槍とカチューシャ(51~100)
第78話『重い話』
1日の仕事を終えて部屋に戻ると、ナイトドレスに着替えたエイダが待ち構えていた。もう話を聞く気満々で、好奇心丸出しの目が輝いていた。わたしの場合、感情が顔に出るとしたら、エイダは全身からあふれている気がする。
「ね、話してよ」
「楽しい話じゃないよ。むしろ、重くて嫌になるかも」
「ふふ、そんなのわかってるよ。マキの顔を見ていたらそうかもって。だから、話して。重い話ならますますわたしに話してよ」
悩むことを知らないエイダの笑顔を見ていると、不思議とわたしまで笑いたくなってしまう。
思えば、ガレーナに来てはじめて顔を合わせたとき、「あなた異世界人?」と遠慮なく聞かれたのだ。日本人特有の茶色い瞳も、黄色の肌も「めずらしいね」のひとことだったと思う。それからは、まるで異世界人であることを感じさせないでくれた。エイダに感謝している。
「わかった、話すよ」
いくらか緊張が解けた口で、お嬢様が命を狙われていたという話をした。毒入りスープの話をしたとき、エイダは口元を両手で押さえて驚いていた。瞳もこぼれ落ちそうなくらい見開いている。
「それ、お嬢様から聞いたの?」
「うん」
「ということは、それって、お嬢様を殺そうとした犯人がいるってことよね」
エイダは瞳を上に向けて鋭い言葉を投げかけてきた。
「たぶん」
お嬢様の前で犯人の話題は出せなかった。けれど、エイダの言葉は正しい。確かに犯人がいるのだ。
「その犯人って、もしかしたらだけど、あの人たち?」
わたしはこれまであえて想像しなかった。食事に手を加えられるのは、前の使用人たちしかいないと思うからだ。しかし、使用人が誰かの命令なく、行動を起こすことはないだろう。エイダも想像したのかもしれない。
「お嬢様と奥様って仲良さそうじゃないよね」
エイダの言うように奥様がお嬢様を見舞ったり、気づかったりする場面を見たことがない。怒ったり嫌味を言ったりもなく、ただ接点を持たないようにしているようにも思える。
「毒なんてわかんないなぁ」
わたしも信じられなかったけれど、お嬢様の告白に嘘はないと感じた。エイダにもそのことを教えると、「わたしも信じるよ」と力強く答えてくれた。
「だけど、この話どうするの? そのままにしておくわけにはいかないよね。リーゼロッテ様は知ってらっしゃるのかな?」
「あ、そっか」
何でこんなことを思いつかなかったのだろう。使用人のトップに報告すればいいのだ。わたしなんかより、どう対処すればいいかわかっているだろうし。
「リーゼロッテ様に話せば、どうすればいいかわかるかも」
わたしが言うと、エイダは「さっそく明日突撃してみる?」と首を傾げた。
「そのつもり」
どうなるかわからないけれど、リーゼロッテ様に話せば、すべてが動きそうな気がした。
1日の仕事を終えて部屋に戻ると、ナイトドレスに着替えたエイダが待ち構えていた。もう話を聞く気満々で、好奇心丸出しの目が輝いていた。わたしの場合、感情が顔に出るとしたら、エイダは全身からあふれている気がする。
「ね、話してよ」
「楽しい話じゃないよ。むしろ、重くて嫌になるかも」
「ふふ、そんなのわかってるよ。マキの顔を見ていたらそうかもって。だから、話して。重い話ならますますわたしに話してよ」
悩むことを知らないエイダの笑顔を見ていると、不思議とわたしまで笑いたくなってしまう。
思えば、ガレーナに来てはじめて顔を合わせたとき、「あなた異世界人?」と遠慮なく聞かれたのだ。日本人特有の茶色い瞳も、黄色の肌も「めずらしいね」のひとことだったと思う。それからは、まるで異世界人であることを感じさせないでくれた。エイダに感謝している。
「わかった、話すよ」
いくらか緊張が解けた口で、お嬢様が命を狙われていたという話をした。毒入りスープの話をしたとき、エイダは口元を両手で押さえて驚いていた。瞳もこぼれ落ちそうなくらい見開いている。
「それ、お嬢様から聞いたの?」
「うん」
「ということは、それって、お嬢様を殺そうとした犯人がいるってことよね」
エイダは瞳を上に向けて鋭い言葉を投げかけてきた。
「たぶん」
お嬢様の前で犯人の話題は出せなかった。けれど、エイダの言葉は正しい。確かに犯人がいるのだ。
「その犯人って、もしかしたらだけど、あの人たち?」
わたしはこれまであえて想像しなかった。食事に手を加えられるのは、前の使用人たちしかいないと思うからだ。しかし、使用人が誰かの命令なく、行動を起こすことはないだろう。エイダも想像したのかもしれない。
「お嬢様と奥様って仲良さそうじゃないよね」
エイダの言うように奥様がお嬢様を見舞ったり、気づかったりする場面を見たことがない。怒ったり嫌味を言ったりもなく、ただ接点を持たないようにしているようにも思える。
「毒なんてわかんないなぁ」
わたしも信じられなかったけれど、お嬢様の告白に嘘はないと感じた。エイダにもそのことを教えると、「わたしも信じるよ」と力強く答えてくれた。
「だけど、この話どうするの? そのままにしておくわけにはいかないよね。リーゼロッテ様は知ってらっしゃるのかな?」
「あ、そっか」
何でこんなことを思いつかなかったのだろう。使用人のトップに報告すればいいのだ。わたしなんかより、どう対処すればいいかわかっているだろうし。
「リーゼロッテ様に話せば、どうすればいいかわかるかも」
わたしが言うと、エイダは「さっそく明日突撃してみる?」と首を傾げた。
「そのつもり」
どうなるかわからないけれど、リーゼロッテ様に話せば、すべてが動きそうな気がした。