すべての元凶はあなた
第38話『新しい部屋』
「はー、食った食った」
フィデールさんは自分のお腹をぽんぽんと叩く。確か、このおっさんは人の分も横取りしていた。そうまでしたのだから、お腹が膨れてベルトに乗っかっているのも仕方ない。
主に、ウィルの皿から頂戴していた。取られた方はまったく興味が無さそうで、ただただ口に食べ物を運んでいた。普段と変わらないように見えたけれど、わたしの目には、ボーッとしているように映った。
辺りは薄暗くなってきて、そろそろ眠る時刻である。
この世界に来てから、テレビも動画も観ることができなくなった。本当に夜になるとやることもなくて、眠るしかない。辺りが暗いせいか、ベッドの上に横たわると、何だか、よく眠れる。眠れない夜はあまりない。おかげで割りと肌つやが良かったりする。
今日のミアさんは働きっぱなしだった。ミアさんの負担が少しでも減るように、食器の片づけを手伝ったら、「ありがとうございます」と涙目ながらに感謝された。
別にお礼なんていらない。この神殿に来てから、救い主とかそういうのがあまり関係なく思えてきたから。
首を横に振って笑ってみせれば、ミアさんは涙ながらに微笑んでくれた。手伝ったくらいで、こんなに感謝されるとは思わなかった。
片づけている間に、ウィルとフィデールさんはいつの間にか姿を消していた。護衛はどうした? という感じだけれど、フィデールさんにぴったり密着されても、うっとおしいし、いいか。
おっさんのことはすぐに忘れて、ミアさんが消えた奥の部屋をぼんやり眺めた。しばらくして、手持ちの燭台を掲げたミアさんが現れた。確かに燭台がないと通路は真っ暗な気がする。
「それでは、救い主様のお部屋へと案内します」
やっとか。やっと、1日が終わる。ミアさんの後をついて(行かないと暗闇で怖い)、いくつかの通路を曲がり、行き当たった木製のドアの前で足を止める。その先は机とベッドしかないシンプルな部屋だった。岩だらけだった前の神殿とは違い、大体の家具が木でできている。
ミアさんが部屋の燭台に火を移すと、ぼんやりと辺りが照らされた。
「手狭な部屋で申し訳ありません。用意できたのがこの部屋しかなくて」
いえ、全然気にしません。移動距離も少ないし、これくらいのほうが落ち着く。
「ミアさんは?」手を差し出してたずねてみれば、言葉のニュアンスは伝わったようだ。
「わたくしですか? わたくしは竜ですから。森で野宿しようかと考えています」
こんな夜中に野宿。考えられなかった。ミアさんが退室しようとしたので思わず、服の袖を引っ張った。
「もしかして、心配してくださっているのですか?」
もちろんだ。ミアさんがドラゴンだとしても、夜の森は危険だと思う。うなずくと、ミアさんは微笑んで返してくれた。
「ありがとうございます。ですが、わたくしは大丈夫なのです。恥ずかしながら、わたくしは竜なので、部屋やベッドの上で眠るのは慣れていないのです。星空の下で、眠るほうが好きなのです。それに、人間の食事は少ないので、狩りに出ないと」
意地や何かで言っているとは思えなかった。ただ真実を恥ずかしそうに述べている。確かに、あれだけ体の大きいドラゴンなら、お腹いっぱいに食べないとやっていられないだろう。
「気をつけてくださいね」
「救い主様、お休みなさいませ」
微妙に会話になっていないけれど、もう慣れた。
ミアさんがいなくなると、わたしひとりになる。森に囲まれた神殿とあって、虫の声がひっきりなしに聞こえてくる。
ベッドに横たわると、すぐ眠れると思ったのに、ウィルの無表情が天井に浮かんできた。
――今、何をしているのだろう。なんて、気にしてどうする。でも、寝返りを打っても、しつこく顔が浮かんでくるので、とうとう起き上がってしまった。
「はー、食った食った」
フィデールさんは自分のお腹をぽんぽんと叩く。確か、このおっさんは人の分も横取りしていた。そうまでしたのだから、お腹が膨れてベルトに乗っかっているのも仕方ない。
主に、ウィルの皿から頂戴していた。取られた方はまったく興味が無さそうで、ただただ口に食べ物を運んでいた。普段と変わらないように見えたけれど、わたしの目には、ボーッとしているように映った。
辺りは薄暗くなってきて、そろそろ眠る時刻である。
この世界に来てから、テレビも動画も観ることができなくなった。本当に夜になるとやることもなくて、眠るしかない。辺りが暗いせいか、ベッドの上に横たわると、何だか、よく眠れる。眠れない夜はあまりない。おかげで割りと肌つやが良かったりする。
今日のミアさんは働きっぱなしだった。ミアさんの負担が少しでも減るように、食器の片づけを手伝ったら、「ありがとうございます」と涙目ながらに感謝された。
別にお礼なんていらない。この神殿に来てから、救い主とかそういうのがあまり関係なく思えてきたから。
首を横に振って笑ってみせれば、ミアさんは涙ながらに微笑んでくれた。手伝ったくらいで、こんなに感謝されるとは思わなかった。
片づけている間に、ウィルとフィデールさんはいつの間にか姿を消していた。護衛はどうした? という感じだけれど、フィデールさんにぴったり密着されても、うっとおしいし、いいか。
おっさんのことはすぐに忘れて、ミアさんが消えた奥の部屋をぼんやり眺めた。しばらくして、手持ちの燭台を掲げたミアさんが現れた。確かに燭台がないと通路は真っ暗な気がする。
「それでは、救い主様のお部屋へと案内します」
やっとか。やっと、1日が終わる。ミアさんの後をついて(行かないと暗闇で怖い)、いくつかの通路を曲がり、行き当たった木製のドアの前で足を止める。その先は机とベッドしかないシンプルな部屋だった。岩だらけだった前の神殿とは違い、大体の家具が木でできている。
ミアさんが部屋の燭台に火を移すと、ぼんやりと辺りが照らされた。
「手狭な部屋で申し訳ありません。用意できたのがこの部屋しかなくて」
いえ、全然気にしません。移動距離も少ないし、これくらいのほうが落ち着く。
「ミアさんは?」手を差し出してたずねてみれば、言葉のニュアンスは伝わったようだ。
「わたくしですか? わたくしは竜ですから。森で野宿しようかと考えています」
こんな夜中に野宿。考えられなかった。ミアさんが退室しようとしたので思わず、服の袖を引っ張った。
「もしかして、心配してくださっているのですか?」
もちろんだ。ミアさんがドラゴンだとしても、夜の森は危険だと思う。うなずくと、ミアさんは微笑んで返してくれた。
「ありがとうございます。ですが、わたくしは大丈夫なのです。恥ずかしながら、わたくしは竜なので、部屋やベッドの上で眠るのは慣れていないのです。星空の下で、眠るほうが好きなのです。それに、人間の食事は少ないので、狩りに出ないと」
意地や何かで言っているとは思えなかった。ただ真実を恥ずかしそうに述べている。確かに、あれだけ体の大きいドラゴンなら、お腹いっぱいに食べないとやっていられないだろう。
「気をつけてくださいね」
「救い主様、お休みなさいませ」
微妙に会話になっていないけれど、もう慣れた。
ミアさんがいなくなると、わたしひとりになる。森に囲まれた神殿とあって、虫の声がひっきりなしに聞こえてくる。
ベッドに横たわると、すぐ眠れると思ったのに、ウィルの無表情が天井に浮かんできた。
――今、何をしているのだろう。なんて、気にしてどうする。でも、寝返りを打っても、しつこく顔が浮かんでくるので、とうとう起き上がってしまった。