すべての元凶はあなた
第41話『再び出会う』
雨音がする中、寝ぼけた頭を上げた。異世界でも雨の日は、あまりいい気がしない。爆発した髪の毛は、うまくまとまらないし、うるさいほどの雨音は憂うつ感がすごい。
たまには救い主も休みたいなあと思ったりする。そんなことを言ったら、ウィルに怒られそうだけれど。
外にいたミアさんは雨に濡れたりしていないだろうか。ドラゴンのうろこは水とか弾くのかな。だったら、大丈夫かもしれない。なんてことを考えながら、ベッドのふちに腰をかけた。
ウィルといえば、昨夜は初めてのことばかりだった。あのウィルが、まさか、あんなことを告白してくるなんて思わなかった。
まあ、特にわたしの方からは何にも言えなかったけれど、黙って突っ立っていただけだった。聞いているだけで、良かったのかなあと思う。
あの後、ウィルは何にも言わなかった。顔色からもどう思っていたのか、わからなかった。いつものように部屋まで送り届けてくれた。一方的に話して、少しでもウィルの心が軽くなったのだとしたら、嬉しいけれど、どうだったのだろう。
現在に引き戻されるように、扉がノックされる。仕切りがないから、音が直に聞こえてくる。ミアさんかなあと思って、「はい」と返事をしたら、扉がゆっくりと開いた。
「エマ様、おはようございます」
この礼儀正しさは、ここの神殿にいる男たちにはない。ウィルはもちろんないし、フィデールさんは……考える気にもなれない。
「ローラント!」
まさかのローラントの登場に驚いてしまって、跳ねるようにベッドから腰を上げた。瓦礫にぶつかった頭は大丈夫なのかな、と心配になったけれど、ローラントはちゃんと自分の足で立っていた。雨に濡れたのか、髪の毛は湿りを帯びていた。
ローラントを見るのが懐かしく感じられて、わたしは笑ってしまった。逆に彼は眉をひそめて、慌てて人の顔から視線をそらしたように見えた。
「失礼いたしました。まだ着替えられていなかったのですね、申し訳ありません。出直します。本当にエマ様のことが心配で」
「いいから。待ってローラント!」
扉を引き返そうとするローラントの腕を捕まえた。逃げないことを確かめてから、腕を離す。
わたしの心のなかは混乱していた。
まだ1日しか離れていないのに心配だったの? ローラントだって怪我はまだ癒えていないみたいなのに、包帯が巻かれているのに、わたしが心配? 何か勘違いしてしまうじゃないか。
ローラントは立ち止まって目を見開いている。何かに驚いている?
照れ臭くて髪の毛に触れたら、ぼさぼさだったことに気づいた。ローラントに会えて、素直に嬉しい。なのに、まだ髪の毛も解かしていない。嫌だ。こんなぼさぼさな頭で、会いたくなかった。
「お元気そうで安心しました」
気を取り直したようなローラントは、うやうやしくお辞儀なんかするから、わたしも救い主みたいに偉そうに立たないといけない。頭ぼさぼさだけれど。
「本日から再び護衛につかせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
ローラントの手を取り、胸の前に持っていく。頭を下げると、彼は「エマ様」とかすれた声で呼んだ。上から手を握られて、ちょっと驚いた。でも、すぐにわたしの手がやんわりと外された。
「ローラント?」
「エマ様、あまり無闇に男に触れてはなりません。しかも、そのような格好で」
「えっ?」
「あなたは無防備です。あんなことがあった後ですから、警戒を怠らないようにしてください」
そっか。どんな人かもわからないのに無闇に触れたりしてはダメということか。だけど、わたしだって、親しくない人にこうやって手を触れたりしない。なんて言っても、ローラントには通じないのかな。言葉を話すことが無駄だと思ってしまうことが悲しい。
落ちこみ中のわたしに何を感じたのか、ローラントの慌てたような声が降ってきた。
「偉そうに説教などして、すみません。エマ様にそんなお顔をさせたくはないのに。ただ、わたしが心配なだけです」
よくわからないけれど、顔を上げてみれば、ローラントは落ちこんだ様子だった。そんなに落ちこまなくてもいいのに。「気にしないで」と手を振って伝えようとする前に、ローラントの反応の方が早かった。
「わたしは……」
ローラントが何か言う前に、すぐにミアさんがやってきた。最後まで聞けずに終わった。わたしは……の続きは何だったのだろう。気になったけれど、わたしの方からたずねることはできなかった。
雨音がする中、寝ぼけた頭を上げた。異世界でも雨の日は、あまりいい気がしない。爆発した髪の毛は、うまくまとまらないし、うるさいほどの雨音は憂うつ感がすごい。
たまには救い主も休みたいなあと思ったりする。そんなことを言ったら、ウィルに怒られそうだけれど。
外にいたミアさんは雨に濡れたりしていないだろうか。ドラゴンのうろこは水とか弾くのかな。だったら、大丈夫かもしれない。なんてことを考えながら、ベッドのふちに腰をかけた。
ウィルといえば、昨夜は初めてのことばかりだった。あのウィルが、まさか、あんなことを告白してくるなんて思わなかった。
まあ、特にわたしの方からは何にも言えなかったけれど、黙って突っ立っていただけだった。聞いているだけで、良かったのかなあと思う。
あの後、ウィルは何にも言わなかった。顔色からもどう思っていたのか、わからなかった。いつものように部屋まで送り届けてくれた。一方的に話して、少しでもウィルの心が軽くなったのだとしたら、嬉しいけれど、どうだったのだろう。
現在に引き戻されるように、扉がノックされる。仕切りがないから、音が直に聞こえてくる。ミアさんかなあと思って、「はい」と返事をしたら、扉がゆっくりと開いた。
「エマ様、おはようございます」
この礼儀正しさは、ここの神殿にいる男たちにはない。ウィルはもちろんないし、フィデールさんは……考える気にもなれない。
「ローラント!」
まさかのローラントの登場に驚いてしまって、跳ねるようにベッドから腰を上げた。瓦礫にぶつかった頭は大丈夫なのかな、と心配になったけれど、ローラントはちゃんと自分の足で立っていた。雨に濡れたのか、髪の毛は湿りを帯びていた。
ローラントを見るのが懐かしく感じられて、わたしは笑ってしまった。逆に彼は眉をひそめて、慌てて人の顔から視線をそらしたように見えた。
「失礼いたしました。まだ着替えられていなかったのですね、申し訳ありません。出直します。本当にエマ様のことが心配で」
「いいから。待ってローラント!」
扉を引き返そうとするローラントの腕を捕まえた。逃げないことを確かめてから、腕を離す。
わたしの心のなかは混乱していた。
まだ1日しか離れていないのに心配だったの? ローラントだって怪我はまだ癒えていないみたいなのに、包帯が巻かれているのに、わたしが心配? 何か勘違いしてしまうじゃないか。
ローラントは立ち止まって目を見開いている。何かに驚いている?
照れ臭くて髪の毛に触れたら、ぼさぼさだったことに気づいた。ローラントに会えて、素直に嬉しい。なのに、まだ髪の毛も解かしていない。嫌だ。こんなぼさぼさな頭で、会いたくなかった。
「お元気そうで安心しました」
気を取り直したようなローラントは、うやうやしくお辞儀なんかするから、わたしも救い主みたいに偉そうに立たないといけない。頭ぼさぼさだけれど。
「本日から再び護衛につかせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
ローラントの手を取り、胸の前に持っていく。頭を下げると、彼は「エマ様」とかすれた声で呼んだ。上から手を握られて、ちょっと驚いた。でも、すぐにわたしの手がやんわりと外された。
「ローラント?」
「エマ様、あまり無闇に男に触れてはなりません。しかも、そのような格好で」
「えっ?」
「あなたは無防備です。あんなことがあった後ですから、警戒を怠らないようにしてください」
そっか。どんな人かもわからないのに無闇に触れたりしてはダメということか。だけど、わたしだって、親しくない人にこうやって手を触れたりしない。なんて言っても、ローラントには通じないのかな。言葉を話すことが無駄だと思ってしまうことが悲しい。
落ちこみ中のわたしに何を感じたのか、ローラントの慌てたような声が降ってきた。
「偉そうに説教などして、すみません。エマ様にそんなお顔をさせたくはないのに。ただ、わたしが心配なだけです」
よくわからないけれど、顔を上げてみれば、ローラントは落ちこんだ様子だった。そんなに落ちこまなくてもいいのに。「気にしないで」と手を振って伝えようとする前に、ローラントの反応の方が早かった。
「わたしは……」
ローラントが何か言う前に、すぐにミアさんがやってきた。最後まで聞けずに終わった。わたしは……の続きは何だったのだろう。気になったけれど、わたしの方からたずねることはできなかった。