すべての元凶はあなた
第30話『お見舞い』
神殿に戻ったものの、相変わらず、柱も天井も崩れ落ちていた。散乱した瓦礫のせいでとても歩きづらい。普段みたいに裸足でどこまでも、とは行かなそうだ。今も革の靴を借りて履いている。
外の割には内部は被害が少ないみたいで、その辺りは幸いだと思う。
ウィルはこの惨状を見て、「あいつらは、ただではおかない」と不穏な言葉を吐く。他の幹部さんとお金の話とか、こみあった話をする。どうやら修理には、かなりの時間がかかるらしい。
ミアさんは人間の姿に戻っていた。わたしが「あの、ローラントは?」とたずねると、ミアさんは承知したというようにうなずいた。そして、他の人に怪我人はどうなったのかと、聞いてくれた。
「ローラントは医務室にいるそうです」
ひどい怪我をしていたローラントの姿が目に浮かぶ。「ありがとう、ミアさん」と頭を下げると、ミアさんは「医務室までご案内いたします」と申し出てくれた。本当にありがたい。
ミアさんの後ろをついて歩いていると、出くわした神殿の人たちはわたしを見て一歩下がる。それに顔を見せないようにうつむかせる。そこまでしてもらうほどの人間ではないのだけれど、神殿のしきたりだ。救い主としては堂々していなければならない。
神殿にある医務室まで通されると、わたしの健康管理もしてくれているお医者さんにミアさんがいろいろ質問してくれた。
「ローラントの容態はどうですか?」
「怪我は大したことないですよ。ただ頭が問題です。瓦礫が頭にぶつかったらしいし、2、3日は安静にしたほうがいいでしょうな」
お医者さんはおじいさんである。わたしが具合の悪いときにはいつも来てくれる人だった。顔は髭だらけで白衣を着ていなければ、全然お医者さんには見えないけれど。ミアさんとお医者さんが話をしているうちに、わたしは奥へと進んだ。
ローラントはベッドの上にいた。血や埃は綺麗に拭われて、青白い顔が見える。額に巻かれた包帯が痛々しい。目をつむっていると、まるで眠っているかのようだ。
起こしてしまうのも悪いから、「ローラント」と小声で名前を呼んだ。声に反応して瞼がゆっくりと開く。一度目を細めた後、瞳が丸くなった。
「エマ様!」
ローラントが慌てて上体を起こそうとするので、手で止めた。病人なんだから安静しないとダメだ。
「こんな姿ですみません。エマ様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫」という思いをこめて笑ってみると、ローラントは肩から息を吐いた。安心してくれたらしい。そして、すぐに顔をうつむかせた。
「エマ様、本当に面目ありません」
真面目なローラントを前にして、何と返せばいいかわからなかった。わたしは何だかんだ怪我もなく無事だし、こちらのほうこそ「守ってくれてありがとう」と言いたい。少しでもわたしの気持ちが伝わってくれたらと思って、包帯が巻かれた手を取った。
「ローラント、ありがとう」言葉は通じないだろうけれど、改めて深く頭を下げる。
「エマ様……」
「早く元気になってね」
わたしが笑って見せると、ローラントはなぜか悲しそうに眉を寄せた。何か、悪いことをしてしまっただろうか。
「わたしはまた、守れませんでした」
「え?」
「もっと、強くなければ……」
「どういう意味?」
ローラントは払うように首を横に振る。悲しそうだったのは一瞬だけで、正面を向いた時のローラントの表情は、作り笑顔で隠されていた。
神殿に戻ったものの、相変わらず、柱も天井も崩れ落ちていた。散乱した瓦礫のせいでとても歩きづらい。普段みたいに裸足でどこまでも、とは行かなそうだ。今も革の靴を借りて履いている。
外の割には内部は被害が少ないみたいで、その辺りは幸いだと思う。
ウィルはこの惨状を見て、「あいつらは、ただではおかない」と不穏な言葉を吐く。他の幹部さんとお金の話とか、こみあった話をする。どうやら修理には、かなりの時間がかかるらしい。
ミアさんは人間の姿に戻っていた。わたしが「あの、ローラントは?」とたずねると、ミアさんは承知したというようにうなずいた。そして、他の人に怪我人はどうなったのかと、聞いてくれた。
「ローラントは医務室にいるそうです」
ひどい怪我をしていたローラントの姿が目に浮かぶ。「ありがとう、ミアさん」と頭を下げると、ミアさんは「医務室までご案内いたします」と申し出てくれた。本当にありがたい。
ミアさんの後ろをついて歩いていると、出くわした神殿の人たちはわたしを見て一歩下がる。それに顔を見せないようにうつむかせる。そこまでしてもらうほどの人間ではないのだけれど、神殿のしきたりだ。救い主としては堂々していなければならない。
神殿にある医務室まで通されると、わたしの健康管理もしてくれているお医者さんにミアさんがいろいろ質問してくれた。
「ローラントの容態はどうですか?」
「怪我は大したことないですよ。ただ頭が問題です。瓦礫が頭にぶつかったらしいし、2、3日は安静にしたほうがいいでしょうな」
お医者さんはおじいさんである。わたしが具合の悪いときにはいつも来てくれる人だった。顔は髭だらけで白衣を着ていなければ、全然お医者さんには見えないけれど。ミアさんとお医者さんが話をしているうちに、わたしは奥へと進んだ。
ローラントはベッドの上にいた。血や埃は綺麗に拭われて、青白い顔が見える。額に巻かれた包帯が痛々しい。目をつむっていると、まるで眠っているかのようだ。
起こしてしまうのも悪いから、「ローラント」と小声で名前を呼んだ。声に反応して瞼がゆっくりと開く。一度目を細めた後、瞳が丸くなった。
「エマ様!」
ローラントが慌てて上体を起こそうとするので、手で止めた。病人なんだから安静しないとダメだ。
「こんな姿ですみません。エマ様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫」という思いをこめて笑ってみると、ローラントは肩から息を吐いた。安心してくれたらしい。そして、すぐに顔をうつむかせた。
「エマ様、本当に面目ありません」
真面目なローラントを前にして、何と返せばいいかわからなかった。わたしは何だかんだ怪我もなく無事だし、こちらのほうこそ「守ってくれてありがとう」と言いたい。少しでもわたしの気持ちが伝わってくれたらと思って、包帯が巻かれた手を取った。
「ローラント、ありがとう」言葉は通じないだろうけれど、改めて深く頭を下げる。
「エマ様……」
「早く元気になってね」
わたしが笑って見せると、ローラントはなぜか悲しそうに眉を寄せた。何か、悪いことをしてしまっただろうか。
「わたしはまた、守れませんでした」
「え?」
「もっと、強くなければ……」
「どういう意味?」
ローラントは払うように首を横に振る。悲しそうだったのは一瞬だけで、正面を向いた時のローラントの表情は、作り笑顔で隠されていた。