すべての元凶はあなた

第11話『足』

 儀式を行う会場までの道のり。ウィルはわたしの前方を行き、ローラントは背後を護衛してくれる。

 ローラントがいてくれて本当に助かった。ウィルとふたりだけの状態を想像すれば、看守と囚人みたいな画が見えて、ゾッとする。

 磨きあげられた廊下は、裸足で歩くには足の裏が吸いついて進みにくい。何でこんなにつるつるしているのかといえば、うずくまった人々が一斉に布で汚れを落としているからだ。

 彼らはウィルが通ると、作業の手を止め、丸めた体をますます小さくさせて頭を下げる。わたしの時はそれより深く頭を下げるのだ。

 何か、やりにくい。記憶はないけれど、元の世界でもこんなふうに気を使われたことはない。平凡な日常を繰り返してきた気がした。

 通路の真ん中を歩き、角を曲がると、右手側の一列に神殿の柱が連なっていた。柱の間にはゴツゴツした岩肌が見えた。ところどころに草が生えた岩は神殿よりも高い場所にある。神殿の下は崖になっていた。吹きすさぶ強い風が服の裾を舞わせる。ウィルやわたしの髪の毛を乱れさせた。

 ウィルが「足」といった意味がわかった気がする。人の「足」ではこの岩を登ることはかなわない。逃げるとしても翼を持った「足」でなくては駄目だろう。

 考えこむわたしを尻目に、ウィルは「行くぞ」と先を促した。偉そうに、と反発したい気持ちを持ちつつも、どうにか足を一歩踏み出そうとした。

 けれど、ちょうど神殿の横を大きな影が横切った。翼を広げた物体が飛んでいく。一瞬のできごとだったけれど、鳥にしてはでかかった。うろこがあった。まさか、架空の生物、ドラゴンとか?

 布によって足元は隠れているものの、自分のひざが震えている。何なの、ここ? 人間を召喚したり、こんな辺鄙へんぴな場所に神殿を建てちゃうし、おまけにドラゴンがいるなんて、考えただけでも、恐ろしい。でも、ドラゴンは見たい。

 また翼がはためいて、足元からの風で浮かび上がりそうになった。今度は小型のドラゴンが、崖と神殿の間を抜けていく。しかも、ドラゴンの背に椅子のようなものがついていて、人間が乗っていた。あんなのに乗れるんだ。

「おい、珍しいのはわかるが、見物は後にしてもらおうか」

 このドラゴンはこちらの世界でも珍しいらしい。初めて見たのだし、少しぐらい見物したっていいだろう。そう思うのに、すでにウィルは先に行ってしまう。

「エマ様、参りましょう」

 ローラントに言われてもドラゴンだ。見てみたい。わたしが動かないでいると、ローラントが小さく口元で笑った。

「儀式を済ませましたら、多少はお時間があるでしょう。その時にお好きなだけ見てはいかがでしょうか?」

 とてもいい提案でわたしはうなずいた。
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