをもらったということだ。案外、ウィルは口が悪いだけでいい人なのか。
いや、いい人がわたしを仮の救い主にしたりしないだろう。危ない。もう少しのところで、ほだされてしまいそうだった。