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槍とカチューシャ(1~50)

第9話『騎乗』

 捕まった奴隷商人は、わたしたちを運ぶ際に使った馬車に乗せられた。夏希によると、この馬車も犯罪の証拠として必要らしい。そのため、シャーレンブレンドに向けて、先に出発した。

 騎士団の話し合いの結果、奴隷にされそうになった女の子たちは騎士の馬に乗せられることになった。第1団、第2団が出発して、わたしたちの番になった。そこまではいいのだけれど、「では、マキさんは団長と一緒にどうぞ」なんて爽やかに笑ってくる。

「えっ、嫌だけど」

 どうせなら騎士団のなかでも細身で格好いい人がいい。近くにいた、ひょろりと背の高い人を提案したら、夏希は「ご指名ですから」と変な言葉を返してきた。

 ――どういう意味?

 自分は金髪美女(わたしがはじめて手かせを外した子)と相乗りらしい。その子の手を取ったとき、顔にしまりがないように見えたのは、気のせいではないはずだ。

 さて、ジャックこと団長さんは、見れば見るほどにでかい。馬の助けもあってそびえ立つ山のようだ。

 台がなくても馬にまたがれるくらいの足の長さがうらやましい。とてもじゃないけれど、わたしの足では届かないのだ。どうしたものかなと思っていたら、団長さんは馬から降りて地面に立った。

 彼は何を言うでもなくわたしの背後に回ったかと思うと、脇の下から腕を差し入れて持ち上げる。まるで、わたしが荷物であるかのように馬の背にかけた。黒い毛並みに突っ伏す体勢は苦しい。

「ちょ、ムリ」

 自力では上がれないでいると、今度はお尻を押された。日本ならセクハラだ。痴漢といってもいい。しかし、ここは日本の法律とは違う別の世界らしく、団長さんが気にする様子もなかった。

 分厚い手がわたしの腕を取り、馬の首へと導かれる。首を掴めということだろう。どうにか、馬の首に腕を回し、限界まで足を広げて、何とかまたがることができた。

 背筋を伸ばしてみると、目線が高い。馬の高さも手伝って、ちょっと怖いかも。団長さんは軽々と馬にまたがると、わたしの背中にぴったりとついた。彼が手綱を持つと、ある意味、抱きこまれているような状態だ。これが細身のイケメンだったら最高に嬉しいのに、相手はひげ面のおじさんで悲しい。

 他の女の子たちも馬に乗せられた。うなるような低い声がわたしの耳元をかすめる。それは「行くぞ」と言ったのかもしれない。団長さんが手綱を引くと、馬は動き出した。
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Clap