すべての元凶はあなた
第42話『身ぶり手振り』
ローラントにたずねたいのに、たずねられない。このもどかしさをウィルにぶつけることにした。
朝食後、椅子でくつろいでいるウィルの腕を取り、立ち上がるようにと自分の方へ引いた。フィデールさんからは「ずいぶん積極的じゃねえか」と冷やかしを受けた。けれど、大したダメージじゃない。おっさんは「こちらを見るな」という感じでにらみつけて、おいて、もう一度、ウィルの腕を引く。
「ついてこいというのか?」
ウィルは察しが良いようで、わたしの意図をちゃんと汲んでくれる。こういうところは嫌いじゃない。うなずいてみれば、少し考える振りをする。ダメならダメでしょうがないけれど。結果は「いいだろう」と抵抗もなく、椅子から腰を上げてくれた。
「わたしも参ります」
ローラントが申し出れば、「いや、いらん」とウィルが断る。実は、心のなかでは助かったと安心していた。これから行われることはローラントに見せたくはないから。
「そうですか……」
しょげたようなローラントを見て、胸の辺りがもやもやし出す。せっかく護衛についてもらったのに、申し訳ない。でも、もう一度言うけれど、ローラントには見せたくないのだ。女心をわかってほしい。
場所を移動して、談話室に入った。
ウィルはソファーに腰をかけている。わたしが両手でそこに座っておいて、とジェスチャーで伝える。とりあえず、ウィルはしたがってくれた。
よし、入りは完璧。次が問題である。わたしは座らずに身ぶり手振りでジェスチャーをする。これが、ローラントに見せたくはない理由だ。
「わたしは、言葉を、知りたい、話したい。だから、教えて」
この世界に来て、唯一不便なこと。それは言葉による意志疎通だった。少しぐらいは話せるようになりたい。ローラントと話していて強く感じた。それを伝えようと思って、ウィルの前でジェスチャーをして見せているのだけれど、通じている気配がない。
ある程度、やってみたところで、いったん止めた。いい加減、自分のことが間抜けに思えてきたのだ。
「ウィル?」
あくまで下からの感じで名前を呼ぶと、「なるほどな」と返ってきた。まさかわかってくれたのかと安心する。
「食い足りないか? まあ、確かにミアの料理はまあまあ上手い」
いや、そんなことじゃなくて。
「冗談だ」
ウィルが笑った。冗談を言った。どういう風の吹き回しだか、あのウィルがつまらない冗談を言ったのだ。
しかも、ウィルの口元からのぞく白い歯が輝いて見えた。心臓が飛び出たかと思うくらい、驚いて、どくどくして。見つめていたら、ウィルの笑顔はみるみるうちに消えた。すごく輝いて見えたのに。もったいないと思う自分がいた。
「お前はこちらの言葉を話したい。違うか?」
何でウィルには伝わるの? 勢いよく何度もうなずくと、ウィルはソファーから腰を上げた。わたしの前まで来て、指で耳たびに触れた。不意打ちだったから、「ふっ」と小さな声が漏れたのは許してほしい。
「聖霊の力でお前は言葉を理解できる。つまり、聖霊の力を一時的に止めれば……」
ウィルたちの言葉が直に聞こえて、覚えられるかもしれないということだ。ウィルはわたしの耳に触れたまま、何か呪文のようなものを唱えた。そして、指を離す。次にウィルが何かを話したとき、まったく意味のわからない言葉が聞こえた。
ローラントにたずねたいのに、たずねられない。このもどかしさをウィルにぶつけることにした。
朝食後、椅子でくつろいでいるウィルの腕を取り、立ち上がるようにと自分の方へ引いた。フィデールさんからは「ずいぶん積極的じゃねえか」と冷やかしを受けた。けれど、大したダメージじゃない。おっさんは「こちらを見るな」という感じでにらみつけて、おいて、もう一度、ウィルの腕を引く。
「ついてこいというのか?」
ウィルは察しが良いようで、わたしの意図をちゃんと汲んでくれる。こういうところは嫌いじゃない。うなずいてみれば、少し考える振りをする。ダメならダメでしょうがないけれど。結果は「いいだろう」と抵抗もなく、椅子から腰を上げてくれた。
「わたしも参ります」
ローラントが申し出れば、「いや、いらん」とウィルが断る。実は、心のなかでは助かったと安心していた。これから行われることはローラントに見せたくはないから。
「そうですか……」
しょげたようなローラントを見て、胸の辺りがもやもやし出す。せっかく護衛についてもらったのに、申し訳ない。でも、もう一度言うけれど、ローラントには見せたくないのだ。女心をわかってほしい。
場所を移動して、談話室に入った。
ウィルはソファーに腰をかけている。わたしが両手でそこに座っておいて、とジェスチャーで伝える。とりあえず、ウィルはしたがってくれた。
よし、入りは完璧。次が問題である。わたしは座らずに身ぶり手振りでジェスチャーをする。これが、ローラントに見せたくはない理由だ。
「わたしは、言葉を、知りたい、話したい。だから、教えて」
この世界に来て、唯一不便なこと。それは言葉による意志疎通だった。少しぐらいは話せるようになりたい。ローラントと話していて強く感じた。それを伝えようと思って、ウィルの前でジェスチャーをして見せているのだけれど、通じている気配がない。
ある程度、やってみたところで、いったん止めた。いい加減、自分のことが間抜けに思えてきたのだ。
「ウィル?」
あくまで下からの感じで名前を呼ぶと、「なるほどな」と返ってきた。まさかわかってくれたのかと安心する。
「食い足りないか? まあ、確かにミアの料理はまあまあ上手い」
いや、そんなことじゃなくて。
「冗談だ」
ウィルが笑った。冗談を言った。どういう風の吹き回しだか、あのウィルがつまらない冗談を言ったのだ。
しかも、ウィルの口元からのぞく白い歯が輝いて見えた。心臓が飛び出たかと思うくらい、驚いて、どくどくして。見つめていたら、ウィルの笑顔はみるみるうちに消えた。すごく輝いて見えたのに。もったいないと思う自分がいた。
「お前はこちらの言葉を話したい。違うか?」
何でウィルには伝わるの? 勢いよく何度もうなずくと、ウィルはソファーから腰を上げた。わたしの前まで来て、指で耳たびに触れた。不意打ちだったから、「ふっ」と小さな声が漏れたのは許してほしい。
「聖霊の力でお前は言葉を理解できる。つまり、聖霊の力を一時的に止めれば……」
ウィルたちの言葉が直に聞こえて、覚えられるかもしれないということだ。ウィルはわたしの耳に触れたまま、何か呪文のようなものを唱えた。そして、指を離す。次にウィルが何かを話したとき、まったく意味のわからない言葉が聞こえた。