すべての元凶はあなた
第10話『抵抗』
ウィルとのやり取りは、昨日から大して変わっていない。けれど、ミアさんの目からすれば、新鮮に映ったらしい。
「あ、あの、ウィル様?」ミアさんが遠慮がちにウィルを呼ぶ。
「何だ?」呼ばれた男の誰に対しても、そっけない態度は変わらない。
「救い主様に対して、その態度はいかがなものでしょうか?」
よくぞ言ってくれました。なんて激しく歓迎しつつ、ミアさんはもしかして、わたしが仮の救い主だということを知らないのでは、という考えが浮かんできた。
すごい同情的になってくれたし、全身がかゆくなるぐらいの丁寧さで接してくれた。偽者だとわかっていたら、そこまでしてくれない気がする。
ウィルは鋭い視線を瞼で閉ざして、長い息を流した。
「ミア。こいつは仮の救い主だ。偽者。何もできない。異世界から来ただけの一般人」
すごい言われようだけれど、すべて真実だから悔しい。ミアさんは仮の救い主の件を知らされていなかったようで、清みきった瞳を丸くさせた。
「偽者……どうして、そのような方を呼び出されたのですか」
「この神殿を維持するためには救い主が必要だ。信者はこういう存在を望んでいる」
「救い主なら、わざわざ異世界から呼び寄せなくても……」
わたしもそれは考えていた。どうして、わたしが選ばれたのだろう。救い主になれそうな人は他にいただろうに。ずっと聞きたかったことを、ミアさんがたずねてくれた。ウィルは悪い顔で笑う。
「救い主を信じさせるには、他の者にも降臨した場面を見せなければならない」
「それで、わざわざ、皆を呼び寄せて召喚を行ったのですか?」
「ああ」
そして、あの演技で救い主が降臨したことを印象づけたのだという。
「しかし、救い主様は……」
「用が済めば、こいつを元の世界に戻す」
「ですが」
「ミア、お前は自分の立場をわかっているのか? 誰がお前をそこまで生かしておいたと思う?」
「生かしておいた」だなんて大げさな。こちらの世界や神殿のことを知らないわたしでも、ウィルの言葉はミアさんの口を封じる切り札だとわかった。
案の定、ミアさんは唇を閉ざして、長いまつ毛を伏せた。ミアさんはがんばった。この男相手に良く粘ってくれた。
話は途切れ、ウィルの視線が傍観者だったわたしに注がれる。
「ついてこい」
ミアさんにも、わたしにも、ひどい態度で接してくる。誰がこの男なんかに権力を与えたのだろう。もし本当に救い主だったら、真っ先にこいつの地位を奪ってやるのに。
ふつふつと沸いてくる怒りで腰を上げないでいたら、「抵抗するつもりか?」と冷ややかな声が降ってきた。
「抵抗するつもりなら、ローラントを使って引きずってでも連れていくがいいか?」
ローラントを引き合いに出すなんてずるい。あの人の手をわずらわせるなんて嫌だ。だから、仕方なく重い腰を上げる。でも、ウィルに従ったわけじゃない。
ウィルとのやり取りは、昨日から大して変わっていない。けれど、ミアさんの目からすれば、新鮮に映ったらしい。
「あ、あの、ウィル様?」ミアさんが遠慮がちにウィルを呼ぶ。
「何だ?」呼ばれた男の誰に対しても、そっけない態度は変わらない。
「救い主様に対して、その態度はいかがなものでしょうか?」
よくぞ言ってくれました。なんて激しく歓迎しつつ、ミアさんはもしかして、わたしが仮の救い主だということを知らないのでは、という考えが浮かんできた。
すごい同情的になってくれたし、全身がかゆくなるぐらいの丁寧さで接してくれた。偽者だとわかっていたら、そこまでしてくれない気がする。
ウィルは鋭い視線を瞼で閉ざして、長い息を流した。
「ミア。こいつは仮の救い主だ。偽者。何もできない。異世界から来ただけの一般人」
すごい言われようだけれど、すべて真実だから悔しい。ミアさんは仮の救い主の件を知らされていなかったようで、清みきった瞳を丸くさせた。
「偽者……どうして、そのような方を呼び出されたのですか」
「この神殿を維持するためには救い主が必要だ。信者はこういう存在を望んでいる」
「救い主なら、わざわざ異世界から呼び寄せなくても……」
わたしもそれは考えていた。どうして、わたしが選ばれたのだろう。救い主になれそうな人は他にいただろうに。ずっと聞きたかったことを、ミアさんがたずねてくれた。ウィルは悪い顔で笑う。
「救い主を信じさせるには、他の者にも降臨した場面を見せなければならない」
「それで、わざわざ、皆を呼び寄せて召喚を行ったのですか?」
「ああ」
そして、あの演技で救い主が降臨したことを印象づけたのだという。
「しかし、救い主様は……」
「用が済めば、こいつを元の世界に戻す」
「ですが」
「ミア、お前は自分の立場をわかっているのか? 誰がお前をそこまで生かしておいたと思う?」
「生かしておいた」だなんて大げさな。こちらの世界や神殿のことを知らないわたしでも、ウィルの言葉はミアさんの口を封じる切り札だとわかった。
案の定、ミアさんは唇を閉ざして、長いまつ毛を伏せた。ミアさんはがんばった。この男相手に良く粘ってくれた。
話は途切れ、ウィルの視線が傍観者だったわたしに注がれる。
「ついてこい」
ミアさんにも、わたしにも、ひどい態度で接してくる。誰がこの男なんかに権力を与えたのだろう。もし本当に救い主だったら、真っ先にこいつの地位を奪ってやるのに。
ふつふつと沸いてくる怒りで腰を上げないでいたら、「抵抗するつもりか?」と冷ややかな声が降ってきた。
「抵抗するつもりなら、ローラントを使って引きずってでも連れていくがいいか?」
ローラントを引き合いに出すなんてずるい。あの人の手をわずらわせるなんて嫌だ。だから、仕方なく重い腰を上げる。でも、ウィルに従ったわけじゃない。