すべての元凶はあなた
第8話『可哀想な人』
扉がノックされる音で目を覚ました。起き抜けの掠れた声で返事をして待つと、音を立てないほどに慎重に扉が開かれる。現れたのは、昨日、服を渡してくれた女性だ。
白い肌は日の下でも健在で、青く清んだ瞳は温かくも冷たくもなかった。ハイネックで肩口のところが膨らんだドレスは看護士さんのように見えてしまう。
頭にはキャップをつけてはいない。白銀色の髪を後ろにひとつにまとめているだけだ。それでも、薄らと浮かべられた笑みやお腹の前で組まれた手のしぐさは、上品さが漂っていた。
「おはようございます、救い主様」
「おはようございます……」
言葉も通じないはずだから、うなずいて返す。
「わたくしはミアと申します。救い主様の身の回りのお世話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
ここまできっちり礼を尽くされると、ベッドの上にいるのは失礼な気がする。降りてから改めて頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします……」これに対して特に反応はない(やっぱり)。
「それではこちらへ」
指示をされて、部屋を出た。テーブルの上に置かれた乳白色の服は、袖の部分が大分ゆったりしている。わたしが着たら、腕がすっぽり隠れそうだ。袖から手を出すのが大変かもしれない。足も隠れて、歩くのが大変そうだ。
「救い主様、失礼いたします」
「えっ?」
服にばかり気をとられていたら、ミアさんはわたしの背後に立っていた。着ている服が引っ張られる感覚に腕を上げる。
「あの、自分でできますから!」
ミアさんの手が止まった。あっさりしているなと驚いてミアさんを見たら、白銀の眉毛の間にシワが刻まれる。目鼻立ちの整った人が眉を寄せると、表情に凄みがある。
「す、すみません」なぜか、こちらが謝りたくなるほどの迫力だ。
「救い主様、お気持ちをお察しいたします。突然、こちらの世界へやってこられて、さぞ、混乱されていることでしょう」
「まあ、そうですけど」
「本当にお可哀想に。それでも、わたくしどもには救い主様が必要なのです。救い主様にはどうかご理解いただきたく思います」
服を脱がされることに抵抗していただけなのに、わたし、すごい可哀想な人間にされている。別に救い主が嫌とか言っているのではない。いまだに救い主にピンと来ていないし。これから嫌になるかもしれないけれど、今のところ平気だ。
「ミアさん、わたしも理解はしようとしています。メンタルも大丈夫なので、可哀想だとは思わないでください。可哀想だと言われる方がへこんでしまいます。着替えるならさっさとしてしまいましょう」
自分からパパッと服を脱いでしまうと、ミアさんと向き直る。彼女は目を丸くしてわかりやすく驚いてくれる。何とか頭を真っ白にしておくから、今のうちに着替えさせてほしい。
「ミアさん、お願いします」
腕を広げて待つのも恥ずかしいものがある。顔が熱くなってきて瞼をきつく閉じながら待っていると、扉の開く音がした。
つまり、誰かが部屋のなかに入ってきたわけだ。今のわたしは裸。腕を広げた体勢で、体にあるすべての凹凸をさらけ出している。
「何やっているんだ、お前?」
ウィルの声なんか聞きたくなかった。その鋭い視線もいらない。ノックもしないで入ってきたウィルに、わたしは言葉にならない声を上げて寝室に引っこんだ。
扉がノックされる音で目を覚ました。起き抜けの掠れた声で返事をして待つと、音を立てないほどに慎重に扉が開かれる。現れたのは、昨日、服を渡してくれた女性だ。
白い肌は日の下でも健在で、青く清んだ瞳は温かくも冷たくもなかった。ハイネックで肩口のところが膨らんだドレスは看護士さんのように見えてしまう。
頭にはキャップをつけてはいない。白銀色の髪を後ろにひとつにまとめているだけだ。それでも、薄らと浮かべられた笑みやお腹の前で組まれた手のしぐさは、上品さが漂っていた。
「おはようございます、救い主様」
「おはようございます……」
言葉も通じないはずだから、うなずいて返す。
「わたくしはミアと申します。救い主様の身の回りのお世話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
ここまできっちり礼を尽くされると、ベッドの上にいるのは失礼な気がする。降りてから改めて頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします……」これに対して特に反応はない(やっぱり)。
「それではこちらへ」
指示をされて、部屋を出た。テーブルの上に置かれた乳白色の服は、袖の部分が大分ゆったりしている。わたしが着たら、腕がすっぽり隠れそうだ。袖から手を出すのが大変かもしれない。足も隠れて、歩くのが大変そうだ。
「救い主様、失礼いたします」
「えっ?」
服にばかり気をとられていたら、ミアさんはわたしの背後に立っていた。着ている服が引っ張られる感覚に腕を上げる。
「あの、自分でできますから!」
ミアさんの手が止まった。あっさりしているなと驚いてミアさんを見たら、白銀の眉毛の間にシワが刻まれる。目鼻立ちの整った人が眉を寄せると、表情に凄みがある。
「す、すみません」なぜか、こちらが謝りたくなるほどの迫力だ。
「救い主様、お気持ちをお察しいたします。突然、こちらの世界へやってこられて、さぞ、混乱されていることでしょう」
「まあ、そうですけど」
「本当にお可哀想に。それでも、わたくしどもには救い主様が必要なのです。救い主様にはどうかご理解いただきたく思います」
服を脱がされることに抵抗していただけなのに、わたし、すごい可哀想な人間にされている。別に救い主が嫌とか言っているのではない。いまだに救い主にピンと来ていないし。これから嫌になるかもしれないけれど、今のところ平気だ。
「ミアさん、わたしも理解はしようとしています。メンタルも大丈夫なので、可哀想だとは思わないでください。可哀想だと言われる方がへこんでしまいます。着替えるならさっさとしてしまいましょう」
自分からパパッと服を脱いでしまうと、ミアさんと向き直る。彼女は目を丸くしてわかりやすく驚いてくれる。何とか頭を真っ白にしておくから、今のうちに着替えさせてほしい。
「ミアさん、お願いします」
腕を広げて待つのも恥ずかしいものがある。顔が熱くなってきて瞼をきつく閉じながら待っていると、扉の開く音がした。
つまり、誰かが部屋のなかに入ってきたわけだ。今のわたしは裸。腕を広げた体勢で、体にあるすべての凹凸をさらけ出している。
「何やっているんだ、お前?」
ウィルの声なんか聞きたくなかった。その鋭い視線もいらない。ノックもしないで入ってきたウィルに、わたしは言葉にならない声を上げて寝室に引っこんだ。