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槍とカチューシャ(51~100)

第98話『2年後』

 領主と使用人という枠をこえ、恐れ多くも友達というものになってから、気づけば、2年の月日が流れていた。この2年のメルビナ様は、ますます活躍の場を広げられた。

 まるで、過去に読んだお嬢様のサクセスストーリーのように、彼女は本当に目標を果たした。ガレーナに人を呼び、資金を集め、お屋敷を建てたのだ。

 もちろん、手紙のお方とのご結婚も正式に決まった。今年でメルビナ様は18歳。年齢的にもちょうど良かっただろう。

 ご結婚が決まったからには、周囲へのご挨拶も必要だ。そういったものはメルビナ様にお任せするとして。使用人はドレスやベールの用意など、やることは山ほどあった。

 エイダはここ最近、ドレスの直しや小物の手入れで忙しくしていた。わたしが手伝ってもいいのだけれど、エイダの目は厳しく、「ダメ~、そんなんじゃ」と指摘されることが多かった。

 結果、裁縫が得意な方々でやったほうが早い。いまいちなわたしに言い渡されたのは、リーゼロッテ様のサポートだった。

 リーゼロッテ様は式場での段取りや、お料理を決めたり、ほとんどすべてのことがらに関わっていた。わたしはその下について、彼女のサポートをするのみである。

 リーゼロッテ様と連日、話し合いが行われた。打ち合わせで、当日に出すお料理を決める。

 メルビナ様からはガレーナにちなんだものを出したいと、注文を受けていた。それを基に、グラスに花を浮かべたら綺麗だろうとか。あとは花を使ったデザートはどうかとか考える。

「ガレーナでは、昔から式後の会食では……」

 リーゼロッテ様の話の途中でノックがされた。断りを入れて、返事をすれば、使用人の子が入ってきた。

 何とも頼りない会釈して姿を見せた彼女は、1年前にやってきた新人だ。3つ編みを右と左の肩に垂らして、素朴な印象を受ける。新人教育係のわたしのことを「マキ様」と呼ぶのだ。

 様づけなんてはじめてで恥ずかしいのだけれど、呼ばれるたびにいちいち顔を熱くしていては、仕事にならない。慣れなくてはならない。リーゼロッテ様のように毅然とした態度でいるべきだ。

 わたしは落ち着いたふりをして、「どうしたの?」とたずねた。

「ま、マキ様へお手紙です」

「手紙……」

 受け取って手紙を確かめると、差出人は団長さんだった。「ありがとう」と使用人見習いの子に伝えると、彼女は仕事を無事に終えた安堵感か、ほっとしたように顔をゆるませた。

 団長さんらしい達筆な文字。ここのところ詰めていた緊張感が少しやわらいだ。

「手紙のお相手はあの騎士団のお方?」

「え、ええ、まあ」

「仲がよろしいのね。でも、今はこちらに集中いたしましょう」

 リーゼロッテ様から指摘されるなんて、恥ずかしすぎる。エイダにからかわれるよりも増して照れる。何とか「はい」と返した。
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Clap