すべての元凶はあなた
第26話『最悪な日』
神殿はドラゴンの突撃を受けて、半壊状態になっていた。柱の大部分を失い、天井がいつ崩れ落ちてしまってもおかしくない。
この真下にいたら危険だ、逃げなくては。
そう思って腰を上げようとするけれど、膝が震えて、地面に腰をついてしまう。動揺しすぎだ。こういうとき、どうすればいいのだろう。ウィルは教えてくれなかった。
迷っている間にも、剣と槍がぶつかり合う音がする。ローラントが押したと思ったら剣が押し戻されて、彼の足元がふらつく。その隙を突いて、槍が降ってくる。でも、ローラントは避けた。大振りした槍の隙を縫って、剣を振る。それも避けられて、なかなか決着しない。
柱が壊れて、がら空きとなった場所から次々とドラゴンがつけてきた。ドラゴンの背に乗った男たちが降りてくる。敵の数は3。ローラントは一気に劣勢となった。さすがに3対1では勝ち目はないだろう。
「ここまでだな」
3人がかりでローラントを追い詰め、ふたりの男が地面に引き倒した。ローラントは両肩を押さえつけられ、うつぶせにされた。とどめとばかりに黒髪の男が喉元に槍を突きつけられる。こうなってしまえば、身動きは取れないだろう。わたしもここまでかと思った。
「手こずらせてくれる。それだけの腕前があっても人数には敵わないよなあ」
「うるさい!」ローラントが歯をむき出しにして怒鳴るところをはじめて見た。
「さあ、そこの救い主様には来てもらおうかな。うちの主が待っているんでね」
手を伸ばされても掴む気にはなれなかった。知らない人について行くなともよく言うし。
「こいつが死んでもいいのか?」
なかなか手を取らないわたしに焦れたのか、また脅してくる。
「エマ様! この男の話など聞かないでください!」
叫ぶローラント。額からは血が流れている。「お前は黙っていてもらおうか」と黒髪の男がますます槍を近づける。
「救い主はすべての人を助けるんだったよな? こいつを見殺しにはできないはずだろう?」
救い主じゃなくたって、見殺しにはできない。しかも、ローラントならば尚更だ。だけど、彼の命を救うなら、黙って男にしたがうべきなのかもしれない。
「エマ様、ダメです!」
揺れるわたしに、ローラントは声を上げる。ダメだってローラントの命がかかっているのだから、仕方ない。どんなことが待ち受けていたとしても、生きている分には何とかなるはずだ。
壁に手をついて体を支えながら立ち上がった。
「さあ」と男を手を差し伸べてきたけれど、わたしは意地でも無視をした。ウィルならきっと、救い主として威厳を保て、というに決まっている。それなら、敵の手を取るわけにはいかない。自分から一歩前に出る。
「ローラント、ありがとう」
瓦礫からわたしを守ってくれて。わたしを救い主だと信じてくれて。心配してくれて。どれだけ心強かったか。ローラントがそばにいてくれて良かった。
鼻がつんと痛くて、気づいたら頬にあたたかいものが伝っていった。そこではじめて、自分が泣いているのだと知った。
神殿はドラゴンの突撃を受けて、半壊状態になっていた。柱の大部分を失い、天井がいつ崩れ落ちてしまってもおかしくない。
この真下にいたら危険だ、逃げなくては。
そう思って腰を上げようとするけれど、膝が震えて、地面に腰をついてしまう。動揺しすぎだ。こういうとき、どうすればいいのだろう。ウィルは教えてくれなかった。
迷っている間にも、剣と槍がぶつかり合う音がする。ローラントが押したと思ったら剣が押し戻されて、彼の足元がふらつく。その隙を突いて、槍が降ってくる。でも、ローラントは避けた。大振りした槍の隙を縫って、剣を振る。それも避けられて、なかなか決着しない。
柱が壊れて、がら空きとなった場所から次々とドラゴンがつけてきた。ドラゴンの背に乗った男たちが降りてくる。敵の数は3。ローラントは一気に劣勢となった。さすがに3対1では勝ち目はないだろう。
「ここまでだな」
3人がかりでローラントを追い詰め、ふたりの男が地面に引き倒した。ローラントは両肩を押さえつけられ、うつぶせにされた。とどめとばかりに黒髪の男が喉元に槍を突きつけられる。こうなってしまえば、身動きは取れないだろう。わたしもここまでかと思った。
「手こずらせてくれる。それだけの腕前があっても人数には敵わないよなあ」
「うるさい!」ローラントが歯をむき出しにして怒鳴るところをはじめて見た。
「さあ、そこの救い主様には来てもらおうかな。うちの主が待っているんでね」
手を伸ばされても掴む気にはなれなかった。知らない人について行くなともよく言うし。
「こいつが死んでもいいのか?」
なかなか手を取らないわたしに焦れたのか、また脅してくる。
「エマ様! この男の話など聞かないでください!」
叫ぶローラント。額からは血が流れている。「お前は黙っていてもらおうか」と黒髪の男がますます槍を近づける。
「救い主はすべての人を助けるんだったよな? こいつを見殺しにはできないはずだろう?」
救い主じゃなくたって、見殺しにはできない。しかも、ローラントならば尚更だ。だけど、彼の命を救うなら、黙って男にしたがうべきなのかもしれない。
「エマ様、ダメです!」
揺れるわたしに、ローラントは声を上げる。ダメだってローラントの命がかかっているのだから、仕方ない。どんなことが待ち受けていたとしても、生きている分には何とかなるはずだ。
壁に手をついて体を支えながら立ち上がった。
「さあ」と男を手を差し伸べてきたけれど、わたしは意地でも無視をした。ウィルならきっと、救い主として威厳を保て、というに決まっている。それなら、敵の手を取るわけにはいかない。自分から一歩前に出る。
「ローラント、ありがとう」
瓦礫からわたしを守ってくれて。わたしを救い主だと信じてくれて。心配してくれて。どれだけ心強かったか。ローラントがそばにいてくれて良かった。
鼻がつんと痛くて、気づいたら頬にあたたかいものが伝っていった。そこではじめて、自分が泣いているのだと知った。