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槍とカチューシャ(51~100)

第77話『顔に出ている』

 「少し休むわ」とお嬢様がおっしゃったので、わたしは重い気持ちを抱えたまま、部屋から失礼した。お嬢様の思いがけない告白を聞いてしまった現在、心と一緒で足取りも重い。

 なぜ、あんなことをたずねてしまったのだろう。何の覚悟もなく聞いたのだろう。バカにも程がある。

 窓の開いた通路は、花畑から吹いてくる甘ったるい空気で満ちている。これだけ畑に近いと、たまにガレーナ蜂が迷いこんで大騒ぎになるときがあるのだけれど、それも慣れてしまった。

 ガレーナに来てから、逃げ出したいくらい嫌なことは、風景に溶けこむことで解消してきた。自分がその一部になると、悩みなんてちっぽけに感じるのだ。

 だけど、どう考えても解消できそうにない。深呼吸で外に出すにしても重すぎて苦しい。お嬢様がずっと、ひとりで抱えてきたものをわたしなんかが肩代わりできるわけがない。ただ途方にくれるだけ。くれても何の意味も持たない時間が過ぎていく。

「マキ!」

 通路で立ち尽くしていたら、見慣れたふわふわ頭がジャンプしてきた。お嬢様のドレスを持ったエイダだ。このはちみつ色のドレスはお散歩用で、裾がほつれていたところを直したものだ。きっと、裁縫室から洋服部屋へと移すところなのだろう。

「エイダ、手伝おうか?」

 エイダは他にもドレスに合わせた小物(靴やリボン)も持っていた。

「ありがとう」

 小物を受け取り、ふたり並んで歩く。ドレスのほうが明らかにかさばって持ちにくいのに、足取りはわたしより軽やかだった。追いつこうと思っても、足がついていかない。わたしが立ち止まるから、たびたび後ろを振り返ったエイダにも心配させてしまったらしい。

「マキ、どうしたの? お嬢様に何かあった?」

「どうしてわかっちゃうの?」

 エイダには何でバレてしまうのか。

「マキってね、結構、顔に出るよ」

「そ、そう?」

 使用人としては失格じゃないかと思いながらも、そういえば、お嬢様にも「顔に出ている」と言われた気がする。本当にダメだ。

「で、何があったの、教えてくれる?」

 首を傾げたエイダに聞かれてしまうと、無視するわけにはいかなくなった。エイダなら、話を聞いても誰かに教えたりはしないだろう。


「ここでは言えないから、あとで」

 誰が聞いているかもわからないし。その気持ちを察してくれたのか、エイダも「いいよ~」と、とりあえずは納得してくれた。
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Clap