槍とカチューシャ(1~50)
第28話『平和な中庭』
シャーレンブレンドへやってきて早1ヶ月、大分、生活も落ち着いてきた。言葉も少しずつ話せるようになってきたし、簡単な文字なら読み取れるようになった。
この1ヶ月の間、言葉や文化をみっちり勉強して、1度もお城の外に出ていない。というのも、夏希に聞いてみた話では、異世界人にはお城の外に出る許可は降りないらしい。たぶん、護衛とか色々と面倒だからかもしれない。
外に出れない分、中庭くらいは自由に歩けるようになっていた。今日は珍しくマリー先生の授業もなく、時間が空いた。気分転換をする意味で木陰に置かれたベンチに腰を下ろすと、揺れる花に目を向ける。
平和だ。そして、鳥のさえずりが耳に心地よい。瞼を下ろしたら、そのまま寝てしまいそう。というか、寝るしかないだろう。瞼を下ろすと、首が勝手にうつむく。寝かけていたとき、ベンチの裏から「マキさん」と聞き慣れた声がしてきた。
「夏希くん」
最近は何かと団長さんからの贈り物を届けてくれる夏希だ。相変わらず贈り物は続いている。それには手紙もついていて、「がんばれ」とか「元気でいろ」とか短いメッセージが書かれていた。
もらった手紙は一応、捨てないで取ってある。団長さんはまーったく好きではないけれど、人からもらった手紙は捨てられない。贈り物はあれからお菓子やケーキだったし、もらうくらいならいいかもと思い始めている。
あまりにもらいすぎて何かお返しを考えているのだけれど、いかんせん、異世界人は無収入である。お礼は「ありがとうと伝えといて」と言うしかなかった。
また、そうなのかと夏希の手元を見たら、何にも持っていなかった。
「今日は団長からのお届け物はありません」なんて苦笑されてしまう。視線があからさまだったらしい。
「じゃ、どうしたの?」
「えーと、休みです。はい、休みをもらって、ふらふらと歩いていたらマキさんを見かけたので」
騎士団も休みがあるのだなあと感心する。実はブラック企業並みに働かされるような想像をしていたのだ。そういえば、夏希は黒い服を着ていない。白シャツが夏希の笑顔をいっそう眩しくしている。
「そっか、ま、となり座りなよ」
「では、遠慮なく」
夏希が腰を落ち着かせると、また、眠気が襲ってきた。目をつむっていると、夏希が「マキさん」と呼ぶ。寝かせてはくれないらしい。
「言葉の方はどうですか?」
「うーん、そこそこかな? 娯楽がない分、勉強するしかないからね」
「確かに。ゲームもテレビもありませんからね。僕も必死でしたよ」
つい5年前にも夏希はこの状況にいたのだ。想像してみるけれど、必死な状況は浮かんでこなかった。
「夏希くんなら、すぐに言葉をマスターしちゃったんじゃないの?」
「まさか。1年はかかりましたよ」
わたしにしてみたら、1年だって十分早いと思う。
「それで騎士団に入るなんてすごいね」
「まだまだしたっぱです。団長に比べれば、僕なんて虫ですよ」
虫ってちょっと言い過ぎだと思う。しかも、何で嬉しそうなんだ。
笑顔を見ている限り、夏希は本当に団長さんを尊敬しているようだった。団長さんの話をするとき、青い瞳が熱っぽくなるのを何度も見てきたし。ずっと、どこにそんな価値があるのか、気になって仕方なかった。
「夏希くんは団長さん、好きだよね。それ、何で?」
「長くなりますが、いいですか?」
ちょっと不安な気持ちになりかけたけれど、聞いてみたかったから「いいよ」と答えた。夏希は「わかりました」と嬉しそうに表情をほころばせて、話をはじめた。
シャーレンブレンドへやってきて早1ヶ月、大分、生活も落ち着いてきた。言葉も少しずつ話せるようになってきたし、簡単な文字なら読み取れるようになった。
この1ヶ月の間、言葉や文化をみっちり勉強して、1度もお城の外に出ていない。というのも、夏希に聞いてみた話では、異世界人にはお城の外に出る許可は降りないらしい。たぶん、護衛とか色々と面倒だからかもしれない。
外に出れない分、中庭くらいは自由に歩けるようになっていた。今日は珍しくマリー先生の授業もなく、時間が空いた。気分転換をする意味で木陰に置かれたベンチに腰を下ろすと、揺れる花に目を向ける。
平和だ。そして、鳥のさえずりが耳に心地よい。瞼を下ろしたら、そのまま寝てしまいそう。というか、寝るしかないだろう。瞼を下ろすと、首が勝手にうつむく。寝かけていたとき、ベンチの裏から「マキさん」と聞き慣れた声がしてきた。
「夏希くん」
最近は何かと団長さんからの贈り物を届けてくれる夏希だ。相変わらず贈り物は続いている。それには手紙もついていて、「がんばれ」とか「元気でいろ」とか短いメッセージが書かれていた。
もらった手紙は一応、捨てないで取ってある。団長さんはまーったく好きではないけれど、人からもらった手紙は捨てられない。贈り物はあれからお菓子やケーキだったし、もらうくらいならいいかもと思い始めている。
あまりにもらいすぎて何かお返しを考えているのだけれど、いかんせん、異世界人は無収入である。お礼は「ありがとうと伝えといて」と言うしかなかった。
また、そうなのかと夏希の手元を見たら、何にも持っていなかった。
「今日は団長からのお届け物はありません」なんて苦笑されてしまう。視線があからさまだったらしい。
「じゃ、どうしたの?」
「えーと、休みです。はい、休みをもらって、ふらふらと歩いていたらマキさんを見かけたので」
騎士団も休みがあるのだなあと感心する。実はブラック企業並みに働かされるような想像をしていたのだ。そういえば、夏希は黒い服を着ていない。白シャツが夏希の笑顔をいっそう眩しくしている。
「そっか、ま、となり座りなよ」
「では、遠慮なく」
夏希が腰を落ち着かせると、また、眠気が襲ってきた。目をつむっていると、夏希が「マキさん」と呼ぶ。寝かせてはくれないらしい。
「言葉の方はどうですか?」
「うーん、そこそこかな? 娯楽がない分、勉強するしかないからね」
「確かに。ゲームもテレビもありませんからね。僕も必死でしたよ」
つい5年前にも夏希はこの状況にいたのだ。想像してみるけれど、必死な状況は浮かんでこなかった。
「夏希くんなら、すぐに言葉をマスターしちゃったんじゃないの?」
「まさか。1年はかかりましたよ」
わたしにしてみたら、1年だって十分早いと思う。
「それで騎士団に入るなんてすごいね」
「まだまだしたっぱです。団長に比べれば、僕なんて虫ですよ」
虫ってちょっと言い過ぎだと思う。しかも、何で嬉しそうなんだ。
笑顔を見ている限り、夏希は本当に団長さんを尊敬しているようだった。団長さんの話をするとき、青い瞳が熱っぽくなるのを何度も見てきたし。ずっと、どこにそんな価値があるのか、気になって仕方なかった。
「夏希くんは団長さん、好きだよね。それ、何で?」
「長くなりますが、いいですか?」
ちょっと不安な気持ちになりかけたけれど、聞いてみたかったから「いいよ」と答えた。夏希は「わかりました」と嬉しそうに表情をほころばせて、話をはじめた。