すべての元凶はあなた
第29話『ミアの謎』
ウィルは白いドラゴンに向かって、ミアさんの名を呼んだ。まさか、ミアさんが白いドラゴンのはずがないのに「ミア」と言った。
聖霊くんの通訳が間違ったとか、ウィルがドラゴンに紛らわしく同じ名前でもつけているんじゃないかと思った。思おうとした。
それなのに、ウィルの声に反応したようにドラゴンは頭をもたげてあくびをひとつした。ドラゴンがあくびをするだけで足元の大地が震えるのだけれど、かろうじて踏ん張って耐えた。
「ウィル、あの」わたしは白いドラゴンに指を差して、ジェスチャーを取る。ウィルはそれを無言で観察したあと、「言わなかったか」と呟いた。
「ミアは竜だ。群れからはぐれた竜を俺が拾った。まさか人型になれるとは思わなかったが、どうやらミアだけらしい」
言われてみれば、ミアさんはウィルを慕っていた。ウィルも俺が育てたかのようなことを言っていた気がする。だから、ミアさんはウィルをいい人だと勘違いしているのだろう。
「本当にこいつは役に立つ。拾っておいて正解だった」
言葉には引っかかったけれど、あのウィルにしては優しい声だった。ドラゴンーーミアさんの鼻先に手を置いて撫でる。ミアさんも甘えるようにウィルの手に顔を押しつけた。
ふたりの仲むつまじい姿に微笑ましいなと思えれば良かったのだけれど、何だか胸の辺りがもやもやする。これってバカップルを前にすると、出てくる症状に似ている。ふたりは面白くて楽しいのだけれど、見せられてるわたしには苦痛でしかないというような、あれだ。
ドラゴンはミアさんだ。ミアさんがドラゴンの姿を解いたら、男女がいちゃついているだけになる。ウィルとミアさんだと思ったら、ますます見ていられなかった。
「ミア、こいつに見せてやれ」
いいよ、もうお腹一杯。ふたりでよろしくやっていればいい。
やさぐれていたら、白いドラゴンの体がすっぽり収まるくらいの光に包まれた。何度か見かけた白い種類の光だけれど、眩しさだけはいっこうに慣れない。目を守るように手をかざして光をやり過ごす。光の大きさが横から縦長へと変わる。
もしかして、光のなかですごい変化が起きている? ドラゴンが人へとかたちを変えているような感じの。
光がおさまっていくと、そこにはいつものミアさんが姿勢よく立っていた。
「ご無事で何よりです、救い主様」
「面白いだろう」
ウィルはわたしの顔を見てご満悦のような感じだ。だけど、わたしが驚いているのはミアさんが人に戻ったからではない。それもちょっとは驚いたけれど、大元は違う。
「み、ミアさん」
ミアさんは何も着ていない状態……裸だった。
裸になっても、ウィルの態度は変わらなかった。当のミアさんも前を隠したりはしないし、わたしだけがおろおろしている。
「わかっただろう。ミア、戻れ」
「はい」
ウィルに従順なミアさんはまた、白いドラゴンへと姿を変えた。信じられないけれど、目の前で見せられたら信じるしかない気がする。
ミアさんは爆風を立てながら腕を伸ばすかのように翼を広げる。一度軽く畳むと、背に乗れと言うように顔を後ろに向けた。
ウィルは白いドラゴンに向かって、ミアさんの名を呼んだ。まさか、ミアさんが白いドラゴンのはずがないのに「ミア」と言った。
聖霊くんの通訳が間違ったとか、ウィルがドラゴンに紛らわしく同じ名前でもつけているんじゃないかと思った。思おうとした。
それなのに、ウィルの声に反応したようにドラゴンは頭をもたげてあくびをひとつした。ドラゴンがあくびをするだけで足元の大地が震えるのだけれど、かろうじて踏ん張って耐えた。
「ウィル、あの」わたしは白いドラゴンに指を差して、ジェスチャーを取る。ウィルはそれを無言で観察したあと、「言わなかったか」と呟いた。
「ミアは竜だ。群れからはぐれた竜を俺が拾った。まさか人型になれるとは思わなかったが、どうやらミアだけらしい」
言われてみれば、ミアさんはウィルを慕っていた。ウィルも俺が育てたかのようなことを言っていた気がする。だから、ミアさんはウィルをいい人だと勘違いしているのだろう。
「本当にこいつは役に立つ。拾っておいて正解だった」
言葉には引っかかったけれど、あのウィルにしては優しい声だった。ドラゴンーーミアさんの鼻先に手を置いて撫でる。ミアさんも甘えるようにウィルの手に顔を押しつけた。
ふたりの仲むつまじい姿に微笑ましいなと思えれば良かったのだけれど、何だか胸の辺りがもやもやする。これってバカップルを前にすると、出てくる症状に似ている。ふたりは面白くて楽しいのだけれど、見せられてるわたしには苦痛でしかないというような、あれだ。
ドラゴンはミアさんだ。ミアさんがドラゴンの姿を解いたら、男女がいちゃついているだけになる。ウィルとミアさんだと思ったら、ますます見ていられなかった。
「ミア、こいつに見せてやれ」
いいよ、もうお腹一杯。ふたりでよろしくやっていればいい。
やさぐれていたら、白いドラゴンの体がすっぽり収まるくらいの光に包まれた。何度か見かけた白い種類の光だけれど、眩しさだけはいっこうに慣れない。目を守るように手をかざして光をやり過ごす。光の大きさが横から縦長へと変わる。
もしかして、光のなかですごい変化が起きている? ドラゴンが人へとかたちを変えているような感じの。
光がおさまっていくと、そこにはいつものミアさんが姿勢よく立っていた。
「ご無事で何よりです、救い主様」
「面白いだろう」
ウィルはわたしの顔を見てご満悦のような感じだ。だけど、わたしが驚いているのはミアさんが人に戻ったからではない。それもちょっとは驚いたけれど、大元は違う。
「み、ミアさん」
ミアさんは何も着ていない状態……裸だった。
裸になっても、ウィルの態度は変わらなかった。当のミアさんも前を隠したりはしないし、わたしだけがおろおろしている。
「わかっただろう。ミア、戻れ」
「はい」
ウィルに従順なミアさんはまた、白いドラゴンへと姿を変えた。信じられないけれど、目の前で見せられたら信じるしかない気がする。
ミアさんは爆風を立てながら腕を伸ばすかのように翼を広げる。一度軽く畳むと、背に乗れと言うように顔を後ろに向けた。