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槍とカチューシャ(1~50)

第44話『ひとりの部屋』

 あのときは笑顔で送り出せたものの、淋しさというのは後からやってくるものだと実感した。

 フィナがいなくなってからのこの部屋は、広くて寒々しい。昼間はまだやることがあるから大丈夫だけれど、夜になるとやばい。

 フィナがいるような気がして、「ね、フィナ」とか声をかけてしまったときにはもう、アホらしくて泣きたくなった。泣いたらますます淋しさを感じるから泣かない。絶対に。

 これだけ弱い自分を見つけてしまうと、フィナがいたから異世界でも生きてこれたのだと思う。わたしが世話をしているようでいて、逆に世話をしてもらっていたのかもしれない。だって、フィナがいないだけで、こんなにも淋しいのだ。

 「マキさん、大丈夫ですか?」と夏希にも度々心配された。メイドのジルさんにも体が休まるようなおいしいハーブティーをいれてもらった。

 それでも申し訳ないことに効果はなく、ここ最近はあんまり眠れなくて顔に出ていると思う。

 これから団長さんとお茶する予定だけれど、大丈夫だろうか。変に心配されても困る。瞼の下辺りをマッサージして、約束の場所へと向かう。

 案内がなくても団長室には行けるようになっていた。一度、訓練場まで迎えに行ったら「お前が来る場所ではない」と叱られてしまった。ちょうど、そのときは剣を使った訓練だったみたいで、一般人には危なかったのだろう。

 それでも、団長さんの言葉はきつすぎる。「きみを危ない目に合わせたくない」とか、アーヴィングさんが乗り移ったように言えば、すんなり聞き入れるのに(まったく似合わないが)。

 でも、わたしには言葉はなくとも何となく団長さんの心配がわかった。団長さんは夏希にわたしのことを報告させているみたいだし、過保護な親のようだ。その心配がわかったから、それからは団長室で待たせてもらうようにしている。

 世話係の人にドアを開けてもらい、部屋のなかに踏み入れると、いつもの椅子に団長さんの姿があった。あったものの、何かがおかしい。

「あれ、団長さん?」

「お休みになっているご様子です」

 確かにいつもは見られない頭のてっぺんが見えた。意外と静かな寝息を立てているのが微笑ましい。声をひそめて「邪魔しては悪いですよね」と聞くと、世話係の人は笑顔で首を振った。

「ここでマキ様がお帰りになれば、ご主人様も悲しまれることでしょう。それに、わたしはしばらくここを離れなくてはならないゆえ、ご主人様のことをよろしくお願いいたします。それでは失礼いたします」

「え? え!」

 「ちょっと待って」と引き止める前に、ドアが閉められてしまった。世話係が仕事放棄とかありえるのだろうか。

 団長室でまさかのふたりきり。椅子からは相変わらず、安らかな寝息が聞こえてくる。

 考えてみれば、このまま帰ったりしたら、団長さんの不機嫌が発動するかもしれない。以前の「妻にする」発言はうやむやになったものの、面倒なことは避けたい。諦める方向しかないか。

 仕方ないなあと、わたしは団長さんに近づいた。
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Clap