すべての元凶はあなた
第32話『お疲れ』
柱と天井の修復作業が終わるまでの間、神殿を離れることになった。しばらくは、どこか別の場所に移る。ウィルにそう告げられたのは、襲撃事件から2日が経った昨夜のことだ。
朝からミアさんは荷造りのために、わたしの部屋までわざわざ来てくれた。着る服やアクセサリーを一式そろえて箱に入れてくれている。時折、「これも必要ですわね」と呟いて、必要なものを分けていく。
「あの~」と、暇すぎるので手伝おうとしたものの、「わたくしにお任せください」とぴしゃりと言われてしまった。そう言われてしまえば、手出しはできない。
結局、ミアさんの手際の良さを眺めながら椅子に座っているしかなかった。今思えば、ミアさんの白さはドラゴンのうろこの白さと通じるものがある。だから、人間離れした美しさを感じるのだろう。ドラゴンだってわたしなんかよりも手先は器用だし、物知りだ。本当に。
ミアさんのことを考えていたら、ウィルがノックもしないでやってきた。いつもの黒い衣装に赤い髪は見飽きる。相変わらず、突然押しかけてくる男だなと呆れた。
ウィルはミアさんと何かを会話をしていたけれど、いつの間にかわたしの顔を見ていた。何かしたかと不安になる。
「不満でもあるのか」
ウィルが問いかけてくる。その問いにちゃんと答えようと考えてみるけれど、不満はない。でも、心のどこかに不安はある。
住めば都というか、神殿生活に慣れてきたところだったし。ローラントは怪我で療養中だし。わたしとそりがあわないウィルだけじゃ不安だ。
ミアさんもいるにはいるけれど、不安を完全に拭い去ることはできない。
「ウィル様、救い主様は不安なのではないでしょうか?」
さすがミアさんだ、よくご存知で。感心していると、ウィルが鼻で笑う音が聞こえてきた。
「不安か。そんなもの、こちらの世界に飛ばされてきた頃が一番感じただろうに。それと比べれば大したことではないだろう」
まあ、確かに。なんて同調してしまう自分が嫌だ。元はといえばウィルが全部悪いのに、敵に簡単にそそのかされる自分が嫌だ。
でも、本当にこっちの世界に飛ばされてきた時の不安なんて比べようがなかった。何日か眠れない夜もあったんだ。
「お前がどう思おうが決まったことだ」
わかっている。別に抗おうなんて思っていない。わがままを言うつもりもない。強気にウィルをにらみつけると、当の本人はにやっと笑った。こういうところが腹が立つというのに。
ウィルは何をしに来たのだか、部屋から出ていこうとする。扉の前で足を止めると、こちらを振り返った。まだ何かあるのかとにらみつけたら、ウィルは口を開いた。
「怪我が治り次第、ローラントはお前の護衛に復帰する予定だ」
何なんだ。だから、安心しろと言いたいのか。ウィルの真意を知る前に、言い逃げのように扉は閉ざされた。そんなので帳消しにはならない。ますます腹が立っていたら、ミアさんと目が合った。
「素直ではありませんね。あれで救い主様のことを思われているのです」
前も同じように言われた気がする。思うんだったら、もっと違う方向に思ってほしい。わたしを元の世界に帰してくれるとか。記憶を取り戻す手伝いをしてくれるとか。そうすれば、少しぐらいウィルを見直して感謝のひとつもしてあげられる。
まあ、ウィルには無理だろう。不本意ながら長く付き合ってきての結論がそれだった。諦めが顔に出ていたのか、「お疲れですか」とミアさんに心配されてしまった。
心のなかでは「そうです、疲れました」と思っていた。
柱と天井の修復作業が終わるまでの間、神殿を離れることになった。しばらくは、どこか別の場所に移る。ウィルにそう告げられたのは、襲撃事件から2日が経った昨夜のことだ。
朝からミアさんは荷造りのために、わたしの部屋までわざわざ来てくれた。着る服やアクセサリーを一式そろえて箱に入れてくれている。時折、「これも必要ですわね」と呟いて、必要なものを分けていく。
「あの~」と、暇すぎるので手伝おうとしたものの、「わたくしにお任せください」とぴしゃりと言われてしまった。そう言われてしまえば、手出しはできない。
結局、ミアさんの手際の良さを眺めながら椅子に座っているしかなかった。今思えば、ミアさんの白さはドラゴンのうろこの白さと通じるものがある。だから、人間離れした美しさを感じるのだろう。ドラゴンだってわたしなんかよりも手先は器用だし、物知りだ。本当に。
ミアさんのことを考えていたら、ウィルがノックもしないでやってきた。いつもの黒い衣装に赤い髪は見飽きる。相変わらず、突然押しかけてくる男だなと呆れた。
ウィルはミアさんと何かを会話をしていたけれど、いつの間にかわたしの顔を見ていた。何かしたかと不安になる。
「不満でもあるのか」
ウィルが問いかけてくる。その問いにちゃんと答えようと考えてみるけれど、不満はない。でも、心のどこかに不安はある。
住めば都というか、神殿生活に慣れてきたところだったし。ローラントは怪我で療養中だし。わたしとそりがあわないウィルだけじゃ不安だ。
ミアさんもいるにはいるけれど、不安を完全に拭い去ることはできない。
「ウィル様、救い主様は不安なのではないでしょうか?」
さすがミアさんだ、よくご存知で。感心していると、ウィルが鼻で笑う音が聞こえてきた。
「不安か。そんなもの、こちらの世界に飛ばされてきた頃が一番感じただろうに。それと比べれば大したことではないだろう」
まあ、確かに。なんて同調してしまう自分が嫌だ。元はといえばウィルが全部悪いのに、敵に簡単にそそのかされる自分が嫌だ。
でも、本当にこっちの世界に飛ばされてきた時の不安なんて比べようがなかった。何日か眠れない夜もあったんだ。
「お前がどう思おうが決まったことだ」
わかっている。別に抗おうなんて思っていない。わがままを言うつもりもない。強気にウィルをにらみつけると、当の本人はにやっと笑った。こういうところが腹が立つというのに。
ウィルは何をしに来たのだか、部屋から出ていこうとする。扉の前で足を止めると、こちらを振り返った。まだ何かあるのかとにらみつけたら、ウィルは口を開いた。
「怪我が治り次第、ローラントはお前の護衛に復帰する予定だ」
何なんだ。だから、安心しろと言いたいのか。ウィルの真意を知る前に、言い逃げのように扉は閉ざされた。そんなので帳消しにはならない。ますます腹が立っていたら、ミアさんと目が合った。
「素直ではありませんね。あれで救い主様のことを思われているのです」
前も同じように言われた気がする。思うんだったら、もっと違う方向に思ってほしい。わたしを元の世界に帰してくれるとか。記憶を取り戻す手伝いをしてくれるとか。そうすれば、少しぐらいウィルを見直して感謝のひとつもしてあげられる。
まあ、ウィルには無理だろう。不本意ながら長く付き合ってきての結論がそれだった。諦めが顔に出ていたのか、「お疲れですか」とミアさんに心配されてしまった。
心のなかでは「そうです、疲れました」と思っていた。