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槍とカチューシャ(1~50)

第47話『悩み』

 食堂で受け取ったレモネード入りの瓶とサンドイッチを中庭のベンチの真ん中に置いて、団長さんと座った。

 この木製のベンチに座っていると、窓を透してではない、あたたかな日差しが包みこんでくれる。日向ぼっこをすれば、体調のよくない状態のわたしでも、うっかり眠れてしまうかもしれない。

 ぼーっと木々の間を眺めていたら、「アイミ」と呼ばれて反射的に右横に顔を向ける。伸ばされた大きな手がわたしの頬を包みこんだ。

 頬を撫でる団長さんの手は分厚くてゴツゴツしている。やっぱり騎士団ともなると、傷やマメも多くある。でも、このでこぼこに触れるのは嫌じゃなかった。嫌ならとっくに親指に噛みついてるところだ。団長さんの顔を眺めていたら、眉間に深いしわが刻みこまれた。

「お前、やつれたな」

「そうですか?」

 顔がやつれた理由はわかっている。けれど、気づかないふりをした。団長さんには心配されたくなかった。せっかくのお茶会だし、きっと、わたし以外どうにもできないことだろうから。

 うまく話をすり替えられないかと考えつく前に、「夏希から大体の話は聞いている」と、さえぎられた。団長さんには絶対に話さないでと言っておいたのに、夏希はバラしたらしい。あの団長好きな異世界人め。団長さんの手から逃れるように顔をそむけた。

「大丈夫です。問題ないですから」

「嘘をつくな。フィナがいなくなって淋しいのだろう?」

 強気でいようと思ったのに、直接、フィナの名前を聞くと、隠せない気持ちがあふれてきそうになる。かろうじて堪えてきたものを団長さんは簡単につっついてくるのだから。デリカシーがない団長さんに対して怒りがわいてきた。

 ――そんなに聞きたいなら聞いてもらおうじゃない。

「淋しいに決まってます。フィナは友達だったし、ひとりの部屋ってすっごく寒いんですよ。静かだし、暗いことばかり考えちゃうし。いない人の名前を呼んだときの淋しさ……わかります? それに、眠れない夜に、団長さんからもらったお菓子もひとりで食べると、太っちゃって最悪です」

 お腹に触れると服の上からでも脂肪が増えたのがわかる。それもまた、悩みの1つになっている。

「そんなに淋しいなら俺と一緒に住むか?」

 団長さんはお茶を誘うときよりも簡単に言いのけた。このときばかりは、レモネードを含んでいなくて助かった。
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Clap