すべての元凶はあなた
第43話『切り替わり』
改めて聞くウィルの声は、本当に落ち着き払っていて、大人な感じがした。
そういえば、ウィルの年齢を知らない。こちらの人たちはあまり年齢が関係ないみたいで、ウィルもフィデールさんに対して偉そうだ。フィデールさんは誰に対しても敬意を払わないから、基準には入らない。
ウィルはいったいいくつなんだろう? さすがに、わたしよりは上だとは思う。でも、フィデールさんより若そうだし。ローラントと同じくらい? でも、年齢よりも外見が若そうな人という感じもする。
なんて適当に考えていたら、ウィルが動き出した。短い言葉を発してから、またウィルがわたしの耳たぶに触れる。意外と近い距離にウィルの鼻先や唇を見つけて、体が熱くなってきた。
相手はウィルだ。ローラントじゃない。そう自分に言い聞かせても、体は勝手に熱を持つ。ウィルの口が開く気配がした。
「どうだ? 切り替わっただろう」
言われてすぐに、ウィルの言葉が聖霊くんを通して変換された。ウィルが近づいたくらいで、何を動揺しているんだか。あるのは面白味のない綺麗な無表情じゃないか。ウィルが何の理由もなく、わたしに近づいたり、耳たぶに触れるわけがないのだ。戸惑う必要もなかった。
激しい後悔を内心で繰り広げている間、ウィルは説明をしてくれた。あんまり熱心に説明を聞かなかったけれど、とりあえず、わたしが耳たぶを触っても、切り替わるらしい。ずいぶん、魔力を使ったとか恩着せがましく言っていた。なんて便利なんだろう。
「まあ、言葉など覚えても、すぐに必要なくなるだろうが、な」
「えっ?」
「いや」
「ウィル?」
「お前の用は済んだのだろう。俺は失礼する」
何となく誤魔化されたような気がしないでもない。ただ、部屋から出ていこうとするウィルを引き止める言葉をわたしはまだ知らなかった。
すっきりしない気分でソファーに腰をかけていたら、お迎えが来た。ローラントである。
「話は聞きました。こちらの言葉を学びたいとのこと。わたしもお力になれると思います。実はわたしもこちらの言葉を1から学んだもので」
「え、そうなの?」
驚いた。ローラントがこちらの言葉をしゃべれなかったなんて。とってもなめらかに言葉をしゃべっているし、そんな風にはまったく見えない。
「どうも過去の記憶とともに言葉を失ったらしいのです。今も記憶は一部しか戻っていませんが」
気のせいか、ローラントの眼鏡の奥の瞳が悲しそうに揺れたように見えた。
「ですから、お役に立てるはずです」
いつか、ローラントとちゃんと話してみたい。記憶のなくなった同志として。今はローラントの言葉に甘えよう。そう思った。わたしが頭を下げて、正面に戻したとき、甘い笑顔が迎えてくれた。
改めて聞くウィルの声は、本当に落ち着き払っていて、大人な感じがした。
そういえば、ウィルの年齢を知らない。こちらの人たちはあまり年齢が関係ないみたいで、ウィルもフィデールさんに対して偉そうだ。フィデールさんは誰に対しても敬意を払わないから、基準には入らない。
ウィルはいったいいくつなんだろう? さすがに、わたしよりは上だとは思う。でも、フィデールさんより若そうだし。ローラントと同じくらい? でも、年齢よりも外見が若そうな人という感じもする。
なんて適当に考えていたら、ウィルが動き出した。短い言葉を発してから、またウィルがわたしの耳たぶに触れる。意外と近い距離にウィルの鼻先や唇を見つけて、体が熱くなってきた。
相手はウィルだ。ローラントじゃない。そう自分に言い聞かせても、体は勝手に熱を持つ。ウィルの口が開く気配がした。
「どうだ? 切り替わっただろう」
言われてすぐに、ウィルの言葉が聖霊くんを通して変換された。ウィルが近づいたくらいで、何を動揺しているんだか。あるのは面白味のない綺麗な無表情じゃないか。ウィルが何の理由もなく、わたしに近づいたり、耳たぶに触れるわけがないのだ。戸惑う必要もなかった。
激しい後悔を内心で繰り広げている間、ウィルは説明をしてくれた。あんまり熱心に説明を聞かなかったけれど、とりあえず、わたしが耳たぶを触っても、切り替わるらしい。ずいぶん、魔力を使ったとか恩着せがましく言っていた。なんて便利なんだろう。
「まあ、言葉など覚えても、すぐに必要なくなるだろうが、な」
「えっ?」
「いや」
「ウィル?」
「お前の用は済んだのだろう。俺は失礼する」
何となく誤魔化されたような気がしないでもない。ただ、部屋から出ていこうとするウィルを引き止める言葉をわたしはまだ知らなかった。
すっきりしない気分でソファーに腰をかけていたら、お迎えが来た。ローラントである。
「話は聞きました。こちらの言葉を学びたいとのこと。わたしもお力になれると思います。実はわたしもこちらの言葉を1から学んだもので」
「え、そうなの?」
驚いた。ローラントがこちらの言葉をしゃべれなかったなんて。とってもなめらかに言葉をしゃべっているし、そんな風にはまったく見えない。
「どうも過去の記憶とともに言葉を失ったらしいのです。今も記憶は一部しか戻っていませんが」
気のせいか、ローラントの眼鏡の奥の瞳が悲しそうに揺れたように見えた。
「ですから、お役に立てるはずです」
いつか、ローラントとちゃんと話してみたい。記憶のなくなった同志として。今はローラントの言葉に甘えよう。そう思った。わたしが頭を下げて、正面に戻したとき、甘い笑顔が迎えてくれた。