槍とカチューシャ(51~100)
第81話『大切な人』
お嬢様が出かけられるようになってから、わたしとエイダの身なりも小綺麗にしないといけなくなった。
下級使用人のときは週一だったお風呂が、お嬢様付きの使用人になってからは2日に1度になっている。
綺麗になることはいいけれど、お風呂に入るまでの準備が大変なのだ。
とりあえず、エイダと協力して、暖炉の前のバスタブにお湯を入れる。海外の映画では、四つ足のバスタブがよく出てくるけれど、ガレーナでも足がついていた。
そんなおしゃれなバスタブに繰り返しお湯を入れて、どうにか、お風呂ができあがる。
エイダと一緒に向かい合って浸かる。お湯をすくって肩に流しかけていたのだけれど、前方から「ふふ」と妙な笑い声が聞こえてきた。エイダはニヤニヤしていた。
「何なの?」
「別に」
「どう見ても『別に』って顔じゃないけど」
ニヤニヤし続けているのも気になる。わたしが指摘すると、エイダは「ごめん、ごめん」と笑いながら謝った。
「わたしに2つ上のお姉ちゃんがいるんだけどね、恋多き人で。近くでそういうの見てたら、わかるんだよね。好きな人ができたときの雰囲気とか。もしかしたら、マキ、好きな人と会うんじゃないかなあって。ため息、いっぱい吐いているし」
残念ながら、エイダが言うような好きな人ではない。それでも、人と会うのは間違っていなかった。
エイダには隠していたけれど、昨日、団長さんから手紙が来た。貴重な休みを利用してシャーレンブレンドから2日ぐらいかけて、ガレーナまでやってくるというのだ。
会うのは久々だから、そわそわしているように見えたのかもしれない。ここはちゃんと誤解を解こうと思った。
「確かに人と会うけど、好きな人ではないよ」
「えー、本当に?」
「うん、本当」
団長さんはわたしに告白してくれたけれど、どうしても受け入れられなかった。だから、わたしと団長さんの関係はまるで変わらない。
「おかしいなぁ。わたしの勘は結構、当たるのに」
エイダは首を傾げている。湿気を含んだ髪はいつもよりくるくるしていた。
「好きな人ではないけど、大事な人には変わりないかも」
「大事な人?」
「うん。わたしを助けてくれた人だから」
異世界に来て、奴隷になりかけたわたしを助けてくれた。乱暴な扱いを受けたときは「この野郎」と思った。だけど、だんだんシャーレンブレンドで過ごすうちに変わった。団長さんと会話することが楽しく、こうやって離れるのが淋しく感じるようにもなっていた。
「やっぱり、好きなんじゃないの?」
「好きじゃないから」
しつこいエイダに否定するのも嫌になってきた。「好きじゃない」と言うたびに胸の辺りがもやもやしてくる。まるで嘘をついているような気がしてくるのだ。
「本当に?」
もう否定したくない。このままだと話は終わらない気がして、たまらずわたしは腰を上げた。「もう、出る」とだけ告げたら、「ちょっと待ってよ~」と言ってきた。わたしは怒っている振りをして無視した。
お嬢様が出かけられるようになってから、わたしとエイダの身なりも小綺麗にしないといけなくなった。
下級使用人のときは週一だったお風呂が、お嬢様付きの使用人になってからは2日に1度になっている。
綺麗になることはいいけれど、お風呂に入るまでの準備が大変なのだ。
とりあえず、エイダと協力して、暖炉の前のバスタブにお湯を入れる。海外の映画では、四つ足のバスタブがよく出てくるけれど、ガレーナでも足がついていた。
そんなおしゃれなバスタブに繰り返しお湯を入れて、どうにか、お風呂ができあがる。
エイダと一緒に向かい合って浸かる。お湯をすくって肩に流しかけていたのだけれど、前方から「ふふ」と妙な笑い声が聞こえてきた。エイダはニヤニヤしていた。
「何なの?」
「別に」
「どう見ても『別に』って顔じゃないけど」
ニヤニヤし続けているのも気になる。わたしが指摘すると、エイダは「ごめん、ごめん」と笑いながら謝った。
「わたしに2つ上のお姉ちゃんがいるんだけどね、恋多き人で。近くでそういうの見てたら、わかるんだよね。好きな人ができたときの雰囲気とか。もしかしたら、マキ、好きな人と会うんじゃないかなあって。ため息、いっぱい吐いているし」
残念ながら、エイダが言うような好きな人ではない。それでも、人と会うのは間違っていなかった。
エイダには隠していたけれど、昨日、団長さんから手紙が来た。貴重な休みを利用してシャーレンブレンドから2日ぐらいかけて、ガレーナまでやってくるというのだ。
会うのは久々だから、そわそわしているように見えたのかもしれない。ここはちゃんと誤解を解こうと思った。
「確かに人と会うけど、好きな人ではないよ」
「えー、本当に?」
「うん、本当」
団長さんはわたしに告白してくれたけれど、どうしても受け入れられなかった。だから、わたしと団長さんの関係はまるで変わらない。
「おかしいなぁ。わたしの勘は結構、当たるのに」
エイダは首を傾げている。湿気を含んだ髪はいつもよりくるくるしていた。
「好きな人ではないけど、大事な人には変わりないかも」
「大事な人?」
「うん。わたしを助けてくれた人だから」
異世界に来て、奴隷になりかけたわたしを助けてくれた。乱暴な扱いを受けたときは「この野郎」と思った。だけど、だんだんシャーレンブレンドで過ごすうちに変わった。団長さんと会話することが楽しく、こうやって離れるのが淋しく感じるようにもなっていた。
「やっぱり、好きなんじゃないの?」
「好きじゃないから」
しつこいエイダに否定するのも嫌になってきた。「好きじゃない」と言うたびに胸の辺りがもやもやしてくる。まるで嘘をついているような気がしてくるのだ。
「本当に?」
もう否定したくない。このままだと話は終わらない気がして、たまらずわたしは腰を上げた。「もう、出る」とだけ告げたら、「ちょっと待ってよ~」と言ってきた。わたしは怒っている振りをして無視した。