槍とカチューシャ(51~100)
第83話『単身突撃』
お嬢様のお話によれば、リーゼロッテ様に直接、毒入りスープの件をお伝えしたらしい。
「だから、お付きをマキとエイダに変えてくれたのだと思ったわ。でも、マキは毒のことを知らなかったのでしょう?」
「何も聞かされていませんでした。つまり、リーゼロッテ様だけは毒が入れられていることを知っていらしたのですか?」
「ええ、もちろんよ」
違和感は大きく広がり続ける。リーゼロッテ様のすべての行動が矛盾していることがわかる。
わたしとエイダがお嬢様のお付きの使用人なったのは、リーゼロッテ様の力だ。事実、お嬢様から求められたわけじゃなかった。
そして、わたしがリーゼロッテ様に毒入りスープの話をしたとき、さもはじめて聞いたように振る舞っていた。
しかし、本当は以前から知っていたのだ。知っていて、犯人を告発しなかった。もっと早くお嬢様を助けられたはずなのに、わたしの報告を待って突撃した理由は何だろうか。本当はお嬢様を助けたくなかった?
深く思考に沈んでいたら、「マキ?」というお嬢様の声がわたしを浮上させた。
ここでお嬢様にリーゼロッテ様の疑惑をお伝えするわけにはいかない。お伝えするなら、リーゼロッテ様に直接確かめてからだ。そう思って、お嬢様には「いえ、何でもありません」と告げた。
お嬢様はあまり納得した様子ではなかったけれど、そのあとはいつものようにハーブを練りこんだお菓子を召し上がった。
風が出てきたところでお体に障ると判断し、お嬢様がご自身のお部屋に戻られたあと、わたしは通路を歩き出していた。
足早なのはリーゼロッテ様に突撃するためだ。こういうのは勢いが大事だから。それを教えてくれたのがリーゼロッテ様なんて、すごい皮肉だとは思う。
「マキ、どうしたの? 怖い顔をして」
前方からちょうど出くわしたのはエイダだった。今日はその手に手紙を持っていた。きっと、お嬢様の宛の手紙を届けに行くところだろう。足は止めたものの、目は行き先にいってしまう。
「ちょっと急いでるの」
「え、何かあるの?」
「ごめん、詳しい話は後で絶対にするから」
わたしの心だけで留めておくのは難しいことはわかっていた。エイダにも半分背負ってもらうと大分、楽になるのは経験済みだ。エイダも「わかったよ」と言ってくれるからわたしも甘えてしまうのだ。
「ありがと、エイダ」
「対決がんばってきてね」
対決するなんて言っていない。まだそうなるとは決まっていないし、実際はしたくはない。どれだけ怖い顔をしていたのだろう。けれど、エイダは誤解を抱えたまま、わたしの横を通り過ぎていった。
覚悟を持って、リーゼロッテ様の部屋の前に立つ。扉をノックする。返事を待って開ける。リーゼロッテ様は仏様のような安らかな顔でわたしを見てくる。それはすべていつもの流れだというのに、わたしは嘘臭く感じていた。
「マキ、何の用ですか?」
「リーゼロッテ様にお話があります」
声を落として話すと、さすがにリーゼロッテ様にも伝わるかもしれないと思った。
「どうやら良い話では無さそうですね」
机を挟んで椅子に座ったリーゼロッテ様と向かい合う。エイダが言うように、これを対決としてもいいのかもしれない。
お嬢様のお話によれば、リーゼロッテ様に直接、毒入りスープの件をお伝えしたらしい。
「だから、お付きをマキとエイダに変えてくれたのだと思ったわ。でも、マキは毒のことを知らなかったのでしょう?」
「何も聞かされていませんでした。つまり、リーゼロッテ様だけは毒が入れられていることを知っていらしたのですか?」
「ええ、もちろんよ」
違和感は大きく広がり続ける。リーゼロッテ様のすべての行動が矛盾していることがわかる。
わたしとエイダがお嬢様のお付きの使用人なったのは、リーゼロッテ様の力だ。事実、お嬢様から求められたわけじゃなかった。
そして、わたしがリーゼロッテ様に毒入りスープの話をしたとき、さもはじめて聞いたように振る舞っていた。
しかし、本当は以前から知っていたのだ。知っていて、犯人を告発しなかった。もっと早くお嬢様を助けられたはずなのに、わたしの報告を待って突撃した理由は何だろうか。本当はお嬢様を助けたくなかった?
深く思考に沈んでいたら、「マキ?」というお嬢様の声がわたしを浮上させた。
ここでお嬢様にリーゼロッテ様の疑惑をお伝えするわけにはいかない。お伝えするなら、リーゼロッテ様に直接確かめてからだ。そう思って、お嬢様には「いえ、何でもありません」と告げた。
お嬢様はあまり納得した様子ではなかったけれど、そのあとはいつものようにハーブを練りこんだお菓子を召し上がった。
風が出てきたところでお体に障ると判断し、お嬢様がご自身のお部屋に戻られたあと、わたしは通路を歩き出していた。
足早なのはリーゼロッテ様に突撃するためだ。こういうのは勢いが大事だから。それを教えてくれたのがリーゼロッテ様なんて、すごい皮肉だとは思う。
「マキ、どうしたの? 怖い顔をして」
前方からちょうど出くわしたのはエイダだった。今日はその手に手紙を持っていた。きっと、お嬢様の宛の手紙を届けに行くところだろう。足は止めたものの、目は行き先にいってしまう。
「ちょっと急いでるの」
「え、何かあるの?」
「ごめん、詳しい話は後で絶対にするから」
わたしの心だけで留めておくのは難しいことはわかっていた。エイダにも半分背負ってもらうと大分、楽になるのは経験済みだ。エイダも「わかったよ」と言ってくれるからわたしも甘えてしまうのだ。
「ありがと、エイダ」
「対決がんばってきてね」
対決するなんて言っていない。まだそうなるとは決まっていないし、実際はしたくはない。どれだけ怖い顔をしていたのだろう。けれど、エイダは誤解を抱えたまま、わたしの横を通り過ぎていった。
覚悟を持って、リーゼロッテ様の部屋の前に立つ。扉をノックする。返事を待って開ける。リーゼロッテ様は仏様のような安らかな顔でわたしを見てくる。それはすべていつもの流れだというのに、わたしは嘘臭く感じていた。
「マキ、何の用ですか?」
「リーゼロッテ様にお話があります」
声を落として話すと、さすがにリーゼロッテ様にも伝わるかもしれないと思った。
「どうやら良い話では無さそうですね」
机を挟んで椅子に座ったリーゼロッテ様と向かい合う。エイダが言うように、これを対決としてもいいのかもしれない。