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槍とカチューシャ(1~50)

第26話『マキの答え』

「“俺の妻となれ”」

 「ツマ」とは妻である。「俺の」とは団長さんを差しているのだろう。つまり団長さんはわたしにプロポーズした。無表情でニヤリともせず、恥ずかしそうに顔を赤らめたりもしない。本当にプロポーズしたのかと、疑いたくなるほどだ。もしかしたら、夏希の通訳が間違ったのかと思った。

「えーと、夏希くん」

「間違いではありませんよ。団長は確かにそうおっしゃいました」

 夏希の顔をしばらく眺めていたら、団長さんのおっさんくさい咳払いが聞こえた。仕方なく、緑色の目に視線を向ける。

「“それで、答えは?”と聞いています」

「お断りです」

「“なぜだ?”」

「なぜって、わたしは団長さんを好きじゃないから」

 理由なんてそれしか考えられない。好きでもない相手と結婚なんてどう考えても無謀だ。

 正直なわたしの答えに団長さんは眉根に力を入れたみたいだった。奥歯を噛み締めてうなる。拳も握って、何かに耐えているようにも見えるけれど、本当のところはわからない。

「“俺もお前など愛していない”」

「はあ? だったら何で結婚の話が出てくるんですか?」

「“強いて言えば、勘だ。初めて会ったときにお前を妻にしたいと思った。ただ、それだけだ”」

「何、それ」

 あんたの勘のせいで、こちらは心をかき乱されて最悪な気分なのに。わざわざ団長室まで乗りこんでこれだよ。相手が騎士団の団長だとか、もうどうでもよかった。ただの失礼な野郎だ。わたしは机から回りこんで、団長さんに近づいた。

「勘で妻にされても困ります」

「“勘の何が悪い?”」

「何が悪いって、わたしのことを何も考えてないでしょ!」

「“考えた。そして考えに考え抜いた末、お前の好きなものを与えた。チョコレートと呼ばれる甘いものをちりばめた平たい菓子や、持ち運びや飾るのに困らない小さめの花束。すべてお前に与えただろう”」

「与えたって、わたしはあんたのペットじゃない」

「“俺も人間ではないものを妻にする趣味はない”」

「アイミ」

 団長さんの口から直接、名前を呼ばれた。これでもう怒りは頂点に達した。


「もう、怒った! あんたの顔なんか2度と見たくない! それとわけのわからないものを送りつけたりしないで!」

 気づいたら、感情のおもむくまま、わたしは団長さんの頬を叩いていた。
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