槍とカチューシャ(51~100)
第99話『深い意味』
リーゼロッテ様との話し合いを終えて、自室へと戻ってきた。お屋敷が建って新しい部屋になっても、やっぱりエイダとは同室だ。使用人頭になっても変わらない。
彼女がまだ部屋に戻ってきていなくて良かった。団長さんからの手紙を読むときは静かなひとりの時がいい。
わたしはベッドの端に腰をかけた。団長さんを目の前にしているような気持ちで、手紙の封を開けた。
はじめは報告書のようにシャーレンブレンドの生活が記される。後半は騎士団の闘技大会の話題で、団長さんはエントリーしなかったらしい。大会で夏希が優勝したなんて、驚いた。
その調子で読み進んでいったら、手紙の文末に何の前触れもなく、『アイミ、愛している』なんて恥ずかしい言葉が目に飛びこんできた。
あの団長さんがどんな顔で、こんな恥ずかしい文字を書いたのだろう。きっと、すごい恐い顔をして、震える手を押し止めるのに大変だったのかもしれない。
団長さんの様子を想像すると、口元がゆるんでしまう。うっかり「会いたい」なんて、らしくない気持ちが溢れてくる。
浮かれる気持ちをどうにか落ち着かせようとしていると、エイダが帰ってきた。わたしは慌てて手紙を封筒に戻そうとしたけれど、間に合わなかった。
「ただいま~、あれ、マキ、どうしたの? また、団長さん?」
いらない想像でもしているのだろう。エイダはにやにやしだす。
「ま、まあね」
話題を変えたいと思っていたら、突然、エイダが「あっ」と何か気づいたように声をもらした。
「そういえば、マキ。あのリボン、してないね~」
「ああ、あれ、団長さんにあげちゃった」
ネイビー色のリボンは火事に遭うまで、ずっと大事に使っていた。だけど、団長さんが欲しいなんて言うから、あげてしまったのだ。
その場面を思い出して、軽く答えたつもりだったのに、エイダは目を見開いて驚く。
「マキ、あなたのことだから、もしかして知らないのかもしれないけど、女の子が男の子に自分の身につけているものをあげるって、深い意味があるんだよ」
「意味って」
「自分の半身を預けているみたいな。あなたとともにあるみたいなすっごい深い意味」
いやいやと首を横に振る。
「そんなつもりで渡してない」
「でも、団長さんはそういうつもりだったと思うけどな~、絶対」
本当にエイダの言う通りだとしたら、わたしは団長さんに自分の半身を預けたも同じ。しかも、指輪までもらったのだ。約束もした。これってまるで、恋人より深い感じがする。
婚約者としたほうがしっくりくるような、嫌な考えに襲われる。頭から振り払おうと首を横に振っても、なかなかすべてを消すことはできない。しかも嫌じゃないなんて、手紙のときのようにわたしらしくないのだ。
「なあんだ。まったくマキったら。進展がないように見せて、思いっきり進展しちゃってたのね」
エイダは他にもぶーぶー文句を垂れていたけれど、耳には入ってこない。結局、その日のわたしは、疲れているのに寝つきが悪かった。
リーゼロッテ様との話し合いを終えて、自室へと戻ってきた。お屋敷が建って新しい部屋になっても、やっぱりエイダとは同室だ。使用人頭になっても変わらない。
彼女がまだ部屋に戻ってきていなくて良かった。団長さんからの手紙を読むときは静かなひとりの時がいい。
わたしはベッドの端に腰をかけた。団長さんを目の前にしているような気持ちで、手紙の封を開けた。
はじめは報告書のようにシャーレンブレンドの生活が記される。後半は騎士団の闘技大会の話題で、団長さんはエントリーしなかったらしい。大会で夏希が優勝したなんて、驚いた。
その調子で読み進んでいったら、手紙の文末に何の前触れもなく、『アイミ、愛している』なんて恥ずかしい言葉が目に飛びこんできた。
あの団長さんがどんな顔で、こんな恥ずかしい文字を書いたのだろう。きっと、すごい恐い顔をして、震える手を押し止めるのに大変だったのかもしれない。
団長さんの様子を想像すると、口元がゆるんでしまう。うっかり「会いたい」なんて、らしくない気持ちが溢れてくる。
浮かれる気持ちをどうにか落ち着かせようとしていると、エイダが帰ってきた。わたしは慌てて手紙を封筒に戻そうとしたけれど、間に合わなかった。
「ただいま~、あれ、マキ、どうしたの? また、団長さん?」
いらない想像でもしているのだろう。エイダはにやにやしだす。
「ま、まあね」
話題を変えたいと思っていたら、突然、エイダが「あっ」と何か気づいたように声をもらした。
「そういえば、マキ。あのリボン、してないね~」
「ああ、あれ、団長さんにあげちゃった」
ネイビー色のリボンは火事に遭うまで、ずっと大事に使っていた。だけど、団長さんが欲しいなんて言うから、あげてしまったのだ。
その場面を思い出して、軽く答えたつもりだったのに、エイダは目を見開いて驚く。
「マキ、あなたのことだから、もしかして知らないのかもしれないけど、女の子が男の子に自分の身につけているものをあげるって、深い意味があるんだよ」
「意味って」
「自分の半身を預けているみたいな。あなたとともにあるみたいなすっごい深い意味」
いやいやと首を横に振る。
「そんなつもりで渡してない」
「でも、団長さんはそういうつもりだったと思うけどな~、絶対」
本当にエイダの言う通りだとしたら、わたしは団長さんに自分の半身を預けたも同じ。しかも、指輪までもらったのだ。約束もした。これってまるで、恋人より深い感じがする。
婚約者としたほうがしっくりくるような、嫌な考えに襲われる。頭から振り払おうと首を横に振っても、なかなかすべてを消すことはできない。しかも嫌じゃないなんて、手紙のときのようにわたしらしくないのだ。
「なあんだ。まったくマキったら。進展がないように見せて、思いっきり進展しちゃってたのね」
エイダは他にもぶーぶー文句を垂れていたけれど、耳には入ってこない。結局、その日のわたしは、疲れているのに寝つきが悪かった。