槍とカチューシャ(1~50)
第31話『恋するリータ』
アーヴィングさんは団長さんのように強く引っ張る方法は取らなかった。女性の扱いに慣れているらしく、手を優しく握って自分の方へと引く。強引ではなかったので、わたしも抵抗することなく、彼に1歩近づいた。
「一緒に来ていただけるかな」
耳元で甘く低い声で誘ってくれる。甘すぎる声に、わたしひとりでは舞い上がってヘマをしてしまいそうだ。
そのため、フィナも一緒にどうかなと思ったけれど、彼女は「わたし、ここ待ってる」と距離を取った。通路の端まで逃げこんでしまい、大分、アーヴィングさんを警戒しているらしい。仕方ない。ひとりでこのイケメンに立ち向かうか。
「わかりました、行きます」
その場から歩き出すと、すぐに彼の気づかいに触れて嬉しくなった。アーヴィングさんの足は長いにも関わらず、わたしの歩幅に合わせて歩いてくれる。
アーヴィングさんの横顔を見上げると、視線が合った。にこっと微笑まれて、わたしの頬が熱くなる。話すことが簡単には見つからず、「あ、あの、どこへ?」と聞くしかなかった。
しかし、アーヴィングさんは人差し指を唇に寄せる。「秘密」とでも言いたそうだ。仕草のいちいちが格好つけているように見えるけれど、アーヴィングさんだから許される気がする。
「わ、わかりました」
上ずった声で応えるしかできない自分が、本当に恥ずかしい。恥を重ねる勇気もないまま、黙ってアーヴィングさんの隣を歩いた。通路の前方からリータとエリミアが歩いてきた。これから部屋に戻るところだろう。
リータはイタリア系の女子で、栗色の長い髪の毛を肩まで流し、日焼けした肌をさらしている。胸やお尻の出るとこは出ているし、引っこむとこは引っこんでいる。女性としてうらやむほどの素晴らしい体型である。
エリミアは定かではないけれど、アラブ系の人だと思う。肌を見せたがらず、肉を口にしないし、神様に祈る仕草をよく見かける。そんなふたり(多くはリータ)が騒いでいるのだ。
でも、アーヴィングさんを見つけると、騒ぎは一気に失せた。リータの瞳が一点に固定された。いつもはおしゃべりな口が半開きになっている。アーヴィングさんが足を止めると、彼女はますます目を見開いた。
「やあ、リータ、エリミア。元気そうだね」
アーヴィングさんが声をかけると、明らかにリータの頬が赤く染まった。あ、これはもう完全に、彼女の気持ちがアーヴィングさんに傾いていることがわかる。エリミアまで頬を手のひらで押さえた。
「は、はい!」
リータが跳ねるように元気よく答えると、アーヴィングさんがまた素敵な笑顔を浮かべた。そのせいで、リータは頬を赤らめる。隣にいるわたしの存在は忘れられているようだ。しかし、そう感じた頃にアーヴィングさんは絶妙なタイミングで「行こうか」と先を促した。
彼が歩き出すと、当然、わたしも追いかけなければならない。無の存在だったわたしに突然、視線が移る。リータの視線は体に突き刺さるくらいとても鋭角で痛かった。恋する女の子はわたしみたいな女を相手でも嫉妬するらしい。
アーヴィングさんは団長さんのように強く引っ張る方法は取らなかった。女性の扱いに慣れているらしく、手を優しく握って自分の方へと引く。強引ではなかったので、わたしも抵抗することなく、彼に1歩近づいた。
「一緒に来ていただけるかな」
耳元で甘く低い声で誘ってくれる。甘すぎる声に、わたしひとりでは舞い上がってヘマをしてしまいそうだ。
そのため、フィナも一緒にどうかなと思ったけれど、彼女は「わたし、ここ待ってる」と距離を取った。通路の端まで逃げこんでしまい、大分、アーヴィングさんを警戒しているらしい。仕方ない。ひとりでこのイケメンに立ち向かうか。
「わかりました、行きます」
その場から歩き出すと、すぐに彼の気づかいに触れて嬉しくなった。アーヴィングさんの足は長いにも関わらず、わたしの歩幅に合わせて歩いてくれる。
アーヴィングさんの横顔を見上げると、視線が合った。にこっと微笑まれて、わたしの頬が熱くなる。話すことが簡単には見つからず、「あ、あの、どこへ?」と聞くしかなかった。
しかし、アーヴィングさんは人差し指を唇に寄せる。「秘密」とでも言いたそうだ。仕草のいちいちが格好つけているように見えるけれど、アーヴィングさんだから許される気がする。
「わ、わかりました」
上ずった声で応えるしかできない自分が、本当に恥ずかしい。恥を重ねる勇気もないまま、黙ってアーヴィングさんの隣を歩いた。通路の前方からリータとエリミアが歩いてきた。これから部屋に戻るところだろう。
リータはイタリア系の女子で、栗色の長い髪の毛を肩まで流し、日焼けした肌をさらしている。胸やお尻の出るとこは出ているし、引っこむとこは引っこんでいる。女性としてうらやむほどの素晴らしい体型である。
エリミアは定かではないけれど、アラブ系の人だと思う。肌を見せたがらず、肉を口にしないし、神様に祈る仕草をよく見かける。そんなふたり(多くはリータ)が騒いでいるのだ。
でも、アーヴィングさんを見つけると、騒ぎは一気に失せた。リータの瞳が一点に固定された。いつもはおしゃべりな口が半開きになっている。アーヴィングさんが足を止めると、彼女はますます目を見開いた。
「やあ、リータ、エリミア。元気そうだね」
アーヴィングさんが声をかけると、明らかにリータの頬が赤く染まった。あ、これはもう完全に、彼女の気持ちがアーヴィングさんに傾いていることがわかる。エリミアまで頬を手のひらで押さえた。
「は、はい!」
リータが跳ねるように元気よく答えると、アーヴィングさんがまた素敵な笑顔を浮かべた。そのせいで、リータは頬を赤らめる。隣にいるわたしの存在は忘れられているようだ。しかし、そう感じた頃にアーヴィングさんは絶妙なタイミングで「行こうか」と先を促した。
彼が歩き出すと、当然、わたしも追いかけなければならない。無の存在だったわたしに突然、視線が移る。リータの視線は体に突き刺さるくらいとても鋭角で痛かった。恋する女の子はわたしみたいな女を相手でも嫉妬するらしい。