槍とカチューシャ(1~50)
第43話『別れの日』
この3日間は本当に笑った。フィナの前で涙を見せたり、弱音をこぼしたくはなかったから、何かにつけて笑った。
フィナの触覚のように跳ねたひどい寝癖も、食いこぼしをつけたわたしの口元も、お互いに指を示して大笑いした。フィナと一緒だったら、目に入るすべてが面白かった。
でも、さすがに3日目の夜は違った。ベッドに横たわったときに、テンションは急激に落ちた。
こうして、ふたりで両側のベッドに寝るのも、「おやすみ」と言い合うのも最後だ。明日になれば、フィナは部屋からいなくなってしまう。わたしはひとりで寝ることになる。しばらくは会えなくなるだろう。
ろうそくの明かりを消した部屋の天井は薄暗くて、見つめていると吸いこまれてしまいそうだ。明日からずっとこの天井を、ひとりで眺めていなくてはならない。簡単には明日にしたくない。眠りたくなかった。
「マキ、寝ちゃった?」
「まだ、寝てないよ。しばらくは眠るつもりないし」
小さな笑い声とともに、隣から衣類が擦れるような音がする。きっと、フィナが寝返りをうったのかもしれない。わたしも体を横にして暗闇に慣れつつある目でフィナを探した。薄らとだけど、彼女の顔がわたしに向けられているのがわかった。
「わたし、ずっとね、向こうの世界では友達ができなかったの」
そんな話をされたのははじめてだった。フィナはあまり向こうの世界の話をしたがらなかったし、わたしも話したことはなかった。
「こんな性格だから、人に話しかけてもうまく言葉にできなくて、いっぱい笑われた。それから、怖くなって話しかけたりできなくなったの。
うちにはね、ブルーズっていうわんこがいたの。彼がわたしの唯一の友達だった。彼はわたしがうまく言葉にできなくても笑ったりしないから。
マキもだよ。わたしの言葉を待ってくれた。マキが友達になってくれて嬉しかった」
「わたしもフィナと友達になれて良かったよ」
泣くつもりなんてなかった。でも、目頭が熱い。瞼を開けていられなかった。あふれる涙を受け止めきれずに頬の上をこぼれていくのがわかる。その涙が、かろうじて抑えていた感情をあふれさせた。
「フィナがいなくなったら淋しい」
こんなに自分が小さくて情けない人間だとは思わなかった。淋しいだなんて、フィナを困らせるようなことを言ってしまう自分勝手な人間だった。
「わたしも、淋しいよ」
フィナの声が震えていた。しゃくりあげる声を聞いたら、わたしも泣き声をこらえきれない。もうこうなってしまえば、お互いにベッドを抜け出し、お互いを抱き締めて大泣きした。
友達と離れるということで泣いたのははじめてだ。自分の卒業式ですら、泣く友達をなぐさめているほうだった。それなのに、フィナのためなら泣ける。たぶん、人生のなかでめいいっぱい泣いている。
「ざびじい」ともう言葉になってないわたし。「うん」とただうなずいてくれるフィナ。
こんな感じで一晩中、泣きまくったわたしたちは、翌日、お互いに腫れぼったい顔をしていた。それでも、すべての感情をさらけだしたおかげか、「またね」と笑顔を作れた。握手もした。こうして、フィナは部屋を出ていった。
この3日間は本当に笑った。フィナの前で涙を見せたり、弱音をこぼしたくはなかったから、何かにつけて笑った。
フィナの触覚のように跳ねたひどい寝癖も、食いこぼしをつけたわたしの口元も、お互いに指を示して大笑いした。フィナと一緒だったら、目に入るすべてが面白かった。
でも、さすがに3日目の夜は違った。ベッドに横たわったときに、テンションは急激に落ちた。
こうして、ふたりで両側のベッドに寝るのも、「おやすみ」と言い合うのも最後だ。明日になれば、フィナは部屋からいなくなってしまう。わたしはひとりで寝ることになる。しばらくは会えなくなるだろう。
ろうそくの明かりを消した部屋の天井は薄暗くて、見つめていると吸いこまれてしまいそうだ。明日からずっとこの天井を、ひとりで眺めていなくてはならない。簡単には明日にしたくない。眠りたくなかった。
「マキ、寝ちゃった?」
「まだ、寝てないよ。しばらくは眠るつもりないし」
小さな笑い声とともに、隣から衣類が擦れるような音がする。きっと、フィナが寝返りをうったのかもしれない。わたしも体を横にして暗闇に慣れつつある目でフィナを探した。薄らとだけど、彼女の顔がわたしに向けられているのがわかった。
「わたし、ずっとね、向こうの世界では友達ができなかったの」
そんな話をされたのははじめてだった。フィナはあまり向こうの世界の話をしたがらなかったし、わたしも話したことはなかった。
「こんな性格だから、人に話しかけてもうまく言葉にできなくて、いっぱい笑われた。それから、怖くなって話しかけたりできなくなったの。
うちにはね、ブルーズっていうわんこがいたの。彼がわたしの唯一の友達だった。彼はわたしがうまく言葉にできなくても笑ったりしないから。
マキもだよ。わたしの言葉を待ってくれた。マキが友達になってくれて嬉しかった」
「わたしもフィナと友達になれて良かったよ」
泣くつもりなんてなかった。でも、目頭が熱い。瞼を開けていられなかった。あふれる涙を受け止めきれずに頬の上をこぼれていくのがわかる。その涙が、かろうじて抑えていた感情をあふれさせた。
「フィナがいなくなったら淋しい」
こんなに自分が小さくて情けない人間だとは思わなかった。淋しいだなんて、フィナを困らせるようなことを言ってしまう自分勝手な人間だった。
「わたしも、淋しいよ」
フィナの声が震えていた。しゃくりあげる声を聞いたら、わたしも泣き声をこらえきれない。もうこうなってしまえば、お互いにベッドを抜け出し、お互いを抱き締めて大泣きした。
友達と離れるということで泣いたのははじめてだ。自分の卒業式ですら、泣く友達をなぐさめているほうだった。それなのに、フィナのためなら泣ける。たぶん、人生のなかでめいいっぱい泣いている。
「ざびじい」ともう言葉になってないわたし。「うん」とただうなずいてくれるフィナ。
こんな感じで一晩中、泣きまくったわたしたちは、翌日、お互いに腫れぼったい顔をしていた。それでも、すべての感情をさらけだしたおかげか、「またね」と笑顔を作れた。握手もした。こうして、フィナは部屋を出ていった。