すべての元凶はあなた
第6話『聖霊』
人間とは程遠い化け物を想像していたわたしにとって、完全に振り向いた子供の顔は意外だった。自分の目元をこすってみても効果はない。顔の輪郭ははっきりしているのに、中心の目や鼻をはっきり見ることができなかった。
「あの……」
戸惑うわたしに「起きた?」と、あっさりとたずねてくる。それに、頭のなかに響く声と、目の前の男の子の声とが重なって聞こえてきて驚いた。
男の子は抱えた膝を解いて、ベッドに乗り上がってきた。正座をしてきたので、わたしもスカートの裾を直しながら正座で構えた。
「起きたけど……あなたは?」
「きみのなかの聖霊」
「聖霊」。ウィルが何度か口にしていた気がする。「聖霊を呼び覚ます」とか何とか。わたしのなかの聖霊が呼び覚まされて、こちらの言葉が理解できるようになった。
「あなた、聖霊なの?」
「そう」
「じゃあ、こちらの言葉が理解できるのもあなたのおかげ?」
「うん」
やっぱり、頭のなかで聞こえる声は目の前の聖霊くんのものだった。顔はぼんやりしていたけれど、疑問をぶつければうなずくし、仕草は子供だった。顔以外は厚みもあるし、ちゃんと存在していることがわかる。
「えっと、聖霊なのに実体があるの?」
「あるよ。でも、僕の姿が見えるのはきみだけ。他の人には見えない」
なるほど、聖霊くんはわたしにしか見えないようだ。それでも、顔がはっきりしないのは何でだろう。このままじゃ、目線を合わすこともできない。聖霊くんは自分の顔に触れた。
「変な顔でごめん。まだ未熟だからこんな姿なんだ。だけど、そのうちはっきりしてくる予定だから安心して」
聖霊くんはわたしが言葉にしなくても、考えたことがわかってしまうらしい。疑問を先取りして答えてくれる。
「きみと僕は繋がっているんだよ。だから、きみの考えていることが手に取るように全部わかる。あ、そんなに怖がらなくてもいいよ」
ちょっと怖いと感じたことも聖霊くんにはわかるのか。何か難しく考えるだけで無駄かもしれない。彼には感情を読み取ることができる。気持ちを隠そうとしても無駄なのだ。
「これ、友好の証」
聖霊くんが手を差し出してくる。実体があるから触れるはずだ。無視をするわけにもいかず、「よ、よろしく……」とおずおずと手を伸ばす。握手をする。不思議なことに冷たいながらも感触があった。
「触れることができるのもきみだけ」
本当にわたしだけの聖霊なんだ。こちらの世界に来て少し心細かったけれど、聖霊くんが現れてくれて良かった。
「これで姿を隠すけど、いつでも一緒だから」
「見えなくなっちゃうの?」
「うん。でも、また会えるよ」
聖霊くんがいなくなったら、話せる人がいない。また一方的に話を押しつけられるだけになる。寂しいけれど、聖霊くんを困らせたくない。感情を抑えるのは得意なはずだ。だから、うなずいてみた。
「ばいばい」
聖霊くんが手を振る。わたしも小さく振り返す。表情はまったくわからないけれど、きっと微笑んでいる気がした。わたしはたぶんひきつった笑いをしているだろう。
人間とは程遠い化け物を想像していたわたしにとって、完全に振り向いた子供の顔は意外だった。自分の目元をこすってみても効果はない。顔の輪郭ははっきりしているのに、中心の目や鼻をはっきり見ることができなかった。
「あの……」
戸惑うわたしに「起きた?」と、あっさりとたずねてくる。それに、頭のなかに響く声と、目の前の男の子の声とが重なって聞こえてきて驚いた。
男の子は抱えた膝を解いて、ベッドに乗り上がってきた。正座をしてきたので、わたしもスカートの裾を直しながら正座で構えた。
「起きたけど……あなたは?」
「きみのなかの聖霊」
「聖霊」。ウィルが何度か口にしていた気がする。「聖霊を呼び覚ます」とか何とか。わたしのなかの聖霊が呼び覚まされて、こちらの言葉が理解できるようになった。
「あなた、聖霊なの?」
「そう」
「じゃあ、こちらの言葉が理解できるのもあなたのおかげ?」
「うん」
やっぱり、頭のなかで聞こえる声は目の前の聖霊くんのものだった。顔はぼんやりしていたけれど、疑問をぶつければうなずくし、仕草は子供だった。顔以外は厚みもあるし、ちゃんと存在していることがわかる。
「えっと、聖霊なのに実体があるの?」
「あるよ。でも、僕の姿が見えるのはきみだけ。他の人には見えない」
なるほど、聖霊くんはわたしにしか見えないようだ。それでも、顔がはっきりしないのは何でだろう。このままじゃ、目線を合わすこともできない。聖霊くんは自分の顔に触れた。
「変な顔でごめん。まだ未熟だからこんな姿なんだ。だけど、そのうちはっきりしてくる予定だから安心して」
聖霊くんはわたしが言葉にしなくても、考えたことがわかってしまうらしい。疑問を先取りして答えてくれる。
「きみと僕は繋がっているんだよ。だから、きみの考えていることが手に取るように全部わかる。あ、そんなに怖がらなくてもいいよ」
ちょっと怖いと感じたことも聖霊くんにはわかるのか。何か難しく考えるだけで無駄かもしれない。彼には感情を読み取ることができる。気持ちを隠そうとしても無駄なのだ。
「これ、友好の証」
聖霊くんが手を差し出してくる。実体があるから触れるはずだ。無視をするわけにもいかず、「よ、よろしく……」とおずおずと手を伸ばす。握手をする。不思議なことに冷たいながらも感触があった。
「触れることができるのもきみだけ」
本当にわたしだけの聖霊なんだ。こちらの世界に来て少し心細かったけれど、聖霊くんが現れてくれて良かった。
「これで姿を隠すけど、いつでも一緒だから」
「見えなくなっちゃうの?」
「うん。でも、また会えるよ」
聖霊くんがいなくなったら、話せる人がいない。また一方的に話を押しつけられるだけになる。寂しいけれど、聖霊くんを困らせたくない。感情を抑えるのは得意なはずだ。だから、うなずいてみた。
「ばいばい」
聖霊くんが手を振る。わたしも小さく振り返す。表情はまったくわからないけれど、きっと微笑んでいる気がした。わたしはたぶんひきつった笑いをしているだろう。