槍とカチューシャ(51~100)
第91話『すべての真実』
「何を言っているの?」
お嬢様の疑問はもっともだと思う。こちらも理解が追いついていない。
「わたくしは旦那様を殺す前に直接、お聞きしなければなりませんでした。大奥様がお亡くなりになったあと、旦那様の部屋で瓶を見つけました。これを合わせても3本。どう見てもあの使用人ふたりが持っていた瓶と似ていました。毒入りスープの件まで、わたくしはこれが毒だとも思いませんでした。旦那様を信じていました」
それだけはわたしにも証言できる。リーゼロッテ様が毒の瓶を見せてくれたからだ。
ただ、瓶のかたちが似ているからといって、旦那様の瓶に毒が入っているとは言えない気がする。疑問を口にする前に、リーゼロッテ様の言葉が続いた。
「前日にあらかじめ、この瓶を旦那様の部屋から持ち出しました。これが毒であるか、確かめる方法はひとつでした。旦那様のグラスにこの小瓶の中身をたらしたのです。わたくしは旦那様がグラスに口をつけるまえに告白しました。この小瓶のものをグラスに注ぎました、と。そうしましたら、旦那様は『毒を盛ったのか』と憤慨し、グラスを割ったのです」
「嘘だ! メルビナ、こいつは人殺しだ!」
いきなり旦那様は立ち上がり、リーゼロッテ様を指差した。
この時にはわたしもわからなくなっていた。もし、毒が旦那様のものだとしたら、リーゼロッテ様が言っていたことが当てはまる。旦那様が生きている限り、お嬢様の命は保障されない。旦那様の手から毒が愛人や使用人に渡り、やがてお嬢様の命を奪う。リーゼロッテ様は旦那様と対峙した。
「ええ、わたくしは人殺しです。もう一息であなたを殺せましたわ。
ですが、旦那様。あなたは確かにご自分の手は汚していないのかもしれません。しかし、愛人に毒を渡したのはあなたです。あなたはお嬢様も殺そうとしました。ついには火を放ってまで」
「火は知らん! わたしはここまでやらせた覚えは……」
旦那様はついに口をすべらせたようだ。顔を上気させて、口をぱくぱくと開け閉めした。火は旦那様でないとすればいったい誰の仕業だろう。
「火はこいつが放ったのだと思う」
なぜか、ここで団長さんが登場した。かたわらには縄でぐるぐる巻きにされた人物を連れている。フードを被った人物はうつむいているため、表情は隠されているが、服の裾が焼けていた。
「屋敷から煙が上がって皆がそちらへと向かう中、こいつはガレーナから出ようとしていた。不審だと思ってな。捕まえたら、手のやけどを見て、すぐにわかった。こいつが犯人なんだと。だから、その辺に吊るしておいた」
吊るしておいたということに引っかかりはあったけれど、そこは触れないで流す。今はフードに隠された顔のほうが気になる。
「顔を見せてください」
わたしが言うと、団長さんの手がフードにかかり、隠していた顔を暴いた。痩せこけた頬に落ちくぼんだ目、瞳は濁っていてどこを見ているのかわからない。彼女は以前の姿を保っていなかった。お屋敷を出る前はガレーナの花に例えられるほど美しかったのに。もう見る影もなかった。
「何を言っているの?」
お嬢様の疑問はもっともだと思う。こちらも理解が追いついていない。
「わたくしは旦那様を殺す前に直接、お聞きしなければなりませんでした。大奥様がお亡くなりになったあと、旦那様の部屋で瓶を見つけました。これを合わせても3本。どう見てもあの使用人ふたりが持っていた瓶と似ていました。毒入りスープの件まで、わたくしはこれが毒だとも思いませんでした。旦那様を信じていました」
それだけはわたしにも証言できる。リーゼロッテ様が毒の瓶を見せてくれたからだ。
ただ、瓶のかたちが似ているからといって、旦那様の瓶に毒が入っているとは言えない気がする。疑問を口にする前に、リーゼロッテ様の言葉が続いた。
「前日にあらかじめ、この瓶を旦那様の部屋から持ち出しました。これが毒であるか、確かめる方法はひとつでした。旦那様のグラスにこの小瓶の中身をたらしたのです。わたくしは旦那様がグラスに口をつけるまえに告白しました。この小瓶のものをグラスに注ぎました、と。そうしましたら、旦那様は『毒を盛ったのか』と憤慨し、グラスを割ったのです」
「嘘だ! メルビナ、こいつは人殺しだ!」
いきなり旦那様は立ち上がり、リーゼロッテ様を指差した。
この時にはわたしもわからなくなっていた。もし、毒が旦那様のものだとしたら、リーゼロッテ様が言っていたことが当てはまる。旦那様が生きている限り、お嬢様の命は保障されない。旦那様の手から毒が愛人や使用人に渡り、やがてお嬢様の命を奪う。リーゼロッテ様は旦那様と対峙した。
「ええ、わたくしは人殺しです。もう一息であなたを殺せましたわ。
ですが、旦那様。あなたは確かにご自分の手は汚していないのかもしれません。しかし、愛人に毒を渡したのはあなたです。あなたはお嬢様も殺そうとしました。ついには火を放ってまで」
「火は知らん! わたしはここまでやらせた覚えは……」
旦那様はついに口をすべらせたようだ。顔を上気させて、口をぱくぱくと開け閉めした。火は旦那様でないとすればいったい誰の仕業だろう。
「火はこいつが放ったのだと思う」
なぜか、ここで団長さんが登場した。かたわらには縄でぐるぐる巻きにされた人物を連れている。フードを被った人物はうつむいているため、表情は隠されているが、服の裾が焼けていた。
「屋敷から煙が上がって皆がそちらへと向かう中、こいつはガレーナから出ようとしていた。不審だと思ってな。捕まえたら、手のやけどを見て、すぐにわかった。こいつが犯人なんだと。だから、その辺に吊るしておいた」
吊るしておいたということに引っかかりはあったけれど、そこは触れないで流す。今はフードに隠された顔のほうが気になる。
「顔を見せてください」
わたしが言うと、団長さんの手がフードにかかり、隠していた顔を暴いた。痩せこけた頬に落ちくぼんだ目、瞳は濁っていてどこを見ているのかわからない。彼女は以前の姿を保っていなかった。お屋敷を出る前はガレーナの花に例えられるほど美しかったのに。もう見る影もなかった。